作品タイトル不明
1009話 辿り着いた場所・中編
「誰も彼も痛みを抱えている。だから、我慢しろというのか!? 最愛の者を奪った人間を許せというのか!?」
「違う、そうじゃない! ただ……」
俺の言葉は、もうラインハルトには届かないだろう。
彼の決意と……暗い想いは止まらないだろう。
そう理解しているのだけど、でも、言葉は止まらない。
想いがあふれて、その全てをぶつけていく。
「あなたは、それだけじゃないだろう!?」
「……っ……」
「怒りを、復讐だけを想ってきただけじゃないはずだ!」
ラインハルトがただの復讐者なら、俺は、なにも言葉をかけていない。
気にすることはない。
単純に、敵として討つことができただろう。
ただ……
彼は一人じゃない。
ミツキがいる、アリエイルがいる、モナがいる、オフィーリアがいる。
仲間がいて、慕われていて……
ラインハルトもまた、彼女達のことを大事に想っているはずだ。
見ているだけで、その絆を理解することができる。
「生きている人のことを見て、大事にしていかないといけないんだ! あなたは、一人じゃないんだから……!」
こんなこと、今更言っても仕方ないとは思う。
もう、どうしようもないところまで来ていることも理解している。
それでも、言わずにはいられなかった。
「なんで、なんで……! 大事な人達のことを一番に考えなかったんだよ!」
「考えた結果が、これだ!」
「違う、そうじゃない! 今生きている方を考えてほしかったんだよ、あなたには!」
なにもかも遅い。
手遅れだ。
だけど、言葉は止まらない。
想いはあふれていく。
どうして……
本当に、どうしてこんなことになったのだろう?
「復讐をするにしても、それだけを考えるんじゃなくて……仲間のことも!」
かつて俺は、イリスの復讐を否定しなかった。
最終的に戦うことになったものの、彼女の憎しみを肯定した。
ラインハルトも彼女と似たようなものだ。
最愛の人を奪われた悲しみ、怒りは理解できる。
許せないと思うのも当然だろう。
「でも、全部、一人で抱え込むなんて!」
仲間を頼ることを、想いやることをしていれば、あるいは、違った道を歩いていたかもしれないのに。
「そうだ……仲間はいる。俺にはもったいないくらいの仲間だ。しかし……しかし、ゼロはいない! 彼女達はゼロではない! 俺は、俺は……!」
「このっ……ふざけるな!」
ラインハルトの復讐は理解できる。
共感もした。
それでも、その発言だけは認められない。
「あなたは、死者に囚われすぎているんだよ! そのせいで、今、目の前にいるであろう仲間を見ないで、もう会えない死者のことばかり考えて!」
「それだけ愛していたのだ!」
「あなたのは、ただの逃げだ!!」
今、ようやく理解した。
ラインハルトの復讐は、イリスのように強烈な想いを抱えたものではなくて。
エーデルワイスのように、積み重ねられてきたものでもなくて。
根本的な部分は、愛する人を失ったという喪失感を受け止めたくないから。
それをごまかすために、埋め合わせをするために、憎しみを暴走させている。
……それはそれで、一つの形なのだろう。
人としてあるべき形なのだろう。
否定はできない。
消すことはできない。
だけど。
「お前の言葉は心地いい、正しいのだろう……しかし、正しさで全て解決できると思うな!」
「俺は、断じて正義なんてものじゃない。大義もない。俺はただ……」
今まで出会ってきた人達の顔を思い浮かべる。
「わがままなだけだ!」
「な……」
「納得できないから、自分が思うようにしたいから、だから、こうして戦っているだけだ。俺の正しさなんて、誰も証明できない。正義なんて、誰にも証明できない。だから、俺は俺のやりたいことをやるっていう、わがままを貫いているだけだ」
間違っても正義とか口にできない。
自分が正しいなんて思ってもいない。
でも、今、ラインハルトがやろうとしていることを見過ごすことはできなくて、納得できなくて。
自分の意見を曲げてでも、受け入れることはできないと思って。
だから、戦う。
自分の意思を押し通すために。
「俺は、俺の大事なものを守る! だから、そのために、あなたの想いを踏みにじる!」
「くっ、ははは……! それでいい、わかりやすい! ならば俺は、俺の成すべきことを貫くまでだ!」