作品タイトル不明
1092話 いつまでも家族
「私……レインの敵になるのかな?」
ルリは自分を抱きしめつつ、小さな声で言う。
「どうして、そんなことを思うんだ?」
「だって、レイン達は、あの人達と戦うんでしょ? なら、私も……」
「バカだな、ルリは」
ルリの頭を撫でた。
「レイン……?」
「確かに、あいつらとは戦うことになるかもしれない。でも、それがどうして、ルリが敵になる、っていう話になるんだ?」
「だって、私は……」
「あいつらと同じとか、似ているとか。そういうところはあるかもしれないけど、でも、そんなことは関係ない。というか、あいつらは、半分は人間で半分は最強種で……なら、俺もそうだし、カナデ達も似ていることになる。違うか?」
「……違わない」
「なら、似ているとか同じとか、それは関係ないさ。それよりも大事なのは、ルリがどうしたいか、っていうことじゃないかな」
「私が……」
ルリは、その発想はなかった、という感じで目を大きくした。
「ルリがどんな存在だとしても。その行動を決めるのは、ルリ自身だ。ルーツや環境に左右されるようなものじゃない。なにをしたいか、だ」
「私が……決める?」
ルリは、恐る恐る言う。
「私が決めて……いいの? そんな大事なことを、私が決めるなんて……」
たぶん。
ルリは、周りにいる大人達に利用されて。
自分の意思を持つことができないような環境に置かれて。
物事を決定することができないようになってしまったのだろう。
そんな環境を作り出した者達に怒りを覚えるのだけど……
ただ、今は、その怒りは抑えておく。
ルリの方が大事だ。
「いいんだよ、ルリが決めて」
「私が……」
「誰かに強制されるようなことじゃない。自分の道は自分で決めるものだ」
「レインや、みんなも……違う?」
「そうだな。相談とかは乗るけど、でも、最終的に決定するのはルリ自身だ。そこに、誰かの意思が介入するなんてこと、あっちゃならない」
「……」
「ルリはどうしたい?」
「私は……」
答えが見つからない様子で、ルリは言葉に迷う。
少し急ぎすぎたかな?
自分で物事を決めていい、と知ったばかりで。
さあ、すぐに実践してみせろ、というのは酷な話だ。
「明確な目的とか、そういうのはなくていいよ。とりあえず、っていう感じで……なにがしたいか、なんとなくで考えてみるといいさ」
「……なにがしたい……」
ルリは、じっと考えた。
考えて。
考えて。
考えて。
こてん、と小首を傾げる。
「……よくわからない」
「そっか」
「でも……」
ルリは、じっとこちらを見た。
「レインと一緒にいたい」
「うん」
「カナデ達、みんなと一緒にいたい。たぶん……それが今、私のやりたいこと」
「決まりだな」
もう一度、ルリの頭を撫でた。
ルリは、猫のように目を細くする。
「なら、一緒にいよう」
「いいの?」
「もちろん。前にも言ったけど、俺もみんなも、ルリと一緒にいたいから。で、ルリも一緒にいたい。なにも問題はないさ」
「そもそも」と間を挟んで、さらに続ける。
「ルリは、もう家族みたいなものだから」
「……家族……」
「みんなの妹、っていう感じかな?」
「……妹……」
つぶやいて。
小さな笑み。
「なんか、嬉しいかも」
「そっか」
その後は、特に会話はなくて。
ただ、一緒にいるだけの時間を過ごして。
一緒にいるだけで癒やされるような、そんな優しい時間だった。
――――――――――
翌朝。
「あ、レイン。ルリちゃん、おはにゃー!」
「おはよう、カナデ」
「おはよう」
「レインは、トーストはバターにする? それともジャム?」
「ジャムにしようかな」
「ルリちゃんは?」
「……お兄ちゃんと一緒で」
「はいはい、お兄ちゃんと一緒で……にゃんですとぉ!!!?」
……色々と誤解と騒動が起きたものの、それはまた別の話。