作品タイトル不明
1069話 生きる知識の泉
「なにが聞きたい? なにを知りたい?」
「……っ……」
一瞬、すさまじい圧が放たれて、背中がゾクリと震えた。
すごいな……
今の圧こそが、ラウル・ラズナの本性というか、隠していた力なのだろう。
このようなところに閉じ込められていても、まったく衰えていない。
その意思、その力。
おそらく、全盛期の50年前となにも変わっていない。
ただ、すごい圧を放つだけ。
それだけで勇者をどうこうすることはできない。
シフォンは、まったく怯んでいない様子で、笑顔を保ったまま問いかける。
「邪神って知っているかな?」
「ふむ」
「最近、邪神を崇める邪教徒が暴れているんだけど、彼らのことについて知りたくて……でも、よくわからないことが多くて。だから、邪神について知っていることがあれば教えてほしいかな」
「……まさか、またその話を求める者が出てくるとはのう」
「知っているの?」
「うむ、もちろんじゃ。この儂を、誰だと思っている? 世界の全て……財宝も知識も全て盗んだ大怪盗じゃぞ」
ラウル・ラズナは不敵に笑う。
たぶん、誇張じゃないんだろうな。
50年前、この男は全てを盗んだのだろう。
……それこそ魔族の真実なども。
そうして、触れてはならないものに触れてしまった。
だからこそ暗殺などを恐れて、あえて捕まることにした。
「邪神に邪教徒か……懐かしい話じゃが、できれば、二度と聞きたくはなかったのう……」
「あれ? 邪神はともかく、邪教徒も知っているの? あれって、ここ最近、できたものなんだけど……」
「牢の中にいたとしても、儂は全てを盗むことができる……といえばかっこいいのじゃがな。ま、そのようなことはない。最近できたという邪教徒については、さすがに知らぬが……ただ、昔にあった邪教徒になら詳しいぞ?」
「……昔あった?」
そのような話は聞いたことがない。
シフォンの表情が険しくなる。
それはステラも同じで……
たぶん、俺も似たような顔をしていると思う。
「せっかくここまできてくれたからのう。話すことはやぶさかではないが……ふむ。時間が足りぬな。勇者だとしても、面会時間は限られているじゃろう?」
シフォンがステラを見る。
ステラは、やや苦い表情をしつつ頷いた。
「今回、面会に許された時間は30分だ。それ以上となると、さすがに……」
「次の機会は?」
「……早くても一週間後になる」
「そっか」
勇者特権は無限というわけじゃないらしい。
まあ、それも仕方ない。
なんでもかんでもできる権限を与えてしまうと、アリオスのような者が勇者になった時、かなり危ういことになる。
国は、そのことをアリオスの件で学び、反省しているのだろう。
「うーん、どうにかして話を聞きたいんだけど……」
「まあ、よい。今回は、儂が少し手間をかけてやろう。おい、べっぴんの団長さん。後で紙とペンをもらえるか?」
「予定にない配給は……」
「情報をまとめるために必要なものじゃ。次の面会までに書き記しておこう」
「……少し待て。即答はできない」
「まあ、儂はどちらでもいいがな。できないとなれば、勇者の嬢ちゃんや……そこの面白い兄ちゃんが困るだけさ」
この男……
もしかして、俺のことを知っているのだろうか?
牢の中にいるから、今の外のことはわからない。
さっきはそう言っていたけど、その言葉も怪しいな。
この男なら、牢の中にいながら外のことを把握しててもおかしくはない。
そんな気がした。
――――――――――
牢を後にして。
ステラに礼を言い、騎士団支部を後にして。
外に出たところで、ぐっと伸びをした。
「んーーー……暗いところにいたからか、太陽の光がすごくありがたく感じるね」
「そうだな。ただ、最低でももう一回、行かないといけないが」
「う……そうだった。もう、レイン君ってば。憂鬱になるようなことを思い出させないで」
「ごめんごめん」
笑い、
「……この地図、本物かな?」
シフォンは、さきほどラウル・ラズナからもらった手書きの地図を手にして、真面目な顔になる。
詳細を説明しているヒマはない。
ただ、今のうちに少しでも情報が欲しいのならば、この場所を調べてみるといい。
そう言われて、ラウル・ラズナに手書きの地図をもらったのだ。
邪教徒の居場所なのか。
あるいは、それに繋がる情報があるのか。
それは、調べてみないとわからないだろう。
「できるだけ早く調べたいよね。んー……私達は、明日にでも動くことができるかな? レイン君はどう?」
「そう……だな」
邪教徒なんていう、よくわからないものが関わっているとなると、できる限り警戒した方がいい。
みんなの力を借りたいところだけど、でも、ルリのことが心配だ。
カナデ達は、ルリの傍にいてもらおう。
「行くのは俺一人になるから、明日で問題ないよ」
「レイン君だけ?」
「みんなは、ルリについていてもらおうと思って」
「そっか……うん、そうだよね。話を聞く限り、まだ安全とは言えないし。それがいいと思う」
こうして、地図に記された場所を俺達で調べることに。
そこで、なにが見つかるのだろうか?
なにが待ち受けているのだろうか?
今はまだ、なにもわからない……