作品タイトル不明
606話 最後まで徹底的に
モナの怪しげな実験によって、動物が魔物になっていたこと。
アルさんと協力をして、大きなダメージを与えたこと。
しかし、あと一歩のところでビーストテイマーを名乗るラインハルトが現れて、逃げられてしまったこと。
猫霊族の里に戻り、それらのことをみんなに話した。
「にゃん? レイン以外のビーストテイマー……?」
「レインのせいで、ちょっと認識がバグってるけど……でも、ビーストテイマーは特別珍しい職業じゃなくて、数は少ないけどそこそこいるのよね?」
「ただ、今のレインの旦那を圧倒したってのは、めっちゃ気になるで」
「付け足すのならば、モナがラインハルトを『マスター』と呼んでいたところも気になりますわ。その言葉が意味することは……」
「モナと契約している、ということですね」
最後に、話を締めくくるように、ソラがそう言った。
実はモナは、リースの味方ではなくて、二重スパイだった。
それもかなり驚きの事実なのだけど……
そんな彼女と契約している者がいた。
みんなの言葉を借りるのなら、最強種と契約できる者なんていない。
ごく一部の限られた者だけだ。
事実、他に最強種と契約した者を見たことはない。
でも、ラインハルトはそんなことはなくて……
「ふむ」
一通りの話を聞いたスズさんは、悩ましそうに尻尾を『?』の形にした。
器用なことをするな。
悩んでいるのか遊んでいるのか、ちょっと判断に迷う。
「スズさん達は、ラインハルトのことを知らないですか?」
「私は、ちょくちょく里の外に出ていますが、聞いたことはないですね……ミルアは?」
「うーん、私も聞いたことないかな? そもそも私、あまり里の外に出ないし。あのねあのね、みんなが意地悪して、たくさんの仕事を押し付けてくるの」
たぶん、そうでもしないとタニアを追いかけて、里を出ていってしまうからだろう。
自由奔放なミルアさんに振り回される竜族の姿が思い浮かんだ。
「俺も知らねえな。鬼族は、そこそこのネットワークを持っているが、でも聞いたことはねえ。エルフィンはどうだ?」
「私こそ、ずっと人間と距離を置いてきたので……なにもわかりませんね」
誰もなにもわからない。
正体不明のビーストテイマー。
ラインハルト……彼は、いったい何者なのだろうか?
「……儂は、少しではあるが心当たりがあるのう」
そう口を開いたのは、シグレさんだった。
「む? それは本当か? 妾でさえ、なにも知らぬのじゃが……」
「なに。儂もそれなりに長生きしているからのう。無駄に知識は蓄えておるのじゃよ」
「まあ、確かにシグレが一番長い時を過ごしておるのじゃ。シグレが一番」
『一番』を二度、繰り返す。
自分はまだまだ若いと言いたいのかもしれないけど……
いくらなんでも、ちょっと大人げないですよ、アルさん。
「シグレさん、ラインハルトのことを教えてくれませんか?」
「儂も全てを知っておるわけではない。むしろ、一部じゃろうな」
そう前置きをして、シグレさんはラインハルトについて語る。
「儂がボケてなければ、ラインハルトは数世代前の勇者パーティーの一員じゃよ」
「「「なっ!?」」」
衝撃的な情報が飛び出して、俺を含めてみんなが驚いた。
「それはもしかして、シグレさんが一緒にいたという……?」
「いや、儂と一緒ではなかった。儂の世代よりも、さらに昔のパーティーじゃな」
「さらに昔、って……にゃん?」
「それ、おかしくない? レインの話だと、ラインハルトは二十ちょいくらいなんでしょ?」
「計算が合わないのだ」
最強種なら、数百年を生きることはあまり珍しくないが……
人間でそこまで生きる者は、まずいない。
どれだけがんばったとしても、百年くらいで寿命を迎えてしまうだろう。
「だから、全てを知っているわけではない、と言うたじゃろう」
「それは、まあ……」
「数世代前の勇者パーティーに、ラインハルトというビーストテイマーがおった。ラインハルトは類稀なる才能を持ち、その力でパーティーに貢献をして、魔王を討つことに成功した……儂が知っているのは、こんなところじゃな」
「その後の行方は?」
「わからぬ。表舞台からは、綺麗さっぱりと姿を消したようじゃな」
「……」
ラインハルト。
俺と同じビーストテイマーで、勇者パーティーに在籍していたという。
そして、最強種と契約を結んでいる。
いったい何者なのか?
モナと関わっているところを見ると、魔族側かと思うのだけど……
ただ、本人はそれを否定していた。
それと、数分の邂逅だけど、彼は組織に束縛されるような人に見えなかった。
自分だけの翼を持ち、自由に好きなところへ飛ぶ。
鳥を思わせるような、そんな心を持っているように感じた。
「むう、突然のことに、我はさっぱりだぞ」
「ルナの頭は、いつもさっぱりではありませんか」
「うむ。我の頭はいつも……それはどういう意味なのだ!?」
「ケンカ、だめ」
「「ごめんなさい……」」
ソラとルナのやりとりに、ちょっとだけ場の緊張がほぐれた。
「ノキアさんにこんなことを聞くのはなんですけど……モナについて、なにか知っていることはありませんか?」
モナの被害を一番受けているのは、ノキアさんだ。
彼女なら、モナのやりたいこと、目的について心当たりがあり……
それを知ることで、間接的にラインハルトについての情報を得られるかもしれない。
そう期待したのだけど、ノキアさんは首を横に振る。
「すみません。私にも、そこまでのことは……」
「そうですか……」
「ただ、これは私の推測ですが……モナは、死者蘇生の研究をしていたように思えます」
「死者蘇生を?」
かつての仲間……ミナは、条件が揃えば死者すらも蘇生させられると言われていた。
モナは、そういった神官が使う魔法に興味を持っているのだろうか?
いや。
興味を持っているのはモナではなくて、ラインハルトなのだろうか?
彼の命令で、モナは色々と動いていたのだろうか?
「人の心を操り、動物を魔物に変える。そして西大陸では、劣化コピーではあるものの、死者の蘇生をしてみせた……自分の意志によるものか命令なのか、そこはわかりませんが、モナが死者蘇生に興味を持っていることは確かだと思います」
「言われてみれば、ヤツがまだ里におる時、そういう術書を漁っていたことがあったのう」
「ただ、それがラインハルトの命令なのか、モナの独自の考えによるものなのか、それはわかりませんが……」
「ラインハルト……か」
ただの直感だけど、彼は悪人ではないと思う。
でも、善人でもないと思う。
なにを思い、なにを考えているのか?
そして、どのような目的を胸に抱いているのか?
なにもわからないのだけど、でも、注意しておこうと頭の隅に留めておいた。