作品タイトル不明
1094話 唐突ぅ
ゼクス、フィアの邪教徒の大神官と遭遇して、数日。
あれから、特に大きな事件は起きていない。
なにかしらの異変もない。
進展はないけど、後退もなくて……
なんともいえない微妙な日々が続いていた。
「にゃーん」
「……しゅた」
「にゃー」
「……たたた」
リビングのソファーに、カナデとルリが並んで座り。
カナデが尻尾をゆらゆらと揺らして、ルリがそれにじゃれついている。
ルリが猫化した……?
「レインよ」
呼ばれて振り返ると、ルナとソラがいた。
「我らは、ちと出かけてくるのだ」
「精霊族の里に行ってくるので、数日、家を空けると思います」
「了解。でも、どうして精霊族の里に?」
「邪教徒の調査が行き詰まっているのであろう? 我らが母上ならば、なにかしら知っているかもしれん」
「母さんだけじゃなくて、長や他の人も、色々と聞いて回ろうと思っています」
確かに、アルさんならなにか知っていそうだ。
長も長く生きているらしいから、俺達にはない視点でものを考えることができると思う。
「そういうことなら……」
「レイン達は、家で待っていてほしいのだ」
一緒に行こうか、と言おうとして、先に待ったをかけられてしまう。
「留守の間になにか起きないとも限らないであろう?」
「ライハとルリと一緒に、待っていてください」
「……わかった。ソラとルナも、気をつけて」
「ふっはっはっは! 我は無敵だから、なんの心配もいらないのだ。具体的にいうと、体のとあるところが鉄壁の守りだからな!」
「ルナ……そういう自虐は止めてください。聞いていて、とても悲しくなります。あと、ソラもダメージを受けてしまいます」
「正直、すまんかった」
二人はいつもの調子で、家の奥に設置されている精霊族の里に繋がる門を潜っていった。
あの様子なら心配はいらないかな?
向かう先は精霊族の里だから、さすがに、そこまで邪教徒の手は及んでいないだろう。
「二人がいないと、静かになっちゃうねー」
「……寂しい」
「数日って言ってたから、すぐに帰ってくるさ。それより、俺達は俺達で、なにか調査をしておきたいところだけど……」
邪教徒についての情報は、まだまだ足りていない。
どこから手をつければいいものか?
先日、捕らえた邪教徒達も、ゼクスに口封じをされてしまった。
再び手がかりはゼロ。
小さな情報は集まっているものの、それだけ。
連中の次の目的とか、組織の規模とか、詳細な情報を一切持たないから、次にどう動けばいいか迷う。
「うーん……どこからどう手をつければいいか、難しいな」
「そのように迷われている時は、焦らず、まずは落ち着いた方がよろしいかと。そのために、お茶などいかがでしょうか?」
「そうだな、お願いしようかな」
「かしこまりました。すでに準備は終えているので、こちらをどうぞ」
「ありがとう……うん、美味しいな」
「恐縮でございます」
「ティナが淹れてくれるお茶も美味しいけど、コハネが淹れてくれるお茶も、また別の味がして美味しい……って、コハネ!?」
いつの間にかコハネがいた。
本当に唐突だったので、本気の驚きの声がこぼれてしまう。
「にゃ!? い、いつの間に……?」
「はふぅ……なんすか。せっかく昼寝をしていたのに、大きな声が……あ、コハネっす」
昼寝をしていたライハが起きてきて、同じく驚いていた。
みんなに見えているということは、幻とかそういうものではなくて……
「いったい、いつの間に帰ってきたんだ……?」
「色々と調整が済みましたので、今しがた。帰還には、転移装置を使いました」
「それならそうと、声をかけてくれればいいのに」
「主さまの驚く顔が見たく……ふふ、どうだったでしょうか?」
「驚いたよ、すごく。でも……」
コハネが帰ってきてくれた。
嬉しくて、彼女の頭を撫でる。
「おかえり、コハネ」
「え、あ……は、はい。ただいま戻りました、主さま……」
赤くなり、照れる。
うん、可愛い。
とても落ち着いていて、穏やかなコハネだけど……
でも、とても女の子らしく、可愛らしいということを俺は知っている。
彼女と契約を交わしている特権というか。
……というよりは、恋人の特権なのかもしれない。
「ところで……」
コハネの視線がルリに向いた。
ルリは、ビクッと震えて、俺の後ろにタタタと隠れる。
「そちらの可愛らしいお嬢様は、もしや、主さまとカナデさまのお子様……?」
「そう! ルリちゃんは、私とレインの愛の……」
「色々とあって、一緒に暮らすことになった、新しい家族だよ。みんなの妹のような感じかな?」
さらっと事実を捻じ曲げようとするカナデを牽制して、そう言った。
「アニキがたらしこんできたっすよ」
「まあ、主さまが?」
「違う。言い方」
家に招いたのはそうだけど、でも、たらしこむだと言い方が悪い。
「こんにちは」
「……」
コハネは笑顔で挨拶をするものの、ルリは応えない。
人見知りを発揮しているみたいだ。
ただ、ここ最近、色々とあって成長しているらしく……
「……こんにちは」
ややあって、小さな声で挨拶を返した。