作品タイトル不明
625話 最下層での邂逅
ダンジョンの攻略を始めて二時間くらい経っただろうか?
下層へ突入。
多少、ペースは落ちるものの、難易度の高いダンジョンではないので順調に攻略が進む。
……そして、最下層へ続く階段の前に辿り着いた。
「ここまで来てミナを見つけられないということは……」
「最下層にいる可能性が高い、ということになるな」
ステラが言うように、この奥にミナがいるはずだ。
あるいは、ミナの協力者か……どちらにしても大きな進展があるだろう。
なにが起きてもいいように覚悟を決めて、階段を下り、最下層へ。
そして……
「よぉ」
「……」
見知らぬ男と一緒に、ミナがいた。
俺を見て、やや驚いた様子で目を大きくする。
「レインさん? どうして、あなたがここに……」
「それは俺の台詞なんだけど……俺は、ここにいる勇者、シフォンの手伝いでミナを探していたんだよ」
あえて『勇者』という部分を強調してみせた。
ミナはわずかに苦い顔をして……
しかし、すぐに冷静さを取り戻した様子で、表情を元に戻す。
「なるほど。あなたについては、色々と話したいところはありますが……今は、後回しにしておきます」
「同感だ」
俺も、ミナに聞きたいことはたくさんある。
アリオスのこととか、アッガスのこととか。
どうして、魔族と行動を共にしているのか。
ただ、それはシフォンの役目だ。
あまり俺がでしゃばるわけにはいかない。
今日の俺の目的は、あくまでもシフォンのサポートなのだから。
「あなたが、元勇者パーティーのミナさん?」
一定の距離まで近づいたところで、シフォンは足を止めて、そう問いかけた。
攻撃を警戒して、これ以上は近づかないみたいだ。
「はい」
「そっか。やっと見つけることができた、よかった。私は、シフォン。新しい勇者として任命されているの」
「……そうですか」
元勇者パーティーとしては、新勇者に思うところはあるらしく、ミナはわずかに眉をひそめていた。
ただ、アリオスのように癇癪を起こしたりしないで、話を続けている。
そういう点を見ると、ミナは大人だな、と思う。
「レインくんのことは知っているみたいだから、紹介は省くね。で……こちらは、ホライズン騎士団支部の隊長のステラさん。それと、教会の聖騎士のエリスさん。私に協力してくれているの」
「教会の……?」
教会と聞いて、ミナの顔色が変わる。
いたずらをした子供が親の顔色を伺うような……
そんな表情をして、どこか落ち着かない様子だ。
「ミナさんの隣りにいる男性を紹介してくれるとうれしいかな」
「……彼は、ヴェルグさん。色々と助けてもらっている、協力者です」
「ヴェルグだ、よろしくな」
男は気さくな様子で片手をあげて挨拶をしてみせるが、その奥にある闘気は完全に隠すことができていない。
強く警戒している様子で、なにかあれば即戦闘になるだろう。
それと……
ヴェルグという男、魔族だな。
独特の気配があるというか、常人とは異なる雰囲気というか……
多数の魔族を見てきたからこそわかる、そんな感覚があった。
そのことはシフォンも見抜いたらしく、視線をやや厳しくして、ミナに問いかける。
「その人、魔族だよね?」
「……」
「隠そうとしても無駄だよ。私の使命は魔王を倒すこと。魔族は敵……だから、その敵を見間違えることなんてありえないからね」
「だとしたら、どうしますか?」
「うーん……それは、これからのミナさんの返事次第かな? ストレートに言うと、私はミナさんを捕縛、もしくは討つためにやってきたの」
本当にストレートに言うな。
そうすることで、相手に揺さぶりをかけているのだろう。
そして、こちらを優位に話を進めていく。
シフォンの大胆な話術に感心した。
「でも……まずは、事情を聞かせてくれないかな? 今、なにをしているのか。聞くところによると、魔族と一緒にいるみたいだけど……その理由を教えてほしいの。その内容によって、今後の対応が大きく変わってくると思うから」
やむを得ず魔族と一緒にいるのなら、情状酌量の余地はある。
ただし、魔族に味方をしているのならば……斬る。
そう語るシフォンに対して、ミナはあくまでも冷静に対応する。
「私の目的は……シフォンさん、あなたです」
「私?」
「討伐ではなくて、捕獲するわけでもありません。私とアリオスのことを理解していただきたいのです。そのために奥地で隠れるのをやめて、ここまでやってきました」
「……横からすまない」
どうしても気になることがあり、口を挟んだ。
「私とアリオスと言ったが……アッガスはどうしたんだ?」
リーンは魔族となったため、俺達が倒した。
そのため、彼女の名前が出てこないのはわかるが……
アッガスはどうしたんだ?」
「アッガスは……死にました」
「なっ」
思わぬ言葉を受けて、少なからず衝撃を受けた。
「詳細は……まあ、機会があれば説明します」
「……わかった」
まさか、アッガスが死んでいたなんて。
生きていたとしても、たぶん、ロクなことにならないだろう。
リーンと同じように魔族になっていたかもしれない。
それでも。
元パーティーメンバーの死は、多少なりとも切なく、寂しくはあった。
「えっと……話を戻すけど、理解してほしい、っていうのは?」
「確かに、私はヴェルグさんのような魔族に協力をしてもらっています。しかし、それは魔族の味方となり、人間の敵となったわけではありません。今も人々のために活動を続けています」
「それなら、どうして魔族と一緒に?」
「ヴェルグさん達は、穏健派と呼ばれている魔族で、私達人間との和平を望んでいます」
「えっ」
交渉の場で動揺を見せてしまうのは悪手なのだけど、それも仕方ない。
シフォンだけではなくて、俺も驚いていた。
ステラとエリスも目を大きくして驚いている。
「魔族が……和平を?」
「全ての魔族ではなくて、一部の魔族になりますが……これ以上の争いはしたくないと、平和を望んでいる方がいます。私は、そのための使者として、勇者であるあなたとコンタクトをとるために、ここまでやってきたのです」
「……」
その話は本当なのか?
騙されているのではないか?
そんな疑問を抱いている様子で、シフォンは、迷いを見せた。
……それが隙となる。