作品タイトル不明
337話 リファの能力
補給を終えた後、俺達はカグネに向けて出発した。
旅の目的は、伝説の装備である『彗星の剣』の修理。
シフォン達の使命を考えれば、なるべく急ぎたいところではあるが……
だからといって馬車などを使い、修理に必要なソラとルナがダウンしてしまっては意味がない。
時間はかかるものの、ゆっくりと……しかし、確実に前に進む方法を選んだ。
魔物の襲撃を警戒しつつ……あるいは、時に蹴散らしつつ。
街道を歩き、東へ向かう。
――――――――――
旅を再開して、最初の夜。
街道から少し離れたところにある広場でキャンプをすることにした。
火を起こして、雨をしのぐ簡易テントを設置する。
それから食事の用意をして、焚き火を囲みながら、みんなでごはんを食べた。
「それじゃあ、私達は先におやすみさせてもらうね」
「ああ。見張りは任せてくれ」
「うん、お願いね。おやすみなさい」
「おやすみですー」
「おやすみだぞ」
二つあるテントのうち、その一つにシフォン達が消えた。
まずは、俺達が見張りを担当。
後半はシフォン達の番。
クリオスを出発して以来、そんな感じでローテーションを組んできた。
パーティーの垣根なく、メンバーを混成して見張りにあたれば、連携なども上達するのだろうが……
一時的なパーティーなので、今は、今後のことを考えても仕方ない。
それよりも安全を優先して、慣れた相手と組んだ方がいい、という結論になり、今の形がとられていた。
「むう……今日も見張りなのか。ヒマだぞ」
「ルナ、そんなことを言ってはいけませんにょ」
「にょー、にょー、にょおおお」
「ぐぐぐっ」
噛んだソラを小馬鹿にするような感じで、ルナがニヤニヤと笑う。
「でも、ヒマっていうのは同意ね」
「タニアまでそんなことを……」
「だって、夜に魔物が襲ってきたことなんてないじゃない」
「それはまあ、そうなんだけどな」
昼は速度を出すことを優先して、必要以上に警戒していないため、時に魔物に襲われることがある。
しかし、夜は違う。
暗闇の中に魔物が潜んでいるのではないかと、きっちりと警戒している。
複数の最強種が警戒しているのだ。
そんな中に飛び込むようなバカな魔物はいない。
結果、夜の見張りはあまり意味がない状況になっていた。
「でも、油断した時に襲撃があるかもしれない。しっかりと見張りをしよう」
「わかってるわ。もう油断なんてしないから」
「もう? ということは、以前に油断したことが?」
しっかりと話を聞いたソラが、不思議そうに尋ねた。
タニアが、しまった、というような顔になる。
「な、なんでもないわ」
「気になります」
「我も気になるぞ」
「あ、あたしが油断なんてするわけないじゃない。ありえないわ」
「と言うてるが、実際のところどうなん? カナデ」
「気に、なる」
「にゃー。実はね……」
「カナデ! あんた、変なこと言ったら承知しないわよ!」
みんなが楽しそうに話をする中、リファは黙々と温かいスープを飲んでいた。
ちびちびとスープを飲んで、ほぅっと吐息をこぼして、再びカップに口をつける。
なんていうか……小動物みたいで、見ていると和む。
「あ、そうだ」
ふと思い出した様子で、リファはカップを地面の上に置いた。
それから、こちらを見て尋ねてくる。
「レインに聞きたいことがある」
「うん? 聞きたいこと?」
「レインはボクと契約した。そうだよね?」
「ああ、そうだな。契約したよ」
って……ああ、なるほど。
なんとなく話が見えてきたぞ。
「ボクと契約して、どんな能力を得たの?」
「やっぱり、そういう話か」
ティナの時もあり、この話は二度目なので、なんとなく予想はついた。
「おっ、懐かしい話やな」
「懐かしい?」
「ウチの時も、リファと同じことを言ったんやで。ウチと契約して、レインの旦那はどんな能力を得たんやー、ってな」
「すごく気になる。ボクの能力、役立たずだったらがっかり」
「わかる! わかるでー、その気持ち。ウチも、能力が判明するまではドキドキハラハラバイオレンスやったからな」
最後のバイオレンスは意味不明だぞ。
「どうやって確認したの?」
「……なんやったっけ?」
「あれこれと試してみて、そこそこ時間かかって、見つけることができたんだよね」
「ただ、今はそういうわけにはいかないな」
野営の途中だから、あまり大きな音は出したくない。
魔物を引き寄せるかもしれないし、寝ているシフォン達にも悪い。
「残念」
リファは、残念そうではない顔をして、残念と言う。
感情が表に出にくい子ではあるものの……
こういう時は、本気で残念そうに思っているということを、短い付き合いではあるがなんとなくわかってきた。
できることなら期待に応えたいけど……
さて、どうしようか?
「グルル……!」
その時、あらかじめテイムして、近くで待機させていた犬が立ち上がり、低い唸り声をあげた。
少し離れたところにある茂みを睨みつけて、牙をむき出しにしている。
「リファの能力を明らかにする前に、まずは魔物の相手をしないといけないみたいだ」
通りすがりの人や普通の動物という可能性はない。
犬がここまで敵意を示す相手なんて、魔物以外にいない。
あるいは盗賊か、猛獣の類か……どちらにしろ、敵だ。
「先制攻撃」
リファが親指を噛み、流れる血で弾丸を生成した。
それらを広範囲に展開させた後、高速で射出する。
血の弾丸は茂みに突き刺さり、その奥に潜むなにかを穿つ。
「ギギッ!?」
魔物の悲鳴が聞こえてきた。
今のは、オークだろうか?
みんながいるのに襲おうとするなんて、バカなことを考える。
まあ、オークは知能が低いから、それも仕方ない。
「カナデとタニアは一緒に。ソラとルナはそのまま周囲を警戒。リファとニーナとティナは、なにかあった時に援護を頼む」
指示を出した後、茂みの奥へ向かう。
一応、魔物を倒したかどうか、確認をしておかないといけない。
横から回り込むようにして、茂みの奥へ移動する。
その瞬間……
「ギァッ!」
生き残りのオークが一匹、棍棒を手に殴りかかってきた。
不意を突いたつもりかもしれないが、こちらは、いつ襲ってきてもいいように身構えている。
冷静に対処をすれば問題ない。
気合を入れるように、俺はオークを睨みつけて……
「ギッ!?」
突然、オークの動きが止まった。
金縛りにあったように、指先だけを動かすのが精一杯という様子で、地面に倒れ込む。
「え、なんだ?」
オークだけではなくて、こちらにとっても予想外の事態で……
驚いて、ついつい手を止めてしまう。
なにかの罠ではないかと警戒するが、そういう様子もない。
ひとまず、今のうちにトドメを刺して、魔石を回収しておいた。
「にゃー……レイン、今のなんだったの?」
「あいつ、いきなり動かなくなったわよね? いえ、動けなくなった、って言った方が正しいかも」
「いや、俺にもよくわからないんだが……」
首を傾げつつ、みんなのところへ戻る。
そして、周囲に問題がないことを確認した後、今の話をする。
「……と、いうわけなんだ」
「レイン、おめでとう」
なぜか、リファから祝福された。
「たぶん、それがボクと契約したことで得た能力」
「え? あれが? でも、なにをしたかよくわからないんだけど……」
「レインが得た力は、魔眼だと思う」
「にゃー……魔眼って、睨みつけると、相手を麻痺させたり魅了したりすることができるっていう、あの魔眼?」
「うん、その魔眼」
「マジか」
めちゃくちゃ強力な能力じゃないか。
「ボクは鬼族の中でも珍しい、吸血鬼。吸血鬼は魔眼を持つ者もいる。だから、レインは魔眼を得たんだと思う。ボクは持ってないけど」
「なるほど」
魔眼。
新しく得たこの能力を手に、俺はなにをするのだろうか? どんなことができるのだろうか?
しっかりと考えていきたいと思う。