作品タイトル不明
391話 再び不死鳥族の里へ
とあるダンジョンの手前……再び、俺達は不死鳥族の里にやってきた。
前回のことを思い返してしまう。
顔を合わせるなり、いきなり攻撃をされて……
話を聞いてもらうこともできなかった。
今回は大丈夫なのだろうか?
どうしても心配になってしまう。
「大丈夫さね」
こちらの不安を表情から読み取ったらしく、シグレさんがしっかりとした調子で言う。
「前回はサクラだけだけど、今回は私がいるさね。私の顔を知らない不死鳥族はいないから……まあ、警戒されるだろうけど、いきなり攻撃されることはないさね。話は聞いてもらえると思うよ」
「そうですか……それならいいんですけど」
それにしても、シグレさんって、どういう立場の人なんだろう?
里の長ではないみたいだけど、決闘の時、代表して俺達と戦ったり……
こうして、重要な場面に同行してくれたり……
よくよく考えてみると、大きな権限を持っていて、それでいて多数の人に信頼されているんだよな。
気になるけど……
話を聞くのは後回しだ。
今は、不死鳥族のことに集中しよう。
「ほいさ」
シグレさんがぽん、と扉に触れた。
前回と同じように扉が光、ゆっくりと開く。
「誰かいるかい? シグレだけど」
「えっ、シグレさまですか!?」
奥から聞き覚えのある声が響いてきた。
ぱたぱたという足音と共に、女の子が姿を見せる。
前回、俺達を出迎えてくれて……そして、問答無用で攻撃してきた女の子だ。
「あっ、シグレさま! それに、サクラちゃんも。あと……にん、げん……?」
シグレさんとサクラを見て笑顔になり、次いで、俺達を見てその顔が固まる。
ぷるぷると震えて、すぐに涙目に。
髪がゆらゆらと揺れ始め、赤い光の粒を放つ。
「ぴゃっ、ぴゃあああああっ!? 人間人間人間っ、た、たたた、食べられちゃいますぅ!?」
「落ち着きなさい」
この前の繰り返しか?
なんて危惧を抱いた時、シグレさんが前に出て、女の子の頭を撫でた。
「ふぇ!? あ、えと、あのあのあの……シグレさま?」
「驚く気持ちはわかるけどね。一応、そこの二人は無害だよ」
「で、ででで、でも、人間ですよ……?」
「二人が無害であることは、私が保証するよ。それとも、私の言葉は信じられないかい?」
「い、いえっ! そんな、まさか! シグレさまの言葉を疑うなんて、滅相もないです! というか、ワタシなんかが口を挟めることじゃなくて、あわわわっ」
よくわからないけど、見ていてかわいそうになるくらい慌てていた。
思っている以上にシグレさんがすごい存在なのか、それとも、女の子がそういう性格なのか……判断に困るな。
「フィーニア、なにを騒いでいるのですか?」
さらに一人、不死鳥族らしき人が現れた。
見た目で判断すると、三十くらいだろうか?
背が高く、全体的にスラリとした体つきだ。
かわいいでも綺麗でもなくて、かっこいいという感じの女性。
「奥まで声が響いていましたよ? まったく……私の娘なら、もっと落ち着いてみせなさい」
「ご、ごめんなさい、お母さん……」
どうやら、母娘だったらしい。
よくよく見てみれば、どことなく顔立ちが似ている。
「って……あら、シグレじゃありませんか」
「ひさしぶりだねえ」
「ええ、そうですね。前回のレース以来だから、一年ぶりでしょうか? それと……」
こちらに目が向けられる。
その視線はとても鋭い。
目に力があるのならば、そのまま突き刺さっていたかもしれない。
「なるほど。フィーニアが騒いでいた理由は、こういうわけですか……フィーニア」
「は、はひっ」
「さっきは、厳しいことを言ってしまってごめんなさい。人間が来たとなれば、慌てても仕方ないですね」
「う、ううんっ……お母さんの言う通り、ワタシも、もう少し落ち着くべきだと思うから」
「さすが私の娘。そうなれるように、がんばりなさい」
「は、はいっ!」
厳しい人なのかな? と思ったけれど、そうでもないみたいだ。
叱るべきところでは叱り、褒めるべきところではしっかりと褒める。
そんな人なのだろう。
「それで……シグレ、これはどういうことですか? 人間を里に連れてくるなんて」
「今年のレースの代表を連れてきたよ」
「……なんですって?」
「今年の代表は、私の孫のサクラと……そこの人間の男、レインなのさ」
「すみません、もう一度言ってもらえますか?」
耳が悪くなったかな? というような感じで問い返していた。
ただ、早くも顔が引きつり始めている。
そんな彼女に、シグレさんは、なんてことのないようにサラリと言う。
「今年のレースの代表は、サクラとそこにいる人間のレインさね」
「……冗談ですよね?」
「本気さね」
「そのようなふざけたこと……私達、不死鳥族にケンカを売っているのですか?」
ゴォッ! と怒気が膨れ上がる。
いや……これはもはや殺気だ。
質量すら持つ圧倒的な殺気が、俺とシフォンだけに叩きつけられる。
ともすれば怯んでしまいそうになるのだけど……
でも、そんなことになれば、シグレさんに恥をかかせてしまうかもしれない。
なんとか我慢して、女の人と対峙する。
「へぇ」
やがて殺気が収まり、少しだけ感心したような声がこぼれる。
「ただの人間というわけではなさそうですね。いいでしょう、詳しい話を聞きましょうか。長のところへ案内します」
「助かるよ」
「奥へどうぞ。ああ……一応、言っておきますが、おかしな真似をすればその場で燃やし尽くしますので、そのつもりで」
「えっと……はい」
ものすごい太い釘を刺されてしまった。
これは下手なことはできないな。
いや、元より変なことをするつもりはないけどな?
女の人と女の子……二人の案内で、ついに俺達は不死鳥族の里の中へ。
「へぇ……」
ダンジョンを住居にしているという話だから、失礼かもしれないが、暗いイメージをしていた。
しかし、そんなことはない。
自分達で後から加工したらしく、通路は広く明かりもあり、しっかりとした道になっていた。
時折、広い部屋を通る。
ダンジョンの中とは思えないくらい綺麗だ。
きっと、長い年月をかけて、住みやすいように改築していったんだろうな。
このダンジョンを見れば、不死鳥族の歴史の一端がわかるような気がした。
「少し待っていてください」
とある部屋の前に到着したところで、足止めを食らう。
女の人だけが部屋の中に。
たぶん、ここが長の部屋なんだろう。
俺達がやってきたことを報告して、今後の対応を決める……というところかな?
そして、待つこと十分ほど……部屋の扉が開いて、女の人が姿を見せる。
「中へどうぞ」
いよいよだ。
気を引き締めて部屋の中に入るのだけど、
「あれ?」
なぜか、中には誰もいなかった。