軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

421話 幻の襲撃者

一見すると、優しく穏やかな笑み。

しかし、その裏に悪意が隠されていることをタニアは知っている。

モニカは、確かに人間だ。

しかし、普通の人間ではない。

時に、最強種である自分達に匹敵するほどの力を持つ。

「お久しぶり……というほど時間は経っていませんね。先のカグネの騒動では、顔を合わせてはいませんが言葉は交わして……あら? そういえば、その時は、タニアさんはいませんでしたね。そうなると、やはりお久しぶりで正解でしょうか」

「ペラペラと……うっさいわね!」

「ちょっ!?」

隣のティナが慌てていた。

それもそのはず。

タニアは問答無用で、いきなり火球を撃ち出したのだ。

街中ということもあり、一応、手加減しているらしい。

周囲の建物に被害を出すことはなく、モニカがいる部分のみを焼き尽くす。

最初からなにもなかったかのように、モニカの姿が消える。

しかし、声は続く。

「いきなり攻撃をするなんて、ひどいですね。念の為に、幻体を用意しておいて正解でしたね」

「ったく、厄介な能力ね……その能力、どこで手に入れたのよ?」

「そうですね……交換条件で教えてさしあげます」

「交換条件……?」

「イリスさん、まだ生きているんですよね?」

「っ!」

モニカは変わらず笑顔のままだ。

優しい顔をしたまま、恐ろしいことを口にする。

「イリスさんを殺させてください」

「あんた……!」

「リーンさんから失敗したという話は聞いていましたが、魂を傷つけたのだから、放っておいても問題はないと思いましたが……もしかしたら、という可能性が出てきましたので」

もしかしたら、というのは不死鳥族の癒やしの能力のことだろう。

その力を以て、イリスが回復するかもしれない。

それを知り、見過ごすことができなくなり、襲撃をしかけることにした……タニアはそう判断した。

しかし、謎は残る。

モニカは、どこで不死鳥族の話を知ったのか?

カグネに現れた時もそうだ。

どこで、アルファのことを知り、接触することができたのか?

どれだけ精密で巨大な情報網を持っているのか。

油断できない相手であると気をつけていたが……甘かったかもしれない。

最大限に警戒しなければいけない、想像よりも遥かに巨大な力を持つ敵なのかもしれない。

それともう一つ。

タニアは知らないが、本来ならば、モニカはここにいるはずがないのだ。

リーンと一緒に北大陸へ移動しているはず。

それなのに、なぜカグネにいるのか?

「それで、答えはどうでしょうか? どのみち、イリスさんは助からないでしょう。ここで見捨てたとしても、タニアさん達が気にする必要はありません。悪い取引ではないと思いますが?」

「ふざけるんじゃ……」

「一昨日出直してくるんやなっ!」

タニアが怒りに叫ぼうとして、それよりも先にティナがキレた。

魔力で光のバットを生成して、フルスイング。

打球を撃つわけではなくて、そのままバットをモニカめがけて投げつけた。

ティナサイズのバットなので小さい。

ただ、魔力で練り上げられているため、鋼鉄よりも固い。

そんなものが直撃すれば、人間であるモニカはタダでは済まない。

さすがに無視するわけにはいかず、体を横に動かして回避した。

ガァンッ! と光のバットが路上のゴミ箱に直撃して、粉々に砕いていた。

それを見たモニカが、やれやれとため息をこぼす。

「こちらは平和的に解決しようとしたのですが、その返事がコレですか」

「どこが平和的なんやボケぇっ! いてこましたるぞ! ○○で××の△△やろなぁ!!!?」

「ちょ、ちょっと……ティナさん? あの……怖いんですけど……」

マジギレして暴言を連発するティナに、タニアはドン引きだ。

思わず丁寧語を使ってしまう。

ただ、気持ちはわからなくはない。

一度、戦っているものの、イリスのことは仲間のように大事に思っている。

そんな相手を殺すから引き渡せ、どうせ気にしないだろう? などと言われたのだ。

それは侮辱に他ならない。

ティナが先に激怒していたものの……

タニアも内心では腸が煮えくり返るような思いだった。

「仕方ありませんね……なるべくなら簡単に済ませたかったのですが、そうもいかない様子。いつかと同じように、私の力、見せて差し上げますね」

「たった一人であたしらを相手にするつもり? 舐められたものね」

「退くのはあんたの方やで。こんな街中で暴れれば、他の冒険者達や騎士達が放っておかないで」

「ふふっ、心配なさらず。すでに結界を展開しているので」

「いつの間に……」

「邪魔者は私の幻に阻まれて、ここにたどり着くことはできないでしょう」

「それでも、二対一っていう数の差は変わらんで?」

「あら、数の優位を得ているのは私の方ですよ?」

モニカは不敵に微笑む。

不意に、その姿がぼやける。

体の線の輪郭が幾重にも増えて、揺れて、広がる。

一人、二人、三人……次々とモニカが増えていき、最終的に十人となる。

タニアとティナは揃って顔をひきつらせた。

「ったく……厄介な能力ね」

「っていうか、反則やろ。まるで、イリスみたいな能力やんか」

「ふふっ、ご安心を。私の能力は、あくまでも幻を作り出し、それを操ること。イリスさんのように、別の世界からもうひとりの自分を連れてくるなんて離れ業はできません。幻体の力はさほどありませんよ」

「そんなことをペラペラ喋るっていうことは、知られても問題ないってことね」

「っていうか、イリスの能力のこと、どこで知ったんや?」

「あら……失言ですね」

珍しく、モニカは眉を潜めてみせた。

油断、あるいは間違った情報を与えるための演技だとしたら大したものだ。

「ふむ」

ティナは考える。

イリスが別の世界から自分を呼び出したのは、ジスの村の戦いの時だ。

それ以降、使っていないと聞く。

あの時、すでにモニカに監視されていたのだろうか?

いや、さすがにそれはないだろう。

不規則に動いていたイリスの動きを予測して、観測する。

そんなこと、神でもなければできるわけがない。

そうなると、あの戦いを見た者の話を聞いたことになる。

イリスと戦ったものは、レイン達、アクスとセル……そして、アリオス達だ。

「まさか、アリオスから聞いたん?」

「……へぇ」

モニカの目が細く鋭くなる。

「今の一言で、すぐにその結論にたどり着きますか。厄介ですね」

「今も変わらず一緒におる、っちゅーわけやな。なんで、あんな勇者と一緒におるん? 一緒にいてもええことなんてないし、破滅だけやろ」

「こちらにも色々と事情がありまして」

「なんにしろ……あんたをとっちめれば、あの勇者の……いや、元勇者の情報も得られるわけやな。がんばらんといかんな」

「そうね。あの元勇者は放っておけないと思っていたし、そろそろ引導を渡してあげないと」

「ふふっ、それができるでしょうか?」

モニカが構える。

タニアとティナも構えた。

「やってみせるわよ」

「押し通るで」

「私の能力は、魔王さまを倒すために生み出された能力……少し、本気でいきますよ」