作品タイトル不明
1030話 静かな家
「じゃあ、またどこかで」
「「はいっ、どこかで!!」」
若い男女の冒険者と別れて、俺はホライズンに戻る。
これで依頼は完了だ。
近頃、街の近くでグリフォンの目撃情報が多発している。
事件になる前になんとかしてほしい、という依頼だ。
魔物だとしても、話が通じるのなら、討伐以外の方法をとりたい。
俺は、俺の手の届く範囲を助けたいと願ったから……それは、魔物も例外じゃない。
『魔王』とも契約したからなのか、魔物もある程度従うようになってくれた。
それを幸いというべきか、それは謎ではあるが。
「まあ、問答無用で襲いかかってくるやつもいるから、そういうのは撃退するけどな」
助けたいと思うものの、でも、こちらの命を差し出すつもりはない。
守りたい人を危険に晒すつもりもない。
身勝手な話だけど、そういう時は容赦はしない。
「さて、我が家に帰るか」
――――――――――
ホライズンの丘の上。
そこに、俺達の家がある。
何度か改築をしているため、けっこう大きく……
今では、領主の屋敷と同じくらいの規模になっていた。
……やりすぎたかもしれない。
「ただいま」
扉を開けて中へ。
でも……
「……静かだな」
おかえりなさい、と迎えてくれる人はいない。
屋敷の大きさに反して、今、ここで暮らしている人はとても少ない。
……俺だけだ。
「一人だと、こんなにも寂しいものだったんだな」
俺の声だけが響いて、軽く反響して消えていく。
それに、なんともいえない切なさを感じた。
「一人……か」
リビングのソファーに座り、ぽつりとつぶやいた。
ここは、いつも笑顔であふれていた。
みんなと色々な話をしていた。
でも、今は……
俺だけだ。
他に誰もいない。
あの頃の笑顔は……ない。
……
……
……
「まあ、里帰りだから仕方ないよな」
あの戦いから約一年。
長い長い……本当に長い後処理がようやく終わり、ようやくホライズンに帰ることができた。
魔王と契約をして、魔族と和平を結んで。
人間を滅ぼそうとしたラインハルトを止めて。
でも、それで全ての問題が解決したわけじゃない。
むしろ、そこからが本当の問題の始まりだ。
脅威の後は戦後処理だ。
王が、隠されていた事実を公開して。
混乱と動揺が広がり。
それに乗じて、各地で事件が多発した。
事件を利用してやろうと、政治的に暗躍する貴族もたくさん現れた。
それらの問題に一つ一つ対処をして……
事件を繰り返さないように対策を考えて……
ついでに、予防措置として各地の貴族と話をして……
うん。
本当に大変な一年だった。
「これ、下手したら、ラインハルトとの戦いの方が簡単だった説まであるからなあ……」
単純に戦うだけなら、いくらでもやりようがある。
でも、頭を使い口で戦うとなると、精神的な疲労が半端ない。
カナデとかタニアとか、途中で知恵熱を出して倒れたりしていたからな。
でも、そんな忙しい日々も少し前で終わり。
完全に戦後処理が終わり、平和な時代が訪れた。
魔物の危険性とか。
小さな事件とか。
そういうものは絶えないけれど……
でも、世界が滅びそうになるとか。
国が潰れそうになるとか。
そんな危機が訪れることは、そうそうないだろう。
今までおつかれさまでした、と宴を開いて。
それから、しばらく休みをとろうということで、各々、里帰りをすることになった。
カナデ、タニア、ソラ、ルナ。
リファ、フィーニア、サクラ、ライハ。
そして、エーデルワイス。
彼女達は、それぞれ自分の里に戻り、そこで久しぶりの故郷を満喫しているだろう。
イリスの里はもうないのだけど……
ただ、オフィーリアのいる場所を感知できるらしく、姉妹の時間を過ごしてきますわ、と楽しそうな顔をしていた。
ティナは生きていた頃の故郷へ戻っていった。
すでに両親は亡くなっているらしいから、墓参りをしたいと言っていた。
ニーナも里がないのだけど、ノキアさんと一緒に旅行をするらしい。
コハネは生家に戻り、そこでのんびりするらしい。
なので……今は、俺一人だ。
寂しいといえば寂しいけれど、みんなに甘えてばかりもいられないからな。
みんなが戻ってくるまで、きちんとこの家を守らないと。