作品タイトル不明
1196話 忽然と消えてしまう
「……」
みんなの話をまとめると……
最後にルリが足を運んだのは書庫。
もちろん確認したけど、しかし、ルリの姿はない。
ただ、ミルアさんが家の前にいたため、一人で外に出た可能性は低い。
のんびり日光浴をしていたとしても、ミルアさんがルリを見逃すことはまずありえないと思う。
「ちょっと母さん、この家に隠し扉とか作ってないでしょうね? あるいは、足を踏み入れたら異次元に飛ばされるトラップとか」
「そんなものないよ? タニアちゃんは、お母さんをなんだと思っているのかな?」
「ちょっとおかしいドラゴン」
「酷い!?」
ミルアさんが、よよよと泣き崩れる。
どこでそんなことを覚えたのだろう?
「それにしても……」
話を聞いた感じ、ルリが一人でどこかに、という可能性はとても低いように思えた。
というか、ない。
ただ、そうなるとルリが忽然と煙のように消えてしまった、ということになるのだけど……
偶然、で片付けられるような問題じゃない。
必然……誰かルリを連れ去った犯人がいる、と考えた方がいいだろう。
でも、どうして?
なんのために?
「失礼」
頭を悩ませていると、表の方から声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声。
でも、親しみなどは感じられない声。
その声の主は……
「……ランデリオン……」
さきほど話をしたばかりの相手だった。
「少しいいだろうか?」
「はい、なんですか?」
今はこうして話をしている時間も惜しい。
その間にルリになにかあったら、と危惧してしまう。
とはいえ、大きな派閥の長であるランデリオンに適当な対応を取るわけにはいかない。
「貴殿は、特殊な幼子を連れてきたらしいな」
「……はい、そうですね」
「人づてにではあるが、その幼子が消えたと聞いている」
「どうして、そのことを?」
「すまない、盗み聞きをするようなことになってしまい。そこは謝罪しよう。しかし、ここは竜族の里で、私の庭のようなもの。他愛のない話はそうでもないが、事件性のある事柄だとしたら、自然と耳に届いてしまうのだよ」
「……なるほど」
「先の挽回というわけではないが……困っているのならば、どうだろう。私達も協力をしようと思うのだが……」
こいつ……
真剣に心配する……フリをして、よくもまあ、ぬけぬけと言える。
反射的に拳を強く握りそうになるものの、それすらもこちらの心を見透かされてしまいそうで、ぐっと耐えた。
なにも知らないフリ。
なにも気づかないフリ。
そんな心の仮面をかぶり、考えるような間を挟んでから答える。
「はい、そうしていただけると、とても助かります」
「では……」
「ただ。今はまだ、なにが起きたかわからないので……もう少し仲間と話し合い、話をまとめてからでもいいでしょうか?」
「ああ、もちろん問題ないとも。しっかりと話し合うことは大事だろう。そうすることで、新しい情報や新しい視点が出てくることもある。先も言ったが、困ったことがあれば私に相談するとよい。グローヴェインの謝罪の意味も含めて、全力で対応しよう」
「ありがとうございます」
俺は軽く頭を下げて、立ち去るランデリオンを見送る。
その背中が見えなくなったところで、
「ぐっ……!」
どうしようもない怒りがこみ上げてきた。
それに流されて壁を叩こうとして……
しかし、どうにかこうにか耐えた。
落ち着け、俺。
怒りに流されてそんなことをしても、みんなを不安にさせるだけだ。
それよりも、これからどうするか、しっかりと考えるべき。
「レイン、どうしたの……?」
タニアが心配そうに声をかけてきた。
タニアの優しさを感じることができて。
そのおかげで、少しだけ落ち着く。
「ランデリオンがもうルリのことを知っていたのは驚いたけど……でも、そこまで悪そう、っていうヤツでもないし。この際、協力をしてもらう、ってのもアリじゃない? 実際、ランデリオンの派閥は大きいから、力を貸してくれたら簡単にルリを見つけられるかも」
「……いや、それだけはダメだ。というか、絶対にありえない」
「どうしてよ?」
タニアが不思議そうに小首を傾げた。
話を聞いている他のみんなも不思議そうだ。
俺が、ここまでランデリオンを拒絶する理由。
彼はまともな竜族のはずなのに、協力をありえないと言う理由。
それは……
「たぶん……ルリが消えたことにランデリオンは関係している」