軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第82話 飲みニケーション(前編)

「へえ、ここに師匠が仕事で来たことがあるんですか。それは初耳だ」

「アルフレッド殿は増えすぎた魔物の群れを駆逐し、この地で活動する冒険者たちの犠牲を減らしてくれました。この駆除依頼を、アルフレッド殿の弟子であるバウマイスター辺境伯殿が引き受けてくださるとは……」

「たまたま冒険者として受けた仕事がこれだったんです。一人でもできるから」

「さすがはアルフレッド殿が弟子と認めた大魔法使いですな。そういえば、アルフレッド殿も一人でここにやって来たのを今でも覚えています」

「師匠も一人でこの地を訪れたのですね」

たまたま一人の時間があったので、俺は冒険者として王都にあるギルド本部から依頼を受けた。

王都から少し離れたダーツ子爵領内にある魔物の領域で、大繁殖した大ネズミの魔物を駆除するためだ。

大ネズミは魔物なので魔物の領域からは出てこないが、魔物の領域に入った冒険者は容赦なく襲う。

そのため冒険者に犠牲者が出ることが多く、冒険者たちがダーツ子爵領の魔物の領域を利用してくれなくなるケースが増えているそうだ。

パーティに魔法使いが所属しておらず、あまり強くない冒険者からしたら、倒してもあまりお金にならないのに、大群で襲ってくる大ネズミなんて相手にしたくない。

特に新人や未熟な冒険者たちは、大ネズミに多勢に無勢で殺られてしまうことが多く、大ネズミが沢山いる魔物の領域に近寄らなくなってしまう。

在地貴族は、自領の魔物の領域を冒険者が利用してくれなくなると、税収が大きく減ってしまうのだ。

そこでダーツ子爵家は、定期的に魔法使いに大ネズミの駆除依頼を出していると、ギルド本部の職員から聞いていた。

ダーツ子爵は八十歳とかなり高齢で、昔、師匠に同じ仕事を依頼したのも彼だという。

思い出すように、師匠が大ネズミを駆除した時の話をしてくれた。

「大ネズミはまさしくネズミ算式に増えてしまうため、油断しているとすぐに大繁殖してしまいます。一対一なら子供でも勝てますが、とにかく数が多いので一斉に襲われると凄腕の冒険者でも危ない。苦労して沢山狩っても肉は不味く、毛皮の質がいいわけでもなく、魔石も小さい。人気がないから誰も狩らず、狩られずにいるとすぐ大繁殖してしまうのです」

「それは厄介だな」

大ネズミはどこの魔物の領域にもいるが、大繁殖した途端、主役というか目立つ存在になってしまう。

「大ネズミの魔物は最弱なので、普段は隠れるように住んでいますが、大繁殖した途端、数の優位を生かして堂々した性格、態度に変わってしまう。その時には強い魔物にも集団で襲いかかって噛み殺し、食い尽くしてしまいます。過去の伝承では、飛竜が大ネズミの大群に食べられてしまったとか」

「大ネズミ、侮れないなぁ……」

ただ、数が増えた時だけ威張り腐るなんて、性格に難があるような気が……。

普段は隠れているから目立たないしなぁ……。

とにかく、大ネズミが増えすぎると冒険者たちがここに来なくなるので、定期的に狩る必要があるのか。

「わかりました。すぐに大ネズミを狩りましょう」

「依頼の条件として、倒した大ネズミの死骸を放置しないでほしいのです」

死体を食べた生き残りの大ネズミが、またすぐに繁殖してしまうからだろう。

それでは、なんのために大駆除をしたのかわからなくなってしまうからだ。

「肉、毛皮、魔石も売れなくはないので、お持ち帰りいただいても……」

「ありがとうございます」

依頼報酬の足し、くらいの価値しかないそうだけど、解体所に預ければいいから問題ないか。

「では、早速」

あまり無駄話をしていても意味がないので、俺はダーツ子爵家の屋敷を出て魔物の領域へと『飛翔』で飛んでいく、すると魔物の領域に多数……どころではない。

恐ろしい数の大ネズミが、地表を占拠していた。

「ネズミ九、地面一って感じだな……」

こんな大群に襲われたら、凄腕の冒険者でもひとたまりもないはずだ。

俺は早速、魔法を駆使して駆除することにするが……。

「チマチマやってたら面倒だな」

新しい魔法を使うことにする。

これは、無属性の魔力の散弾を広範囲に叩きつけるものだ。

「『散弾』の魔法……。そのままだな!」

ようは効果があればいいんだ。

俺は魔物の領域の上空から、大ネズミの群れに向けて無属性魔法の散弾を放つ。

『散弾』の一つ一つは小さかったが、大ネズミの体を貫通させるのには十分で、大半の大ネズミを貫いた。

一部、運良く『散弾』が当たらずに逃げ出した大ネズミもいたが、依頼は大ネズミを全滅させる、ではない。

大ネズミが一匹もいなくなると、それはそれで生態系的に問題があるので、決められた数を間引けばいいのだから。

「大ネズミの死体は、魔法の袋に回収してと……」

『散弾』は命中箇所をコントロールできないから死体の損傷が酷い死体も多く、魔石しか取れない個体も多いが、元々大ネズミの肉と毛皮の価値は低い。

魔石だけ取り出せれば問題ないと、俺は上空から『散弾』を放って大ネズミを狩っていく。

最悪、肉と毛皮は肥料として土に還ってもらうか。

「ふう……。こんなものかな?」

これだけ狩れば十分だろうということで、俺は大ネズミ狩りを終えて、ダーツ子爵のところに報告に戻った。

「おおっ! さすがはアルフレッド殿の弟子ですね。彼も一日で仕事を終えましたから」

「師匠も、一日で大ネズミ駆除を終えたんですか」

どんな方法を使って、大量の大ネズミを駆除したのか。

そこが大いに気になるところだが、ダーツ子爵は見ていないと言う。

素人が現地まで見に行くと危険だから仕方がない。

「おかげさまで大変助かりました。これもお礼ですが、夕食は用意してありますので」

「ありがとうございます」

エリーゼたちには夕食は外食になると言ってあったし、どうせ『瞬間移動』ですぐ屋敷に戻れる。

せっかくのご好意なので、ご馳走になることにした。

「田舎料理で申し訳ありませんが……」

ダーツ子爵家邸で出される料理はその地方の伝統料理であったが、これがなかなかに美味しい。

魔物の領域を抱えているので、新鮮な魔物の肉を使った料理が充実していて、多くの魔法を使って疲れた体に染み渡るようだ。

ダーツ子爵領の名産品は魔物の肉であり、魔物の領域の生態系バランスを崩す大ネズミを定期的に駆除しないと、おまんまの食い上げなのだろう。

だだ、一つ気になることがあって……。

「さあ、バウマイスター辺境伯様、どうぞ」

「ありがとう」

「もう一杯、いかがですか?」

「お酒はあまり得意ではないので、お茶か水をいただけると……」

「それでしたら、名物の湧き水と、それを使って淹れたお茶をお出ししますね」

「湧き水、いいですね(なんか、若い女性ばかりだな……)」

何人もの若く美しい女性たちに囲まれ、まるでその手のお店にいるような……。

「(これが、例のアレなのか?)」

前にブランタークさんから聞いたことがあるのだけど、地方の村や町では顔見知りと結婚して子供を作るケースが多く、それが続くと生まれてくる子供の血が濃くなって、子供の体が弱くなったり、育たないで死んでしまうことが多くなるのだとか。

現代では、近親交配にリスクがあるというのはよく知られた話だからな。

そこでそれを避けるため、俺のように外からやって来た男性に女性をあてがって子作りをさせる。

そんな風習は、昔の日本でもあったのだとか。

「(これ以上奥さんはいらないけど、後腐れナシならいいってことか? じゃない!)」

もし俺が誘惑に負け、関係を結んだダーツ子爵領の女性が俺の子供を産んだとする。

そしてその子が魔法使いとなり、その事実が世間に知られてしまったら、俺がどこかに出かける度に、新しい女性をあてがわれてしまうではないか。

バウマイスター辺境伯様の子供は、魔法使いになる確率が高いから、女性をあてがう価値があるのだと。

俺は夕食をご馳走になると、宿泊は丁重にお断りして屋敷に戻ることにした。

「ご馳走様でした。またスケジュールか合えば、大ネズミの駆除を引き受けますので」

「またのお越しをお待ちしております」

ダーツ子爵は、俺が誘惑に引っかからなかったので残念に思っているだろうが、老練なのでそれを微塵も表に出していない。

さすがというか、次の機会を狙っているというか。

その頃まで、ダーツ子爵が生きているかどうか不明なんだけど、元気そうだからまた会えたりして。

「さて、屋敷に戻るか……。おっと、その前に……」

魔力に余裕があるので、俺は王都に立ち寄った。

夕食は済ませたので、ちょっと一人の夜を楽しみたくなったのだ。

夜もかなり遅くなってきたが、王都はまだ明るいままだ。

最近景気がいいので夜も営業するお店が増え、店舗不足だそうで屋台も大幅に増えていると聞いた。

屋台は食べ物だけでなく、お土産物や安価なアクセサリー、手作りの小物などを売るところもある。

歓楽街を利用した酔っ払いや、王都を訪れた観光客、仕事で地方からやってきた人たち目当てのようだ。

「なにを買って帰ろうかな?」

もうだいぶ遅くなってしまったので、エリーゼたちにお土産を買って帰ろうと、俺はなにかいいものはないかと探していたが……。

「これは! ってのはないか」

売っている物が、いかにもお土産っぽいものしかない。

これをわざわざ買って帰る必要はないかも……なんて思いながら夜の王都を歩ていると、前から見覚えのある集団が。

「よう! バウマイスター辺境伯じゃないか。こんなところで会うなんて意外だな」

「エドガー侯爵とアームストロング軍務卿じゃないですか」

他にも、知己の軍閥貴族たちの集団と出会ってしまった。

「バウマイスター辺境伯、時間はあるか?」

「いえ、俺はもう屋敷に戻る……」

「そうか! 暇か! いい店があるんだ! 一緒に飲もうぜ」

「あの……俺は……」

「じゃあ決まりで!」

「(やだ、この人たち人の話を聞かない。というか、力が強くて手が痛い!)」

すでに酔っぱらっていたのもあり、俺はエドガー侯爵とアームストロング軍務卿に両腕を掴まれ、強引に歓楽街へと連れて行かれてしまった。

エリーゼに連絡したいので、俺の手を放してくれると……無理か。

体育会系の人たちとの飲み会は苦手なので、早く終わってくれると……それも無理そうだなぁ。