作品タイトル不明
278話 帰郷
家でティナ特製の昼ごはんを食べて……
その後、みんなでのんびりとお茶を飲む。
「にゃちっ!?」
湯呑に口をつけたカナデが、ピーンッと尻尾を高くした。
「あっ、すまんで。熱かった?」
「ううん、大丈夫。私、猫舌だから……ふー、ふー」
あちちち、と熱いお茶に苦戦するカナデを見ていると、なんだか、いつもの日常に戻ってきたなあ、という感想を抱く。
他のみんなも、どことなくほっこりした様子だった。
「レイン、ちょっといいか?」
「どうしたんだ、ルナ?」
「ちょっとお暇がほしいのだ」
「お暇か。うん、なるほ……えっ!?」
突然の爆弾発言に、思わず大きな声をあげてしまう。
何事!? というような感じで、みんなも驚いていた。
「お暇、って……えっ、えっ!? その……俺、何かやらかしたか? それとも、不満を抱えていたとか……待ってくれ、ルナ。まずは話し合わないか?」
「むぅ? なにをそんなに慌てているのだ?」
「慌てるに決まっているでしょう、このアホ妹……略してアホうと!」
「ふぎゃ!?」
ソラのげんこつがルナの頭に落ちた。
「お、おおぅ……頭がくらくらするのだ。星が見えるのだ……」
「まったく……すみません、レイン。変な勘違いをさせてしまいました。この子はただ、休みが欲しいと言うつもりだったんです」
「そ、そうだったのか……ほっ」
「だから、なんでそんなにレインは慌てているのだ?」
「いや、お暇が欲しいなんていうから……てっきり、パーティーを抜けるのかと……」
「む? なんで我がパーティーを抜けなければならないのだ? そんなこと、欠片も考えていないぞ」
「ですから、さきほどのような言い方だとそう捉えられてもおかしくないんですよ!」
「みぎゃん!?」
再びソラのおしおきげんこつが炸裂した。
ルナは涙目になり、頭を両手で押さえる。
「うぅ……我が姉はバイオレンスなのだ。妹はかわいがらないといけないのだぞ?」
「かわいげのない妹は躾けなければいけません」
結局、どういうことなんだ?
軽く混乱していると、ソラが代理人として説明をしてくれる。
「すみません。ルナが妙なことを言って、混乱させてしまいました。一週間ほどお休みをもらえたら、と思ったんです」
「それは構わないけど……どこか行くのか?」
「えっと……」
ソラが気まずそうな感じで目を逸らした。
何か隠し事をしているみたいだ。
妙に気になる。
「ソラ、何か隠し事をしていないか?」
「そ、それは……」
「困り事があるっていうのなら、きちんと話してほしい。何か力になれることがあるかもしれないし、相談に乗ることもできる。俺達、仲間だろ?」
「……そう言われたら、黙っておくことはできませんね。本当は、ソラ達だけでなんとかして、レイン達を巻き込むつもりはなかったんですが……」
ソラが一度、お茶を飲む。
熱いお茶を飲んだことで気持ちが落ち着いたらしく、やや表情が柔らかくなった。
「えっと……一度、帰郷をしようと思ってまして」
「帰郷ってことは……精霊族の里に?」
「はい」
神妙な顔をするから、とんでもない話が出てくるのではないかと身構えたのだけど……
なんてことはない、普通の話だった。
……と、安堵したのだけど、本題はここからだった。
「実は、母さんから連絡がありまして」
「アルさんから?」
懐かしい名前が出てきた。
あれ以来、顔を合わせていない。
たまには挨拶をしておかないといけないかもしれない。
「たまには故郷に帰ってきて顔を見せなさい、とか?」
「いいえ……王都に赴いて謝罪と賠償を求めるから、証人として付いてきてほしい……と」
「は?」
謝罪と賠償……って、ど、どういうことだ?
驚く俺を見て、ソラは、驚いて当たり前ですよね、とどこか諦めたような顔をしつつ、話を続ける。
「実は……先の一件で、ソラ達が捕まり、処刑されそうになったことを、どこからか母さんが聞きつけたらしく」
「母上、ものすごく怒っていたのだ……魔法を使った声だけの通信だったのだが、すさまじい気配だったのだ……ガクガクブルブル」
母の怒りを思い出したらしく、ルナが顔を青くして震えていた。
それほどまでに、アルさんが怒るととんでもないのだろう。
先の一件の戦いの最中、ソラがぶちキレていたと聞くが……
怒ったら怖いというところは、母親譲りだったのかもしれない。
「それで、母さんは猫霊族と竜族……つまり、スズさんとミルアさんに連絡を取り、問題を共有して……」
「げっ」
思わずそんな声を漏らしてしまう。
スズさんは、わざわざ里に連れ戻そうとするくらいにカナデのことを大事にしている。
アルさんはやや放任気味なところはあるが、なんだかんだで、ソラとルナのことを大事に想っている。
ミルアさんは……タニアのことを溺愛している。
そんな三人が先の一件を知れば、どうなるか?
「母さんなら……王都に攻め込むかもしれないわね」
「にゃー……うちのお母さんも、ここぞとばかりに便乗するかも」
「みんなの母親って、物騒すぎへん……?」
ティナが顔をひきつらせていた。
たぶん、俺も顔をひきつらせていると思う。
アルさん達、それぞれの種族の頂点に位置する最強種が王都に攻め込んだりしたら……
これ、冗談抜きで王都が壊滅するかもしれないぞ。
ソラとルナも同様の危惧を抱いているらしく、困った顔をしていた。
「今、精霊族の里に集まり、今後の方針について話し合っているみたいです。なので、ソラとルナがそこへ赴いて、バカなことはしないでくださいと説得するつもりでした」
「心配してくれるのはうれしいし、怒ってくれるのもうれしいのだが……さすがに、王都に攻め込むのはやりすぎなのだ」
「まあ……な」
アルさん達の怒りは十分に理解できるつもりだけど……
だからといって、王都に攻め込むなんてことは勘弁してほしい。
「間違いなく面倒なことになるので、ソラ達だけで行こうと思っていたのですが……」
「それは……違うと思う、よ?」
思わぬところから異論が出た。
ニーナだ。
じっとソラを見つめながら、たどたどしい口調ながらも、必死に話す。
「わたしたちの……みんなの問題だと、思うから。あと……面倒なんてこと、思わない……よ? だって……仲間、だもん」
「そう、ですね……はい、ニーナの言う通りです。ソラが間違っていました」
「うむ……ぶっちゃけ、我らで説得できるかどうかわからないところもあったから、みんなが来てくれると助かるのだ」
「もちろん、私達もついていくよ! お母さんにバカなことをするなって、言ってやらないと」
「母さんはあたしに甘いから、あたしがやめて、とか言えばちゃんと聞いてくれると思うわ。その点では、あたしが一緒に行った方がいいことは確かね」
「もちろん、俺も行くよ。そんなこと、ソラとルナだけに任せておけないからな」
……そんなわけで。
俺達の次の目標、目的地が決まった。
場所は精霊族の里。
そこで暴走しつつある、カナデ、タニア、ソラとルナ……三人の母親を止めることだ。