作品タイトル不明
1021話 エピローグ・その4
「ふむ」
精霊族の里。
その広場で、アルが書類と向き合っていた。
「同盟……か」
書類に記されている内容は、各最強種が同盟を結ぶ、というものだった。
種族の差はあれ……
今まで、最強種は積極的に人間と関わることを避けてきた。
不死鳥族と呀狼族は、完全に交流を絶っていた。
しかし、新しい時代を迎えた今、それではいけない。
これからは、共に手を取り合わなくてはいけない。
関係を断つのではなくて、前に進んでいかなくてはいけない。
とはいえ、各最強種は国を持たない。
群れで生活しているものの、それを国と呼ぶには、あまりにも規模が小さい。
だからこそ、同盟を結び、人間と『対等』になる必要がある、と書類に記されていた。
ちなみに、その書類を作成したものはスズだ。
「あやつめ、面白いことを考える」
「賛成なんですか?」
アルの身の回りの世話をする精霊族……ユキが、そう尋ねた。
ソラとルナの親友。
今は、アルに世話係を任命されて、せっせと働いていた。
「うむ。妾は賛成じゃな」
「……」
「ユキは反対か?」
「同盟など結ばなくても、問題ありません。人間がおかしな動きを見せれば、その時は、痛い目に遭わせてやればいいだけですから」
「いつまでも、そううまくいくとは限らないからのう」
今回の大戦で、アルは、人間に対する見方を少し変えた。
自己中心的で、己の欲を満たすために他人を平気で足蹴にする。
それが今までの人間に対する評価だったのだけど……
そうではないことを知った。
もちろん、愚かな人間はいる。
しかし、それは少し。
大半の人間はまともで、善性を持つ。
そのことを、とある冒険者を介してよく知ることができた。
「まあ、同盟を結んでおいた方がいいじゃろう。思えば、妾達最強種は、横の繋がりが薄い。薄すぎたために、不死鳥族や呀狼族などというものがいることを知らなかった。それは、寂しいことだと思わぬか?」
「それは……はい」
「単に、人間に対抗するためだけではない。妾達も、奥地に引きこもるのではなくて、表の世界に出ていくべきなのじゃろう」
「……」
そう言われると、ユキはなにも反論できない。
「ま、長を始め、一部の者を説得するのは、ちと骨が折れそうじゃが……まあ、なんとかなるじゃろう。いざという時は……くくく」
とても悪い顔をするアル。
力尽くでいくんだろうなあ、と思うユキだった。
「やっほー」
「こんにちは」
ふと、ミルアとノキアが姿を見せた。
思わぬ来客に、アルは驚いた。
「どうしたのじゃ? いきなり。そなた達が来訪するなど、聞いておらぬが……」
「同盟の件で、ちょっと確認したいことがあって」
「それと、ただのおしゃべりをしようかと」
ノキアは、お土産の菓子を広場のテーブルの上に置いた。
アルは目を輝かせる。
「うむ、うむ。お主、わかっておるな? 思う存分におしゃべりをしようではないか!」
「ふふ」
「はい、これ。追加の確認書類だよ。よろしくねー」
ミルアから書類を受け取るものの、アルは、それをすぐ脇にどけた。
ユキに新しい紅茶を淹れてもらい、さっそく菓子に手をつける。
「ふむ、うまいな」
「王都の特産品らしいので」
「人間も、こういうものを開発するのは上手なのじゃな。兵器ばかりではなくて、菓子だけを開発すればいいものを」
「さすがに、そういうわけには……」
「それよりも、私、ちょっと聞きたいことがあるんだよ!」
ミルアは、ぐぐっと前に乗り出した。
「アルちゃんとノキアちゃんは、子供達のことをどう思っているの!?」
「どう……とは?」
「ふむ?」
「レインくんとどうなるか、っていうこと!?」
ミルアはどこまでも真剣だ。
そんな彼女に対して、ノキアは小さく笑う。
「ふふ。言いたいことはわかりましたが、ニーナはまだ子供ですから」
「そうかのう?」
アルが悪い顔をした。
「妾の見た感じでは、あの娘、レインを好いているぞ?」
「えっ」
「もちろん、ライクではなくてラブじゃ」
「えっ!?」
「あの様子じゃと、そのうち、孫を連れてくるかもしれぬのう」
「……」
ノキアは顔を青くして、ガタガタと震え始めた。
娘が望むことならば。
しかし、早すぎやしないか?
家に帰った時、おばあちゃん、と呼んでくる子供がいたりしたら……
「むー、そうなるとタニアちゃんも……でもでも、タニアちゃんの子供……うへへへぇ」
ミルアは、他所様に見せられない顔をしていた。
そんな二人をからかいつつ、アルは空を仰ぐ。
「ふむ……平和が一番じゃな」