作品タイトル不明
626話 決裂
それに気づくことができたのは、ただ単に運が良かっただけだ。
「シフォン!」
「え? ……ひゃ!?」
シフォンを抱き寄せて、そのまま後ろへ跳んだ。
「え? え? レインくん……?」
なにを勘違いしているのか、シフォンは顔を赤くしているが……
さきほどまで立っていた場所を、黒い槍のようなものが貫いて、その顔を青くする。
遅れてエリスとステラも事態を把握した様子で、慌てる。
「二人共、大丈夫ですか!?」
「今、なにが……」
「わからない。わからないが、ステラとエリスも警戒してほしい。特に、影に気をつけてほしい」
影を移動するという、リファが似たような技を使っていたことがあるため、事前に察知することができた。
たぶん、リファがそうしているのと同じように、影からの攻撃を可能としているのだろう。
そして、それを行ったのは……
「なんのつもりだ?」
カムイを抜いて、切っ先をヴェルグに向けた。
「なんのつもりだ、てめえ?」
「それは俺の台詞だ。今、シフォンを攻撃したな?」
「は? そんなこと、なんでしなくちゃならねえんだよ」
「消去法だよ。影から攻撃するなんて魔法、聞いたことがない。ここにいるメンバーでそんなものが使えるとしたら、魔族であるお前だけだ」
「おいおい、決めつけかよ。証拠はあるのか? 魔物が遠隔で攻撃してるだけかもしれないだろ?」
ヴェルグは不機嫌そうに言うものの……
ただ、どことなく楽しんでいるようにも見えた。
こうなることを歓迎しているのか?
あえて口調を荒くして、雑な態度を取ることで疑いを濃くしているように見えるのだけど……
なぜ、そんなことをする必要が?
ミナの協力者だというのなら、誠実な態度を取り、潔白を証明しようとするのが一番のはずなのに。
魔族だとしても、まっすぐな心を持つ者がいることを、俺は知っている。
だからこそ、余計にヴェルグの態度が気になった。
「……」
少し迷った末に、カムイを鞘に収めた。
「納得はしていないが、確かに、証拠はない」
「お、信じてくれるのか?」
「いや、それはないな」
限りなくヴェルグが怪しいが、しかし、強引に事を進めて戦闘を招きたくない。
ヴェルグを警戒しつつ、ミナに声をかける。
「ミナ、そいつと別行動はできないか?」
「え?」
「正直、そいつがなにを考えているかわからない。一緒にいると、今みたいに攻撃されるかもしれない」
「それは……しかし、彼がそのようなことをするはずが……」
「この機会に乗じてシフォンを殺す、っていうことを考えていてもおかしくない……そう疑ってしまうんだよ、こっちは」
「……」
「そいつと別行動をしてくれるのなら、このまま話を続けることができる。できないのなら、悪いが、話は決裂だ。このまま捕縛させてもらう」
軽く振り返り、シフォン達を見る。
勝手に決めてしまったが……
シフォン達は俺に一任するという感じで、頷いてみせた。
「どうする?」
「……」
ミナは迷うように目を閉じた。
そのまま考えること少し……目を開けて、小さく頷く。
「わかりました。まずは、私に敵意がないことを示さないといけません。思うところはありますが、その話に乗りましょう」
意外というと失礼かもしれないが、ミナはこちらの要求を受け入れた。
彼女のことだから、「そのような失礼な話は絶対に無理です」とか、突っぱねると思っていたのだけど……
勇者パーティーではなくなり、リーンとアッガスがいなくなって、考えが変わったのだろうか?
ミナは、素直にこちらにやってこようとして……
しかし、それをヴェルグが前に出て遮る。
「……ヴェルグさん……」
「おっと、行かせるわけにはいかねえな。俺は、あんたに協力するために同行してるんだ。ここで一人で行かせてなにかあれば、面子が立たねえ。そもそも、さっきの攻撃が自作自演っていう可能性もあるだろ」
「え?」
「邪魔な俺を適当な理由をつけて引き離して、あんたを簡単に捕縛……あるいは殺す。なあ、実に楽な作業だよな?」
「ふざけるな。あんな攻撃は……」
「……やはり、下賎な者は」
ミナはこちらを睨み、ヴェルグの後ろに隠れてしまう。
彼の話を信じてしまったみたいだ。
「ってなわけで、交渉決裂だ。ここで死んでくれや。ドラグーンハウリング!」
「なっ」
話が修復不可能なラインを超えたと判断すると同時に、ヴェルグは攻撃をしかけてきた。
「ファイアーボール!」
「メガボルト!」
咄嗟に、俺とシフォンが魔法で迎撃した。
うまい具合に相殺できたものの、土煙が舞い上がり、視界が遮られてしまう。
「ステラ! エリス!」
「ああ、わかっている」
「そちらも気をつけてください!」
ステラとエリスは互いに背中を預けるようにして、狭くなった視界をカバーする。
それを真似するように、俺とシフォンも互いをフォローする。
どこだ?
どこからくる?
いつ、どんな攻撃が来たとしても対処できるように、深く集中する。
「……?」
一分ほど経つが、なにもない。
少しずつ土煙も晴れてきた。
このタイミングで焦らす意味はない。
だとしたら……
「逃げたのか!?」
土煙が晴れると、ミナとヴェルグの姿は消えていた。