作品タイトル不明
433話 カナデの覚醒
「レインっ!?」
レインが吹き飛ぶところを見て、カナデが悲鳴をあげた。
ニーナ、リファ、シフォンも焦るような顔に。
その隙を突くようにして、リーンが暴れる。
超級魔法を軽々と連発して、破壊の嵐を吹き荒れさせた。
ニーナが次々と亜空間の穴を開く。
その数は数十に及ぶ。
それらを盾にして皆を守るが、限界がある。
氾濫した川の濁流を受け止めるようなもので、どれだけ頑丈に守りを固めたとしても、少しずつ少しずつ侵食されて、突破されてしまう。
「くっ、うぅ……」
「だ、大丈夫ですか!?」
傷ついたレインのところにフィーニアが駆け寄る。
すぐに治療をするが、傷は深いらしく、立ち上がることができない様子だ。
それを見たカナデは……
「……ユルセナイ」
頭の中が真っ赤になった。
次から次に激しい怒りが湧き上がる。
その怒りは体を沸騰させて、芯から燃やし尽くしてしまいそうだ。
大事な主。
大好きな人。
ずっとずっと一緒に過ごしたいと、そう願う、世界で一番大事な人。
「うにゃあああああっ!!!」
カナデは怒りのままリーンに飛びかかる。
「ぐっ、なによ、コイツ!?」
「あああああぁっ!!!」
怒りに我を忘れたカナデは、力任せの乱打を繰り出した。
その全てが多重障壁に阻まれるものの、初めて、リーンが守りに専念する。
「ヨクモッ、ヨクモッ!」
カナデの瞳が闇に染まる。
さらに、黒い霧のようなものがあふれだした。
それを見たエルフィンとシグレが険しい顔に。
「いけません!」
「怒りに飲み込まれるでない、戻れなくなるぞ!」
二人は必死に呼びかけるが、カナデには届かない。
大事な人を傷つけられた怒りだけが、彼女を突き動かしていた。
敵を殲滅する。
コロス。
タタキツブス。
怒り、恨みをぶつけるように、拳を振る。
叩きつける。
その力はすさまじい。
リーンが展開する多重障壁にヒビを入れてしまうほどだ。
しかし……まだ一歩、届かない。
「調子に……乗るなっ、このクソ猫ぉっ!」
「っ!?」
カナデの攻撃にタイミングを合わせて、リーンが、再びゼロ距離で魔法を放つ。
無詠唱だからこそできる技だ。
痛烈なカウンターを食らい、カナデが吹き飛んだ。
ゴロゴロと何度も地面を転がり、木の幹に激突して、ようやく止まる。
「うぅ……」
肺の空気、全部を吐き出してしまうような衝撃に、カナデは動けなくなる。
ただ、そうして止まることで考える時間が生まれた。
「私、は……」
なにをしていたのだろう?
怒りに任せて、リーンを殺そうとしていた。
それ以外に考えることができなかった。
でも、それが本当の望みというわけじゃない。
戦うとか殺すとか、そんなことは望んでいない。
本当に望んでいることは、大好きな人の傍にいること。
それと、大好きな仲間達と一緒に笑うこと。
それが一番。
その二つがあれば、それだけでいい。
でも、それを邪魔しようとするヤツがいる。
リーンだ。
彼女は敵だ。
倒さなければならない。
しかし……
「うにゃ……」
怒りが思考をかき乱して、混乱してしまう。
どうすればいい?
どうしたらいい?
カナデは怯えた。
完全に思考が迷子になってしまい、なにをするべきか、方向を見失う。
「……カナデっ」
「あっ」
そんな彼女を元に戻したのは、レインだ。
フィーニアの治療が終わり、なんとか立ち上がる力を取り戻したレインが、カナデに声をかけた。
その名前を呼んだ。
無事だった、生きていた。
安心して、カナデは涙をにじませる。
「カナデさん!」
続けて、シフォンが強く叫んできた。
言葉と目と心で、必死に訴えてくる。
「あなたは間違えないで! 私は、一度、間違えてしまいレイン君達にひどいことをしてしまったけど……でも、あなたはダメ! レイン君の仲間として、間違えないで!」
「にゃー……シフォン」
シフォンの言葉に、思考が今までにないほどにクリアーになる。
怒りに任せて戦うなんてダメだ。
リーンは許せない相手で、どう考えても敵だ。
そう、シフォンの言う通りなのだ。
彼女を殺すために戦っているわけじゃない。
恨みや怒りを晴らすために拳を振るっているわけじゃない。
自分が戦うのは、レインのため仲間のため。
大事な人達の笑顔を守るために戦っているのだ。
そのことを思い出したカナデは……全て、吹っ切れた。
「……」
一度、カナデは目を閉じた。
深く集中して、心と意識を研ぎ澄ませる。
細く鋭い刃のように。
そして……
「にゃんっ!!!」
カナデが目を開く。
その瞳は、金色に輝いていた。
「うにゃあああああぁっ!!!」
「これは……!?」