作品タイトル不明
1032話 とある小さな事件
発行されたばかりの依頼は、行方不明の娘の捜索だった。
なんでも、散歩の途中、少し目を離しただけなのに消えてしまったらしく……
探しても探しても見つからないとのこと。
一日が経ってしまったため、焦るばかり。
そこで、冒険者を頼りにすることにした。
……という説明を依頼人から聞いた。
俺がこの依頼に興味を持った理由は、ただ一つ。
「なんか、怪しいんだよな」
引っかかるものがある。
娘の捜索というのだけど、依頼人の中年男性からは焦りは感じたものの、心配や不安というものは感じられない。
それに、なぜ冒険者に依頼することを考えたのだろう?
こういう話は、普通、騎士団に話を通すものだ。
そしてなによりも、子供を連れて街の外を散歩するなんて、あまりにもおかしな話だ。
ホライズンの辺りはわりと平和ではあるものの、それでも外に出れば魔物と遭遇する。
盗賊などもたまに出没する。
普通に考えて、外で散歩なんてありえない。
「まあ、考えすぎっていう可能性もあるし、詳細な情報が載っていることから子供が行方不明になっている……そこは間違いないだろうな」
なにか背景に隠されたものがあるかもしれない。
でも、子供の命が関わっていることは確か。
なら、すぐに動いた方がいいだろうと、請けることにした。
「この辺りかな?」
街の外に近い郊外に移動した。
中年男性の話によれば、この辺りを最後に娘の姿を見失ってしまったらしい。
ちなみに、中年男性の姿はない。
仕事の関係で、どうしても、長時間街を空けるわけにはいかないのだとか。
「色々と疑問はあるが、まずは子供を見つけることにしよう」
周囲を探索して、狼の群れを見つけた。
さっそく仮契約。
肉を報酬に、子供の手がかりを探してもらう。
「オンッ!」
しばらくして、一匹の狼がなにかに反応した。
ついてきて、という感じで、こちらを振り返りつつ歩いていく。
その背中を追いかけて、森の中へ。
いつかの迷いの森を思わせるような、深い森だ。
木々が生い茂り、陽の光を遮ってしまっている。
昼なのに夕暮れ時のように暗い。
ただ、なにも問題はない。
狼は、人間よりも視力がいいし、なによりも鼻が効く。
彼らに任せて、俺は、後をついていけばいいだけだ。
――――――――――
しばらく歩いたところで狼が足を止めた。
今だ深い森の中。
ただ、少し先に泉が見えた。
底が見えるほどに澄んでいて、とても綺麗だ。
「この森で暮らす生き物達の水場かな?」
子供の姿は……
「オンッ!」
「オンオンッ!」
狼達が一斉に吠えた。
その視線は、泉の近くにある茂みに向けられている。
敵意が満ちているわけではないが、警戒している様子で、時折、唸り声も響かせていた。
魔物か?
それとも……
「待て」
命令を出してから、俺は、そっと茂みに近づいた。
一歩。
ニ歩。
三歩。
様子を見つつ、ゆっくりと近づいていく。
けっこうな距離まで近づいたのだけど、なにも反応はない。
ただ、なにかの気配は感じた。
魔物……ではないな。
あまりにも敵意がない。
だとしたら、野生動物だろうか?
俺を狩人と勘違いして隠れているとか。
色々な可能性を考えつつ、茂みの手前に移動した。
そして、そっと中を見る。
「……あぅ……」
目が合った。