作品タイトル不明
434話 逆転の第一歩
「あーもうっ、うっとしい。めっちゃ、うっとうしいんですけど!」
リーンは苛立っていた。
自分は最強の力を手に入れた。
魔法を無詠唱で放つことができて、同時使用したり複数を放つことができたり。
おまけに、超級魔法も自由自在に操ることができる。
敵なんていない。
自分こそが絶対的な存在であり、例え最強種であろうと、自分を止めることはできない。
……そのはずなのに。
「んっ!」
「ブラッドシュート!」
「ギガボルトッ!」
ニーナが亜空間を開いて、それを利用した攻撃をリファとシフォンが繰り出してくる。
その威力は大したことはない。
亜空間を通じることで、予想もしない方向からの攻撃を叩き込まれるが、威力が足りない。
リーンの多重障壁を打ち破るには至らず、ダメージを与えることはできない。
それでも、諦めることはない。
ニーナ達は立て続けに攻撃をして……
フィーニアとエルフィンもそれに参加する。
うっとうしい。
自分は究極の力を手に入れた。
最強種なんてものともしない、至高の力だ。
「うっとうしいのよ、あんたらはぁっ!!!」
リーンは獣のように叫びつつ、超級魔法を二つ、同時に炸裂させた。
破壊の嵐が吹き荒れた。
ニーナは咄嗟に亜空間の扉を開いて防ごうとするが、間に合わない。
雷撃と炎撃がニーナを含めて、その場にいる全員を吹き飛ばす。
「うっ……あぅ」
ニーナは起き上がろうとするが、体がそれについていかない。
リファとシフォンもダメージが深刻な様子で、すぐに動けないでいた。
フィーニアとエルフィンも大きな打撃を受けていた。
自力で動くことができず、回復に専念しなければ危ない。
「あはっ、あははは……!」
動けなくなるニーナ達を見て、リーンが笑う。
楽しそうに、うれしそうに、おかしそうに笑う。
「いいざまね! あたしの邪魔をするからそうなるのよっ、あはははっ、ホントいい気味。今、殺してあげるわっ!!!」
リーンは、さらに超級魔法を放とうとして、
「うにゃっ!!!」
「え?」
突然、目の前に現れたカナデに目を丸くした。
「な、なによ、その姿……」
カナデの姿を見て、気圧されるかのように、リーンが一歩、後ずさる。
カナデの瞳は金色に輝いていた。
宝石が陽の光を反射しているかのように、とても綺麗で、神々しさすら感じられる。
右頬に、紋章のような痣が浮かんでいた。
剣と魔法陣を組み合わせたかのような、シンプルなデザインの紋章だ。
だがしかし、このような紋章は見たことがない。
そして、その紋章もまた、瞳と同じように金色に輝いていた。
カナデそのものが発雷しているかのように、バチバチと放電していた。
足、腕、胴……体のあちらこちらを雷電が走る。
一見すると雷以外の何者にも見えないが、それは違う。
カナデの生命エネルギーが爆発的に上昇して、体内に収まりきらず、あふれているのだ。
過剰なエネルギーを体外へ排出。
しかし、無駄に拡散させることなく、身にまとうことで、いつでも再利用できるようにしている。
そんなシステムなのだ。
「にゃー……」
金色の瞳を輝かせて、右頬に紋章を描き、全身を放電させて……
ついでに、尻尾が途中から分岐して、二股になったカナデが……
覚醒状態に移行したカナデが、リーンを睨みつける。
仲間を思うことで、真の力を発揮することができる。
それこそが、覚醒の条件だ。
「いい加減に……」
「ひっ!?」
カナデの圧を受けて、リーンが小さな悲鳴をあげる。
それほどまでに、今のカナデは圧倒的なオーラをまとっていた。
「しにゃさーーーいっ!!!」
カナデが右拳を握りしめる。
すると、体中を巡っていた雷が右腕に収束した。
瞳と紋章を輝かせつつ、雷をまとう右拳で殴りつける。
「ふ、ふんっ。物理攻撃なんて! あたしには、多重障壁が……あああぁっ!?」
バンッ!
ダダダンッ!
ガァンッ!!!
主を守る絶対の盾。
例え、最強種であろうと、その防御を撃ち抜くことはできない。
そのはずなのに……
幾重にも張られた多重障壁は、カナデの一撃で全て粉々に砕かれた。
そのままカナデの拳がリーンに突き刺さり、細い体が盛大に吹き飛ぶ。
カナデはわずかに前かがみになり、ぐっと足に力を込める。
すると、今度は雷が足に収束した。
その状態で地面を蹴ると、砲弾でも撃ち出されたかのように、爆発的な速度で駆ける。
未だ吹き飛ばされている状態のリーンに追いついて、回り込む。
ザァッ! と地面を盛大に抉りつつブレーキをかけて、飛んでくるリーンに向き直り、
「にゃんっ!!!」
雷を足に収束させて、それでリーンを蹴りつけた。
「ふ……がっ!?」
真逆の方向に蹴りつけられて、リーンはおもちゃのように飛び、転がる。
一撃目をもらった後、リーンはすぐに多重障壁を再展開したようだけど、それも、再び全て打ち砕かれていた。
――――――――――
「……す、すごい」
その様子を見ていたフィーニアは、思わずという様子でつぶやいた。
あの力、あの姿。
あれが最強種の真の姿である、覚醒なのだろう。
以前、なにかしらのタイミングで、エルフィンから話を聞いたことがある。
常識を打ち破るような力を持つと聞いていた。
だがしかし、これほどのものなんて。
圧倒的だ。
たった一人の活躍で、一気に攻守が逆転した。
「ワタシも……あんな風になれるのかな?」
憧れの色を込めて、フィーニアが小さく言う。
「ううんっ、なれるのかなんて、曖昧に考えていたらダメ!」
なによりもまず、自分の足で立ち上がり、前に進まないといけない。
がんばらないといけない。
そのことを、レインと一緒にいることで学んだはずだ。
「ワタシも……!」
フィーニアは強い決意を胸に、カナデの援護に向かう。