作品タイトル不明
1079話 邪教徒の神官
『彼』は、完璧主義者だ。
あらゆる物事に関して、一つも妥協はしない。
常に最善を追い求めて。
常に最高の結果を叩き出す。
『彼』は、合理的な考えを持つ。
必要なものだけを選び取り。
不必要と判断したものは、迷いなく切り捨てる。
合理的な考えを持つ完璧主義者。
そんな『彼』の下で働く者は、日々を戦々恐々として過ごしている。
完璧でなければいけない。
失敗をしたらいけない。
そんな強迫観念めいたものに囚われつつ、活動を続けていた。
ただ……
失敗してはいけないのに失敗してしまった。
自分達を探る妙な冒険者達。
罠に引っかかり、その位置を知らせてくれた。
ならば、いつものように排除するだけ。
そのための下準備は済んでいる。
圧倒的に有利な立場で包囲網を形成して。
そして、とある切り札も用意して。
絶対に成功するはずの作戦だった。
しかし、失敗してしまった。
冒険者達を逃がしてしまった。
失敗。
それは、完璧主義者の『彼』からしたら許しがたいことだ。
そして、合理的な考えを持つ『彼』は、とある判断を下す。
それは……
「ひぃ、あああああああっ!?」
男は悲鳴を上げていた。
当然だ。
全身が赤い炎に包まれていたのだから。
地面を転がり回り、どうにか消火しようとする。
しかし、炎は消えない。
可燃物を塗りつけられているかのように、むしろ燃え広がっていく。
『彼』は、悲鳴をあげる男をつまらなそうに。
そして、不機嫌そうに眺めていた。
「あのさ……うるさいから、悲鳴をあげないでほしいんだけど?」
「あ、あああ!? 熱い熱い熱い!?」
「僕の話、聞いている? 聞いていないのかい? はぁ……やれやれ。これだから学のない者は。任務に失敗するだけじゃなくて、うるさくて他者を不快にさせるから黙る、っていう簡単なこともできないなんて。だからキミは敗者になったんだよ。そんな簡単なこと、どうしてわからないかな?」
「……」
男の悲鳴が途絶えた。
転げ回ることもなくなり、倒れて、そのまま。
「なんだ、死んだのかい? 僕はまだ、死んでいいと許可した覚えはないんだけど……やれやれ、最後まで使えないヤツだったね」
『彼』はため息をこぼした。
それから、周囲で成り行きを見守る邪教徒達に視線をやる。
「じゃあ、次はキミ達の番だね」
「お、お待ちください!」
「我らの忠義は決して変わることなく……」
「どうか、どうか次のチャンスを! 今度は、必ずや……」
「次なんてないよ」
『彼』は、パチンと指を鳴らした。
それを合図にして、邪教徒達の体が炎に包まれる。
悲鳴が上がる。
絶叫が響く。
燃え盛る邪教徒達が転げ回り、バタバタと倒れていく。
正気を保つことができない、とても悲惨な光景だ。
しかし、『彼』はなんてことのないように……どこにでもある普通の日常を過ごしている感じで、平然としていた。
やがて、『彼』だけになる。
他の邪教徒達は、全て炎に焼かれて死んだ。
「さて……どうしようかな? 逃げられただけじゃなくて、せっかく手に入れた切り札も失うなんて……はぁ、これだから無能は。適当なヤツの入信を許しているから、こんなことになるんじゃないかな? とはいえ、最近は人手不足らしいから……やれやれ、世知辛いねえ」
「……ゼクス……」
「うん?」
ふと、声が響いた。
自分の名前を呼ばれた『彼』は、訝しげに振り返る。
いつからそこにいたのか?
『彼』と似た格好をした男がいた。
普通の人間に見えるが、しかし、普通の定義からは大きく外れている。
普通なのは見た目だけ。
その身にまとう気配、おぞましさ、邪悪さ……それらは桁外れだ。
常人ならば、相対しただけで、その醜悪さに失神してしまうだろう。
「失敗したそうだな」
「僕のせいみたいに言わないでくれるかい? この無能達のせいだよ」
「しかし、指揮をしたのはゼクスだろう?」
「そう言われると否定はできないが、しかし、そういう話をしていくと、責任は、僕達、神官全体のものになる。違うかい?」
「……」
「なに、安心していいよ。今度は、僕が出る。というか、最初からそうするべきだったね。その方が確実で、合理的だ。無駄が一切ない。無能達は、無能らしく子供にでもできるようなおつかいを任せておくべきだったね」
『彼』は得意そうに語り。
しかし、男は厳しい表情を崩さない。
「なんだい? まさか、僕が失敗するとでも? ジ・ゼセル教の大神官……序列六位である、このゼクスが負けるとでも?」
「可能性はある」
「……キミねえ」
『彼』は、あからさまに不機嫌になって。
同時に殺気を飛ばす。
しかし、男は平然とそれを受け止めつつ、言葉を返す。
「相手は、勇者だ」
「……なんだって?」
「そして、絆の英雄もいる」
「へぇ……」
『彼』は嗤う。
不敵に。
大胆に。
狡猾に。
「そいつは、色々と楽しむことができそうだ」