作品タイトル不明
1013話 誰かのために
「あなたのことが好きだから」
だから、許してしまう。
犯した罪も一緒に背負う。
自分勝手と思われるかもしれないのだけど……
しかし、俺は、そんなゼロの想いに内心で賛成していた。
大義名分を掲げるよりも、誰かのために。
そういう理由のほうが、よほど信じやすい。
なんだかんだ、人間は、理屈で考えるよりも感情で動くものだと思うから。
胸の内から湧き上がる衝動には抗えないものだから。
「……そうか」
ラインハルトは、そっと……恐る恐るではあるが、ゼロに手を伸ばした。
そして、彼女を抱きしめる。
触れることはできない。
温もりを感じることはできない。
しかし、確かにゼロの存在を感じ取ったらしく、一つ、涙がこぼれる。
「……すまない」
「いいよ」
ゼロは、にっこりと笑うのだった。
――――――――――
「ありがとう、ゼロ」
ややあって、ラインハルトはゼロから離れた。
その顔は、憑き物が落ちたかのようにスッキリしている。
初代勇者の名にふさわしい、とても優しい顔だ。
「レイン」
こちらを見て、そして、ゆっくりと言う。
「投降しよう」
「……本気なのか?」
「ああ。もう、俺は戦えないからな」
世界のために。
そして、復讐のために、ラインハルトは戦い続けてきた。
ただ、それは、愛する人の想いと願いが止めてくれた。
とはいえ、ここまでの道のりが消えたわけではない。
ラインハルトが行ってきたことが消えるわけでない。
それが正しいか、間違っているか。
今の俺達には判断できない。
後世の歴史家が評すること。
あるいは、人間ではなくて、他の種族が評することだ。
だとしても、今、この戦いに参加している者達は、ラインハルトの行いを認めないからこそ戦っているわけで……
彼をどうにかしない限り、戦いは終わらないだろう。
それを理解しているからこそ、ラインハルトは、素直に投降しようとしているのだろう。
「俺の負けだ。後は、好きにするといい」
「……それでいいのか?」
「ああ」
ラインハルトは小さく頷いて、遠くを見て言う。
「色々と思うところはあるが……どちらにしても、俺は敗者だ。それが全て。この身は、勝者であるレインに預けよう」
「えと、えと……」
ラインハルトは潔さを見せるものの、ゼロは慌てていた。
困った様子でおろおろしている姿は、とても神様とは思えない。
「……わかった」
少し考えてから、俺も頷いた。
「ひとまず、あなたのことは俺が預かる」
「そうか」
「だから……」
俺は、残っていた力を振り絞り、天井を撃ち貫いた。