作品タイトル不明
108話 カナデの……
あれからいくつかの店を見て回り、足りない食材を買い揃えた。
残りは日用品だ。
食材をカナデと二人に分けて持ち、街を歩く。
「他の猫霊族の動向?」
歩きながら、そんなことをカナデに尋ねた。
さっきの店主の話によると、他の猫霊族がこのホライズンに来ているらしい。
カナデなら何か知らないかと思って尋ねてみたんだけど……
「んー……わかんないや」
「何も?」
「何も。でも、どうしてそんなことを?」
「まだ確定ってわけじゃないんだけど、どうも、カナデとは別の猫霊族が街に来ているらしい」
「そうなの? おーっ、私の知り合いかな? 会ってみたいな」
「確定じゃないからな? そういう噂を聞いただけで……」
「……」
「カナデ? どうしたんだ?」
ふと、カナデがちょっと遠くに視線をやり、憂いを帯びた顔を作る。
いつも元気なカナデらしくない表情だ。
「んー……ちょっと、故郷のことを思い出しちゃった」
ホームシック……なのだろうか?
カナデは寂しそうにしている。
そんな顔は見たくなくて……
「カナデ。ほら、そこ」
「にゃん?」
「魚を模したお菓子があるぞ。買っていくか?」
「お魚!?」
「すいません、一つください」
返事を聞くよりも先に、お菓子を購入する。
そして、カナデの手に。
「はい、どうぞ」
「いただきまーすっ、はむ!」
にっこりと、カナデは笑顔でお菓子を食べる。
衣がサクサクとしているらしく、パリッという音がした。
「んっ、んんんぅ~♪」
「うまいか?」
「うんっ! お魚とは全然違うけど……でも、甘くてサクサクで、これはこれでおいしいよ、にゃふぅ♪」
カナデの顔に笑顔が戻る。
やっぱり、カナデは笑っている方がいいな。
ふと、気がつくとカナデがじっとこちらを見つめていた。
「……」
「カナデ?」
「ありがとね、レイン」
「うん? なにが?」
「レインは、いつも私を笑顔にしてくれる。すごく感謝しているんだよ」
「大したことはしてないんだけど……」
「ううん、そんなことないよ。すごく大したことをしているよ」
「それ、言葉がおかしくないか?」
「えっと……とにかく、私は、ありがとうって伝えたいの。だから、レインは素直に受けとって」
「そういうことなら」
「ありがとね、レイン♪」
カナデは、晴れ渡る青空のような笑顔を浮かべた。
心の中で、俺も、カナデにありがとうと伝える。
この笑顔に何度助けられたことか。
くじけそうになる時、カナデの笑顔に力づけられた。
これからも……
「って、カナデ?」
「にゃん?」
ちょっと目を離した隙に、カナデが人波に飲まれてしまう。
あれよあれよという間に、カナデの姿が遠ざかる。
「にゃ、にゃあああっ!? れ、レインーーーっ!?」
「あっ、おい!? カナデ! すいません、ちょっとどいてください……って、ダメだ」
カナデの姿が遠くに消えて……
そのまま見失ってしまった。
――――――――――
「……見つからないな」
カナデとはぐれて、30分ほど経っただろうか?
しばらく街を歩いてみたものの、カナデの姿は見当たらない。
よっぽど遠くまで流されたのか、あるいは、タイミング悪くすれ違っているのか。
どちらにしても、ここまで経っても合流できないなんて、かなり運が悪い。
まあ、はぐれたといっても、家に帰れば合流できるだろう。
なので、そこまで深く心配しているわけじゃないんだけど……
「まだ、買い出しの途中なんだよな……仕方ない。いざっていう時は、一人でいくか」
たくさんの荷物を持てるかどうか、ちょっと怪しいけれど……
まあ、なんとかなるだろう。
深く考えても仕方のないことだ。
「さて……じゃあ、日用品を買いに行くか」
カナデと合流するのは諦めて、いつも利用している商店に向かう。
その途中だった。
「うん?」
人混みの中に、ぴょこん、と猫耳が見えた。
間違いない、カナデだ!
「カナデ!」
慌てて人混みの中に飛び込んで、すいません、と言いながら前に進む。
それから、猫耳の女の子の手を掴んで……
「みゃ?」
「……あれ?」
手を掴み、猫耳の女の子がこちらを振り返る。
とても綺麗な女の子だ。
繊細な顔立ちをしていて、おとぎ話に出てくるお姫様みたいだ。
それでいて、どこか、カナデの面影がある。
どことなく幼い印象を受けるから、歳はカナデの一つ二つ下というところか?
髪はショートヘア。
目は大きく、愛嬌がある。
へそが見えるパンツルックで、ちょっと露出の高い服を着ていた。
「お兄さん、誰ですか?」
「カナデじゃ……ない?」
その子は、俺が出会った二人目の猫霊族だった。
「カナデ? お兄さん、今、カナデって言ったんですか? もしかして、カナデちゃんの知り合いなんです?」
「え? えっと、まあ……はい」
「そうなんですか! まあまあまあ、あの子に人間の友達がいるなんて。里を出る時は、うまくやっていけるかすごく不安だったけれど……それなりに、ちゃんとやっているんですね」
「えっと……」
この人は……誰だ?
口ぶりからして、カナデの知り合いであることは間違いなさそうだけど……
というか、家族かな?
カナデのことを詳しく知っているみたいだし……
何よりも、その顔だ。
カナデにそっくりとまではいかないけれど、よく似ている。
「あの……いいですか?」
「はい? なんですか?」
「もしかして、カナデの家族ですか? 妹さん、とか?」
「あらまあ。世辞のうまい子ですね」
世辞?
どうして、今の台詞が世辞になるんだろう?
「質問を返すようで失礼ですが……あなたは?」
「俺は、レイン・シュラウド。カナデの仲間ですよ」
「仲間?」
「カナデは今、俺と一緒に冒険者をやっているので」
「へー、ほー。なるほどなるほど、あの子が冒険者を……元気でやっていますか?」
「はい。他にも仲間がいるんですけど、みんなで仲良くやっていますよ。カナデはいつも笑顔で、それに助けられています」
「なるほどなるほど」
何かを見極めるように、猫霊族の女の子は、コクコクと頷いた。
個人情報をしゃべりすぎただろうか?
でも、カナデの家族みたいだから……問題はないか。
「あの」
「あ、はい。なんですか?」
「よかったら、あの子のこと、もっと聞かせてくれませんか?」
「ああ、はい。それは構いませんよ。ただ、今は買い物の途中なので、後でもいいですか? カナデともはぐれてしまって……」
「あの子が近くに?」
「一緒に買い物をしていたんですよ。30分くらい前に、はぐれてしまったんですけどね」
「あの子、妙なところで鈍くさいですからねぇ。大方、食べ物のことでも考えて、ぼーっとしていたんでしょう」
「ははは……あ、そうだ。よかったら、ウチに来ますか? 立ち話もなんだし……あと、待っていればカナデも戻ってくると思うので」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせてもらおうかしら」
「わかりました。じゃあ、こっちへ……」
家に案内しようとしたところで、まだ、この子の名前も聞いていなかったことを思い出した。
「ところで……名前を聞いてもいいですか?」
「あら。すみません、ついうっかりしていて……私は、スズと言います。カナデちゃんの……」
「お母さんっ!?」
不意に聞こえる、聞き慣れた声。
振り返ると、カナデがいて……驚いた様子で、こちらを見ていた。
……って、今、なんて言った?
「あらまあ、カナデちゃんじゃない。はぐれたって聞いていたから、心配しましたよ」
「そ、そんなことで心配しないで。もう子供じゃないんだから! っていうか、えっと、あれ? なんで、お母さんがこんなところに……?」
再び、カナデがその単語を口にする。
聞き間違いや幻聴、という可能性は限りなく低いだろう。
ということは……
「えっと……スズさんは、カナデの母親なんですか……?」
「はい、そうですよ。ウチの娘が、いつもお世話になっています」
スズさんはにっこりと笑い、とんでもないことを口にするのだった。