軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

364話 前を向いて

「どうして……!?」

俺の答えを受けて、シフォンがこちらを睨みつけてくる。

理解してもらえないことに、怒りさえ見せていた。

シフォンが剣を構える。

極度の興奮状態にあるらしく、吐息が荒い。

答えを間違えれば、再び斬りかかってくるだろう。

でも。

俺はカムイを構える手を降ろした。

その上で、口を開く。

「だってさ……」

この街に来て、一時、夢に囚われて……

それから、ずっと思っていたことがある。

考えていたことがある。

本当は、アルファさんに話をするつもりだったけど……

でも、今はシフォンに納得してもらわないといけない。

「夢を見ても、幸せになんてなれない。ただ単に、悲しみを先延ばしにしているだけじゃないか」

「そんなことは……」

「そうなんだよ。例え死者が生き返ったとしても……また事故に遭うかもしれないし、病気になるかもしれない。老いもある。必ず、もう一度別れを味わうことになるんだよ」

「それ、は……」

「結局のところ、一時しのぎにすぎないんだ。幸せを味わった分、同じ分の悲しみを味わうことになる。同じことを繰り返すなんて、意味がないじゃないか」

「でも……それでも、また大好きだった人達に会うことができるの……」

「うん、そうだな。それはうれしいことだ」

事実、俺もうれしかった。

父さんと母さんに会えて、涙が出そうなほどにうれしかった。

「でもさ、違うんだよ」

「なにが……?」

「どれだけ辛いことだったとしても、その過去があるからこそ、今の自分がある」

故郷が魔物に襲われて、父さんと母さん、村の人がみんな死んで……

とても悲しくて、ずっと泣いていた。

叶うことならば、生き返ってほしいと何度願ったことか。

でも。

そういう過去を乗り越えて、今の自分があるのだ。

辛いことも悲しいことも、まとめて全部自分の一部なのだ。

「ここで夢を見るっていうことは、それらの過去をなかったことにしてしまう。自分で自分のことを否定するようなこと……そんなの、寂しすぎるじゃないか」

「それは……でも……」

「大事な人の死も、ある意味では、自分を構成する大切なものの一部なんだ。魂に刻まれた記憶といってもいい。それを忘れて、夢に浸るようなことになれば……死んだ人の本当の魂は、報われない」

「……」

「なによりも」

夢を願う人に、一番、伝えたい言葉がある。

アルファさんやシフォンの心に、響かせたい言葉がある。

それを今、口にする。

「夢に浸り、ずっと現実から逃げている姿なんて大事な人に見せられないだろう?」

「っ……!?」

「夢で再会することはできても、その人の魂はそこにない。きっと、神様のところにいて、俺達を見守ってくれていると思う。それなのに、夢にひたり偽りの幸せに浸かる……そんなところを見せて、シフォンはなんとも思わないのか? 俺は、恥ずかしいと思うよ」

「私……は……」

「俺の父さんと母さんは、とても優しい人だ。俺が夢に浸っていても、困った顔はしても、怒ることはないと思う。でも……どうせなら、大事な人にはかっこいいところを見せたいだろ? 現実逃避をする姿じゃなくて、困難な現実に立ち向かう、強いところを見せたい。そうすることで、本当の意味で、父さんと母さんを安心させてやりたい。そうじゃないのか、シフォン!」

「……」

シフォンが構えた剣がゆっくりと降りていく。

うつむいて、視線も下に。

今、どんな顔をしているのだろうか?

なにを考えているのだろうか?

わからない。

わからないけど……言葉は届くと信じて、想いを紡ぐ。

「本当はシフォンもわかっているんだろう? このままじゃいけない、って。前を向いて、歩いていかないといけない、って」

「そんな……ことは……」

「夢に浸り逃げ続けていれば、人は退廃するだけだ。そんな理屈をわかっているし、本当に大事な人の魂に合わせる顔がないという、感情的な話も理解している。シフォンは賢い人だからな。俺があれこれ言わなくても、たぶん、うっすらと気づいていたと思う」

「そんなこと、ないよ……私は、夢を見ることを望んで……!」

シフォンは顔を上げて、こちらを見た。

必死な表情をしていて、それと……

「なら、どうして辛そうな顔をしているんだ?」

「っ……!?」

シフォンは大きく顔を歪める。

泣きたくなるような、怒りたくなるような、逃げたくなるような……

色々な感情が複雑に合わせこまれた顔をしている。

「シフォンだってわかっているはずなんだよ、このままじゃいけない……って。勇者に選ばれるんだから、こんなにも心が弱いはずはない。ただ、ほんの少し、足を止めていただけ」

「私は……」

「だから……そろそろ、目を覚まそう。現実は辛くて悲しくて、泣きたいくらいに無情かもしれないけどさ」

「私は……!」

「でも、それだけじゃないんだ。ちゃんと温かいものがある。優しいものがある。だから……」

「私はっ……!!!」

血を吐くような勢いで、シフォンが叫ぶ。

「っ!!!」

涙をいっぱいに瞳に携えて、こちらを睨みつけてきた。

最後の勝負をする。

そのような感じで、地面を蹴り、一気に距離を詰めてきた。

いいさ。

どうしても感情のコントロールができないというのなら、俺が正す。

シフォンの未練や悲しみ、その他全てを断ち切る。

だから……もう泣くな。

「うあああああぁっ!!!」

魔眼……発動!

「なっ!?」

ビクンッとシフォンの体が震えて、その動きが止まる。

リファとの契約で、俺が魔眼を得たと判明した時……シフォン達は寝ていたから、そのことは知らない。

コントロールに不安があったから、という理由もあるが……

いざという時のために、切り札としてとっておいた。

その判断は正解。

絶好のタイミングで使用することができて……

最適なタイミングで、シフォンの動きを封じることができた。

「今は眠れ」

シフォンの隣を駆け抜けて、すれ違いざまにカムイの一撃を叩き込む。

もちろん、刃の腹で殴り、斬撃は避けておいた。

「……あっ……」

確かな手応え。

シフォンは足から力が抜けて……

「ごめん、ね……レイン君……」

最後に謝り、そのまま気絶した。