作品タイトル不明
1086話 ゼクス
「これは……」
騎士団ホライズン支部が燃えていた。
業火が渦を巻いて、空にまで届いている。
火の粉が舞い、周囲の建物に飛び火する。
被害がどんどん増していくのだけど、しかし、消火にあたる人はいない。
消火をしたくても、できないのだ。
「うん。いい感じに燃えているな。これは、我ながらいい仕事したんじゃないかな? そうだねぇ……八十点をつけようじゃないか」
一人の男がいた。
中性的な顔で、女性と間違えてしまいそう。
ただ、色気があるというよりも、芸術的な感じで綺麗、という印象だ。
体は細く、歳も若く見える。
俺と同じくらいだろうか?
白を基本とした衣服は、一般には見られないもの。
教会の神父、神官が着るものに近いデザインだ。
ライハの言っていたことを、ものすごく強く意識してしまうのだけど……
なにも情報がない中、勝手な決めつけは色々とまずい。
今はライハの言葉を考えないで、最大限に警戒しつつ、男に声をかける。
「ちょっといいか?」
「うん? なんだい、キミは?」
「この街の冒険者だ。ここで、なにを?」
「ゴミ掃除さ」
「ゴミ掃除……?」
「簡単に敵に捕まっただけじゃなくて、ぺらぺらと情報を話すようなゴミがいたらしいからね。掃除をしに来た、っていうわけさ」
「……それは、先日、捕まえた邪教徒のことか?」
「そういう認識で問題ないよ。ああ、そうそう。ただ、邪教徒っていうよりは、ジ・ゼセル教って呼んでほしいかな? やっぱり、きちんとした名前で呼んでくれた方が嬉しいからね。ほら。キミも、そこの男って呼ばれるよりも、名前で呼んでくれた方が気分がいいだろう? それと同じさ」
この男は、邪教徒で確定だろう。
そして……
たぶん、ライハが言っていた大神官なのだろう。
「口封じのために仲間を殺したのか?」
「仲間? おいおい、バカを言わないでくれ。足を引っ張るだけの無能なんて、仲間じゃないだろう? そんなのはゴミだよ、ゴミ。そして、ゴミは燃やすもの。うん? 僕は、なにかおかしなことを言っているかな?」
「お前……」
背中がぞくりと震えた。
この男は、傲慢なのではなくて。
他者を見下しているわけでもなく。
心の底から真面目にそう感じて、そう考えて、今の発言に至っている様子だった。
仲間だとしても、役に立たないのなら殺す。
それが当たり前のことで、そこになにも問題はない。
そんな思考を持つなんて、どれだけ歪んでいるんだ?
ライハの言葉の意味をようやく理解した。
この男は、おかしい。
人として欠けてはいけないものが欠けている。
「ああ、そうそう。自己紹介を忘れていたね。すまないね、仕事に夢中になっていたよ」
男は優雅に礼をする。
「はじめまして。僕は、ゼクス。ジ・ゼセル教の大神官が一人だ。ちなみに、序列は六位だ」
六位ということは、最低でも、似たようなヤツが他に五人いる、っていうことか?
最悪だ。
「……レイン・シュラウド。冒険者だ」
「カナデだよ」
一応、俺達も名乗っておいた。
相手に合わせる必要はないのだけど……
一応、俺達の名前も、それなりに知られている。
それを聞いて、ゼクスがどんな反応を示すか?
それもまた、貴重な情報になる。
「へぇ……キミがあの。なるほど、なるほど。僕は運が良いのかな? それとも、悪いのかな? 教団の敵となるであろう、絆の勇者を排除する機会……とはいえ、さすがに、そんな大物を相手にする準備はまだしていないんだよね。僕は強いけど、とはいえ、絶対無敵じゃない。戦うのなら、きちんと準備をするべきだ……そう思わないかい?」
「同意だな。俺も、あなたと戦うのなら、しっかりと準備をしたい」
心の底からの言葉だ。
こいつは危険すぎる。
「とはいえ……この状況で逃がすわけにはいかないが」
「にゃん!」
俺は千鳥を抜いた。
カナデは拳を構えた。
他、様子を見ていた冒険者や騎士達が、それぞれ構える。
「まあ、それもそうだね。僕も、はいさようなら、っていうわけにはいかないからね。ちょうどいいから、一緒に燃やしておこうか」
ゼクスは、軽く両手を広げつつ、いつでも動けるように足に力を込めた。
見た感じ、パワータイプには見えないけど……
それを言うならカナデやタニアも同じで、細身に思わぬ力が隠されているかもしれない。
それに、派手に燃えている騎士団支部。
これをゼクスがやったのだとしたら、特殊な能力を持ち合わせているのかもしれない。
絶対に油断はできない。
最大限の警戒を。
そして、慎重に戦いを進めて……
「はいはーい、そこまで!」
ピリピリと空気が張り詰める中、それをぶち壊すかのように甘い声が響いた。