作品タイトル不明
725話 魔族の正体
「この世界には、最強種と呼ばれる種族がいる。特別な力を持っていて、人間を遥かに超えた力を持つ」
「猫霊族、竜族、精霊族、神族、天族、鬼族、呀狼族、不死鳥族、魔族……それと、もう一つ。全部で十の最強種が存在する」
「その中の一つ……魔族は異質な存在だった。強力な力を持つだけではなくて、個体毎に特別な能力を得る。鬼族に近い」
「ただ、魔族は他の最強種と決定的に違う点があった。それは、異質な姿を持つ存在が多い、ということだ」
「ほとんどの最強種は人間に近い姿を持つ。猫霊族然り、天族然り。しかし、魔族は違う。半分の個体は、人間から大きくかけ離れた姿を持つ。その姿は、神話に出てくる悪魔そのものだ」
「残り半分は人間に近いけれど、悪魔のような翼や角を持つ」
「とはいえ、魔族が邪悪な種族ということはない。彼らは穏やかな種族で、争いを好むことはない。人間に対しても友好的で、友であろうとした」
「……しかし、人間は彼らに恐怖した。そのおぞましい外見はなんなのか? その強大な力を、いつか自分達に向けるのではないか?」
「悲しいことだ……魔族は、確かに特異な外見をしているものが多い。でも、それだけだ。その心は、僕達人間となにも変わらない。おいしいものを食べて笑い、友が傷ついた時に涙を流すことができる。そう、なにも変わらない」
「両者の溝は次第に深くなっていき、人間は魔族を恐れるようになった。それが当たり前となった。そんな反応を受けた魔族は……別の大陸へ移動することにした」
「自分達が恐ろしい外見をしているのは確か。それで怯えさせてしまうというのは本意ではない。ならば、自分達は人間から離れて暮らすことにしよう……と」
「両者が交わることはない。これで問題は解決した……そう、誰もが勘違いをした」
「人間は……弱い生き物だった。未熟だった。別の大陸に移動した魔族のことを、それでもなお警戒していた。彼らは、いつか戻ってくるのではないか? 自分達の国を侵略するために、その牙を剥くのではないか?」
「かけ離れた力を持ち、そして、大きく異なる外見を持っているために、魔族に対して常に怯えと疑念を抱いてしまう。違う存在を受け入れることができない。本当に……人間は弱い種族だ」
「そして……戦争が起きた。魔族は、神の敵である悪魔だ。あの外見こそがなによりの証拠……そう公言する国が現れて、平和のためという都合の良い言葉を掲げて、魔族の国に攻め込んだ。他の国もそれに続いた」
「おそらく、この映像を見るあなた達は、世界の敵である魔族が秩序を乱して、戦争を引き起こしたと聞いているだろう。しかし、それは大きな間違いだ。秩序を乱しているのは……人間だ」
「戦争は長く続いた。魔族は強大な力を持つが、個体数が少ない。人間は数で押すことで戦いを有利に進めた。ただ、どちらも決定打を持たず、ずるずると争いが続くことになった」
「人間、魔族……共にたくさんの命が失われて、多くの街が焼けた。悲惨、の一言に尽きる。そんな現状を見て、他の最強種達は仲裁に入った。争いを続けても意味なんてないと、和平を促した」
「魔族はすぐに応じた。元々、攻め込まれているから反撃しただけで、戦争の継続の意思はない。人間は、最初は渋っていたものの、戦争による疲弊は大きく、中止を訴える者が多くなっていたため、和平を受け入れた」
「戦争は終わった。これで平和が訪れる。誰もがそう思った……しかし、惨劇は終わらない。むしろ、これからが本番だった」
「一部の人間は和平を受け入れていなかった。受け入れたフリをして、裏で魔族の殲滅を企んでいた。自分と違う者は受け入れることができない、認めることができない……徹底的な排他主義だ」
「異なる者だとしても、手を取り合うことができる。心を通わせることができる。そのはずなのに……人間は、それを受け入れようとしない」
「そして……最悪の事態が起きた。魔族の王を狙い、魔族のとある街が襲撃されたのだ。和平を結んだ最中の騙し討ちだ」
「魔王を含めて、街で暮らしていた魔族は全滅した。魔王は、反撃をしなかったという。最後まで分かり合おうと、襲い来る人間に語りかけたという。それでも……人間は、異なる種族を受け入れようとしなかった」
「他者を受け入れることができない愚かな人間によって、その街の魔族は滅びた。史上最悪の出来事だ。だからこそ、その後に起きたことは自業自得なのだろう」
「幸いというべきか、一人、生き残りがいた。魔王の娘だ」
「家族を、友を、故郷を奪われた。その怒りと悲しみは決して消えることはない。その怨念が力となり、新しい魔王が誕生した」
「その怨念は決して消えない。次代へ、そしてまた次代へ……ずっと継がれていく」
「そう。魔王の真の姿は、負の感情の集合体だ。魔族の恨み、嘆き、悲しみ、憎しみ……それらが実体を持った存在。それこそが魔王だ」
「そして魔王は人間に戦争をしかけた。当たり前だ。殺さなければ殺される。なら、無抵抗にやられるものなんて、まずいない。仲間も彼女に賛同して、進んで戦場に出た。人間を恨み、憎み、敵視するのは当然のこと」
「そして、二度目の戦争が開かれた」
「魔王の力は圧倒的だった。それだけ深い悲しみと憎しみを背負っているのだろう」
「人間達はどうすることもできず、次々と敗走を重ねていく。今回の結果は人間が招いたこととはいえ、しかし、全ての人間が魔族を疎んでいるわけではない。憎んでいるわけではない。一部の愚かな者の暴走の結果、悲劇が積み重なっている……と、同じ人間としては言い訳させてほしい。魔族にとっては、ふざけるなと激怒するような言い訳ではあるが」
「やられたことをやり返す。魔族は徹底的に街を破壊して、人間を一人残さず狩る。仕方ないといえば仕方ないことだけど、あまりに凄惨な光景に、他の最強種達は以前と同じように仲裁に入ろうとした。憎しみに憎しみを返しても意味はない。なにも生まれない……と」
「それでも魔族は止まらない。理不尽にやられた仲間達が訴えているのだ。仇をとってほしい、恨みを晴らしてほしい……と。それを邪魔するというのなら、同胞であろうと敵だ。全てが敵だ」
「果てしない憎しみによって、魔族は暴走していた。非は人間にあるとわかっているのだけど、これ以上、放っておくことはできない。最強種達は人間に味方して、魔族と戦うことを選んだ」
「ただ……最強種が味方しても、魔族の勢いは衰えなかった。それほどまでに魔王の力は強大だった。魔族の恨みは果てしなかった」
「そして……神が動いた。人間が愚かだとしても、やり直すチャンスは与えたい。それを許すことなく、なにもかも奪ってしまうことは悲しい、と」
「神は人間と契約して、その血を与えた。血を与えられた者は勇者となり、魔王と戦う力を手に入れた。そして……魔王は討伐されて、戦争は終結した」
「しかし、魔王を完全に消滅させることは不可能だった。あまりにその怨念は深く、力で消すことはできない。魔王は負の感情の集合体であり、憎しみという概念そのものになっていた。概念を滅ぼすなんてこと、不可能だ。神にもできることではない」
「だから僕は、せめてもの対策として封印を施すことにした。一定期間で解けてしまうものの、半永久的に縛り続けることができる。そして、再び復活した時の対策として、僕の血を後世に残すことにした。これで、魔王に対抗することができる」
「ただ……それは、終わりのない戦いだ。人間と魔族は、ずっとずっとずっと、永遠に戦い続けるだろう。終わることなく、闘争に身を置くことになるだろう。たくさんの血が流れて、涙が流れるだろう。でも、それを止める術はない。どうすることもできない」
「あるいは、それが人間に対する罰なのかもしれない」