軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

306話 クリオス

転移門は森の中に繋がっていた。

迷いの森と似たような感じの場所で、深く木々が生えている。

精霊族は自然を好むから、こういうところに転移門を設置する……という説明をアルさんがしてくれた。

「「ライト!」」

ソラとルナが魔法で明かりを作り、足元と行く先を照らしてくれた。

俺が先頭に立ち、蔦や茂みを押し分けるようにして獣道を進み、後続のみんなのために少しでも歩きやすくした。

そうして歩くこと30分ほど。

ほどなくして林道にたどり着いた。

きちんと道が整備されていて、歩くことに苦労することはない。

「えっと、右か左か……」

「こっちなのじゃ」

地図を取り出して位置を確認しようとしたら、アルさんが迷うことなく左を指差した。

「知っているんですか?」

「うむ。クリオスには何度か行ったことがあるのじゃ」

「珍しいですね」

「むっ。お主もルナと同じように、妾を引きこもりのダメダメニートのごくつぶしでどうしようもないダラダラ母と言いたいのか?」

「ルナもそこまでは言ってなかったような……いえ、そういうつもりじゃなくて。精霊族が人の街に行くなんて、珍しいなと」

「ああ、そういうことか。確かに人間の街なんてものに用はないな。じゃが、クリオスは別じゃ。あそこは鬼族もいるからのう。鬼族の知り合いもおるし、妾もたまには顔を見せているのじゃ」

「なるほど」

そんな話をしながら歩くと、20分ほどで林道を抜けた。

林道を抜けるころには空は明るくなり始めていて、視界が一気に広がる。

「あれは……」

遠くに巨大な湖が見えた。

あまりにも巨大なものだから、海と勘違いしてしまうほどだ。

そんな湖の上に建造物が並んでいた。

街だ。

巨大な支柱の上に街が作られている。

「にゃー……すごい」

「クリオスって、湖の上に建てられた街だったのね……」

みんなも驚いているらしく、揃って目を丸くしていた。

「クリオスは特殊な街でな。魔物や獣から身を守るために、ああして湖上に街を作ることで、自然の要塞を手に入れたのじゃよ」

「どうしてアルさんがそんなことを知っているんですか?」

「建設には精霊族も力を貸したのじゃ」

「なんだと」

「そのようなこと、初めて聞きました」

娘二人は知らなかったらしく、再び驚いていた。

「なぜ精霊族が人間のために力を貸しているのですか? 意味不明です」

「クリオスが作られたのはかなり昔じゃからのう。その時は、妾達精霊族も人間とは良好な関係を築いていたのじゃ」

「ということは、あの街は百年以上も昔からあるのか? ほほう、すごいのだ」

「ふふん、妾も建設に尽力したからのう。もっと褒めるのじゃ」

アルさんは得意げな顔をしているが……

この人、ホントに色々なところに関わっているな。

精霊族とは思えないくらい、とても顔が広い。

「さてと……どうやって街中まで行こうか?」

一度、状況を確認しておく必要があるため、街中に移動して代表者から話を聞かないといけない。

街の北と南から伸びた橋が、それぞれ湖の端に繋がっているものの……

そこに魔物が集結していた。

数えるのが億劫になるくらいの数だ。

スタンピードの影響で、今まさに戦いの最中なのだろう。

万には届かないと思うから、無理矢理突破できないことはないが……

俺達の目的はスタンピードの制圧ではなくて、スタンピードを引き起こす何者かを倒すことにある。

ここで余計な力を使い、疲弊することは避けたい。

「にゃー……レイン、レイン。なにか良い方法はないの?」

「そうだなあ……」

「安心するのじゃ。妾に任せるがいい」

どのようにして街中に移動するか考えようとしたら、アルさんが一歩、前に出た。

そのまま自信たっぷりに胸を張る。

「どうするのだ、母上よ?」

「こうするのじゃ」

アルさんがパチンと指を鳴らすと、俺達を包み込むように魔法陣が展開された。

そのまま光に飲み込まれて……

気がつくと周囲の景色は一変していた。

湖から離れたところにいたはずなのに、突然、街中に。

おそらく、クリオスだろう。

「これは……転移魔法ですか?」

「だとしても我らの人数を一気に……しかも無詠唱で……母上はあいかわらず化け物なのだ」

「すごいと褒め称えるといいのじゃ、ふははは!」

アルさんは得意そうに笑っているが……

「お、おい。なんだあいつらは……」

「今、突然現れたよな?」

「もしかして魔物……?」

周囲の人達は突然現れた俺達に対して警戒感を抱いていた。

当たり前だ。

今はスタンピードでピリピリしているだろうに……そんな中、転移魔法なんかで乗り込んでこられたら普通に警戒されてしまう。

まあ、他にうまい方法はなかったのかもしれないんだけど……

せめて一言、相談してほしかったですよ、アルさん。

「えっと、俺達は……」

「リファ!」

怪しい者ではないと説明しようとした時、人混みの中から大きな声が響いた。

人混みをかきわけて現れたのは、リファと同じく角を持つ女性だ。

背丈は俺よりも低いが、女性ということを考えると小さいというわけではない。

その顔はリファとよく似ている。

リファの10年後はこんな感じだろうか?

とても美人だ。

いや、美人というか……男前?

女性にこんな感想を持つことが失礼ということは重々承知している。

しかし、そんな感想を抱いたことは事実なのだ。

鼻はすらりと伸びていて、目はキリッとしている。

凛とした表情で、強い意思を感じられた。

「おうっ、無事に帰ってきたか!」

「ん、ただいま」

リファが前に出て、女性と抱き合う。

知り合い……というか、家族なのだろう。

家族だけに見せるような、穏やかで優しい顔をリファはしていた。

そして、これまでのパターンから言うと……

「お前らがリファをここまで送り届けてくれたのか? ありがとな! 俺はリファの母親のレゾナっていうんだ。よろしくな!」

やっぱりというか、リファの母親だった。

「よろしくおねがいします。俺は、レイン・シュラウド。こちらは……」

みんなの紹介をして……

「久しいのう、レゾナよ」

アルさんの紹介をしようとしたところで、アルさんがニヤリと不敵に笑う。

そんなアルさんに気がついたらしく、レゾナさんは人懐っこい笑みを浮かべた。

「おーっ、おーーー!? 見たような顔があると思ったら、アルじゃねえか! お前、生きてたのか?」

「生きておるわいっ! お主、妾を勝手に殺すでない」

「はははっ、すまんすまん。前に会ったのが何十年も前だろ? ぜんぜん顔を出さねえから、森の奥で干からびてるんじゃねえかな、ってさ」

「妾を干し物みたいに言うでないわ、まったく……」

さすがに干し物扱いされるのは我慢ならなかったらしく、アルさんはふくれっ面になった。

しかし外見が外見なので、子供が拗ねているようにしか思えない。

「おー、よしよし、悪かったな」

「妾の頭を撫でるでないわ!」

レゾナさんがアルさんの頭を撫でた。

こうして見ると、大人と子供だ。

とても同じ母親とは思えない。

「で、なんでアルがこんなところいるんだ? 迷子か?」

「んなわけあるか! 妾達は、お主らの救援に来たのじゃ!」

「おっ、マジか!? アルが力を貸してくれるなら百人力だ! リファ、よくやったな。まさか、助っ人としてアルを連れてくるなんて思ってなかったぜ」

「違う」

「ん? なにが違うんだ?」

「ボクが連れてきた助っ人はレイン。アルはおまけ」

「お、おまけ……」

無自覚なリファの毒舌にアルさんが地味にショックを受けていた。

「レイン、こっちへ」

「あ、ああ」

アルさんのことが気になりつつも、ひとまず放置して、リファに呼ばれるままレゾナさんの前に立つ。

「レインが助っ人」

「んー? この人間が? マジでこいつなのか?」

「ん、マジ」

「強そうには見えねえんだけどな……」

「レインは強い。ボクが保証する」

「ほう」

リファの言葉を聞いて、レゾナさんの口元が笑みの形を作る。

それからじっとこちらを見つめてきた。

視線と視線が交差する。

妙な圧を感じるが、目を逸らすのは失礼と思い、まっすぐに見返した。

ほどなくしてレゾナさんは満足したように頷く。

「よし! いいぜ。おまえさんを信用する。娘がここまで言うなんて珍しいからな、って……いやいや、この言い方じゃ礼を欠いてるな。すまん。俺らを……この街を助けてくれ!」

「えっ、いや……」

レゾナさんが頭を下げた。

突然の行動に慌ててしまう。

でも俺がするべきことはうろたえることではなくて……

ここまでして、きちんとした誠意を見せるレゾナさんにしっかりと応えることだ。

「全力を尽くします」

「助かるよ!」

レゾナさんが笑顔で手を差し出してきて……

俺も笑顔になり、その手を握り返した。