作品タイトル不明
907話 嵐の前の静けさ
「ここが……魔王城」
準備を整えた後、俺達は魔王城の内部へ突入した。
幼い頃からの先入観のせいか、魔王城といえばおどろおどろしく、不気味な調度品であふれていると思っていたのだけど……
そんなことはない。
汚れの一切がない白い壁と天井。
床は赤い絨毯が敷かれている。
ところどころに花や絵画が飾られていて、優しく、品のある空間が形成されていた。
「にゃん? なんか、すっごく綺麗なところだね」
「驚きだわ。魔王城っていうくらいだから、骸骨が飾られていたり、血の小川が流れていたり、そんなものを想像していたんだけど」
あまり人のことは言えないが、タニアの想像力もすごいな。
「魔族は人と変わらない知性を持つ。ならば、王の住まう城を綺麗に整えるのは当然のことだろう?」
「人間は、魔族を敵とすることで調和を保つ傾向にありました。故に、絵本などで幼い頃から魔族を敵視するための教育を行ってきたのでしょう」
「その結果が、キミらのイメージ、っていうわけだねー」
恥ずかしい話だ。
自分の目で真実を確かめることなく、与えられた情報をそのまま受け入れるなんて。
「まあ、中の様子は私も驚きだったんだけど……でも、誰もいないのはなんでかな?」
シフォンが小首を傾げつつ、そんな疑問を口にした。
てっきり、たくさんの魔族に大歓迎されると思っていたのだけど……
そんなことはなくて、今のところ誰一人、姿を見かけない。
こちらとしては助かるものの、あまりにも都合がよすぎるから、逆に不気味だ。
「ふむ……罠か?」
ラインハルトもわからないらしく、怪訝そうにしていた。
「……カナデ、周囲に人の気配は?」
「んー……たぶん、ないかな? 上の方に、なんかすごーく嫌な感じがするけど、それくらい」
「オフィーリア」
「カナデさんの言う通り、人の気配はありません。とはいえ、魔法などで隠れている可能性は否定できないため、絶対とは言えませんが」
「そして、最上階に魔王がいる……か」
ラインハルトが判断を求めるようにこちらを見る。
柄ではないものの、今、みんなを率いるのは俺だ。
パーティーのリーダーとして、次の行動を決めなければいけない。
間違えることはなく。
そして、正しい選択を選び取る。
「……よし。誰もいないのは気になるけど、それを調査する時間は惜しい」
こうしている間も、表でジルオールやカシオン、王やユウキ、たくさんの人が戦っている。
長引けば長引くほど被害が大きくなる。
「当初の予定通り、まずは結界を展開しよう。ソラ、ルナ、モナ、頼む。他のみんなは、なにが起きてもいいように警戒を」
魔王の力は絶大。
その力を少しでも削ぐために、特殊な結界を展開することを考えていた。
「うむ、わかったのだ」
「ソラ達に任せてください」
「ふふん。ボクの力を見せる時がやってきたかな?」
ドヤ顔を披露するルナとモナ。
それを見て、やれやれと呆れるソラ。
なんだかんだ、この三人、仲が良いのかもしれない。
ソラ達は一歩ほどの間隔を置いて、背中を合わせるようにしつつ、三角形を形成する。
そして両手を組み、祈りを捧げるように目を閉じた。
「我は願う、希望という名の光を」
「我は求める、優しさという名の導きを」
「我は欲する、夢という名の想いを」
三人は同時に詠唱を始めた。
魔法のエキスパートである精霊族が詠唱を必要とするほどの魔法……すなわち、絶級魔法だ。
アルさんは一人で唱えていたものの、ソラ達は、まだその域には達していない。
でも三人で力を合わせれば……
「顕現せよ。光の壁、光の鎖、光の檻。想いを糧に、我が敵を縛る枷となれ」
「それは力なり。全てを戒め、縛り、時間さえも捕まえてみせようではないか」
「故に、我は進む。未来に繋がる道を進む。そのために必要な全てを、今ここに」
『アルス・マグナ……リジェネレイトフィールド』
三人を中心に光が立ち上がり、世界を白に染めた。
それは一瞬で魔王城を飲み込む。
とても眩しいけれど、でも、嫌な感じはしない。
優しい光だ。
温かくて、心地よささえ感じる。
「「「……ふぅううううう」」」
魔法の詠唱が終わり、三人は吐息をこぼしつつ、その場に膝をついてしまう。
「大丈夫か? ほら、ポーション」
「ありがとうございます、レイン……」
「疲れたのだ……」
「でも、これで魔王の力はそれなりに削ぐことができたと思うぜ。ついでに、ボクらもバフがかかり、パワーアップさ」
モナのドヤ顔は、今は頼もしい。
「なら、さらに……」
結界を生成する魔導具をみんなで設置して回る。
さらに、遠隔で発動できる罠を設置。
ダメ押しとばかりに、バフ、デバフが発生する魔導具も置いておいた。
全て遠隔で発動できて……
さらに、効果範囲は広く、魔王城全体に伸びている。
「よし。これで、できる限りの準備はしたな」
後は……前に進むだけだ。