作品タイトル不明
998話 ただただ憎い
ラインハルトの顔には、深い怒りと悲しみと。
そして、憎しみと絶望があった。
なんていう……
彼は、これほどまでに強烈な感情を抱えていたのか。
これが、ラインハルトの本心なのか。
ある意味、とても人間らしい。
ラインハルトは、人間という種を超越しているが……
ただ、その心はまだ人間のままなのだろう。
そうでもなければ、これほどまでに鮮烈で強烈な感情を抱くことはない。
ラインハルトもまた、一人の人間なのだ。
……愛する人を失い、悲しみ、憎む、どこにでもいるような人間だった。
「あなたの本当の目的は、復讐なのか?」
「……かもしれないな」
ラインハルトは苦笑した。
「彼女を失って以来、俺の心は一度も満たされたことがない。ずっと空っぽで、そして、傷がついたままだ。どうにか心を満たそうとして、しかし、満たされず……ずっと飢えてきた。渇望してきた」
「……」
「だから、決めたのだ。亡き彼女のために、この戦いを捧げよう……と」
「そんなことをしても……いや。それは、承知の上か」
ラインハルトは賢い人だ。
愛する人がこんなことを望まないことは理解してて……
その上で行動を起こしている。
自分の非道も。
自己矛盾も。
全て抱えた上で、覚悟を決めて動いている。
ただ……
一点。
本心だけは隠していた。
「彼女は優しい。このようなことをしても喜ばないだろう、悲しむだろう。しかし、その上で、俺は人間を滅ぼすと決めた。こうすることが正しいと、そう信じているのは本当だ。ただ、それだけではなくて、もう一つ……彼女を奪った人間なんて滅びてしまえばいいと、そう思っているのも事実だ」
「そう……か」
少しだけど……ほんの少しだけど、ラインハルトの気持ちが理解できた。
以前、タニアが理不尽に傷つけられた時があった。
その時の俺は、傷ついたタニアを見て頭が真っ赤になってしまったけど……
あの時の感情を何倍にも、何十倍にもしたら、ラインハルトの抱えている心の闇に近づくことができるのだろう。
それを理解したからこそ、今度こそ、現時点での対話は不可能と思い知らされた。
「俺は、俺の成すべきことを成す。その上で、愚かな人間、全てを滅ぼす……邪魔をするな」
「するさ」
即答した。
改めて、クサナギを構える。
「あなたの考えは理解した。想いも理解した。でも、納得はしていない。あなたの信念があるように、俺にも信じるものがある。俺は……そのために戦う」
「うん、その通り」
ユウキが隣に並ぶ。
「耳の痛い話ばかりで、自分の非力さや世間知らずを痛感して、もう、ここから逃げ出したいくらいの重圧だけど……でも、僕はそうしない」
「王族だからか?」
「それもあるけど……それよりも、レインの友達だからね」
「……ユウキ……」
「あなたが世界と復讐のために戦うのなら、僕は、世界と友達のために戦う……それだけだよ」
ニヤリと笑うユウキ。
あぁ……なんて頼もしいのだろう。
ユウキが隣にいてくれてよかった。
友達になってくれてよかった。
仲間がいてもダメだ。
ユウキがいなかったから、きっと、俺は前に進み続けることができなかっただろう。
「私が戦う理由は単純だよ」
シフォンも隣に立つ。
「勇者だから」
「くだらない。そのような存在は、自分をごまかして、他人もごまかすためのまやかしにすぎない」
「そうだとしても」
シフォンの強い決意を秘めた瞳は一瞬も揺らがない。
「私は、勇者であることに誇りを持っているよ」
「……」
「今度は間違えない。勇者として、らしくある……その信念と使命を抱えて、どこまでも、ずっと前に進んでいくよ。みんなと一緒に、ね」
彼女は紛れもない本物の勇者だ。
だって、こんなにも心が輝いているじゃないか。
「私のすることは単純だ」
エーデルワイスも前に出て、不敵に笑う。
「我が主と共に歩む……それだけだな」
「魔王だというのにか?」
「ふん、それがどうした? 魔王であろうとなんであろうと、その前に、私は私だ。ただのエーデルワイスだ。願いも望みもある。個がないように言ってくれるなよ?」
「……」
「我が主は、私を暗闇の中からすくい上げてくれた。なればこそ、この力、我が主のために使おうではないか。それが、私の信じる道だ」
みんな、わりとボロボロなのだけど、まったく闘志が衰えていない。
むしろ増していた。
負けてたまるものか。
絶対に負けない……と、前を向いている。
さすがというか、なんというか……
うん。
俺も、がんばらないとな。
「あなたを……止めてみせる」
「……そうか」
一言、つぶやいた。
そんなラインハルトは、俺達のことをどこか眩しそうに見ていた。
なにを考えているのか?
なにを思っているのか?
それは、ラインハルトにしかわからない。
「どちらが正義か、どちらが悪か。それは、もはやどうでもいいことなのだろう……ただ、己の信念を成し遂げるために、邪魔な者を排除する。その一点に尽きる」
ラインハルトも構えた。
「故に、俺は、俺の持つ全てを使い、お前達を打ち倒そう」