軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6話 すそ野での薬草採取

ドゥル山脈へと最も近いライラック領の村、通称ふもとの村へとたどり着いた翌日の朝早くに、アレンは薬草採取するため村を出ていた。

ふもとの村という名前の通りその村はドゥル山脈に程近い場所にあり、徒歩2時間程度で山脈のすそ野に広がる森林地帯に入る事が出来る。

村に建っている建物は素朴なもので、ギデオンが泊まっている村長の家よりも立派な宿が少し異彩を放っているが村の内部についてはその程度だ。

しかし遠くから馬車に乗った状態では気づかなかったが、村の周囲には本格的な堀が造られており、さらにはドゥル山脈の方向を監視する物見台と鐘が2か所に設置されていた。

明らかにドゥル山脈から来る何かを警戒している防備を眺めながら、アレンはそこを抜けてドゥル山脈がある南方向へと歩いていく。

「やっぱり人の手が入りにくい場所は危ないってことか」

そんなことを呟きながらアレンは視線をめぐらせて薬草を探していく。村周辺の薬草については村人が利用する可能性もあるので生えている場所を記憶しておくだけにとどめ、アレン自身はずんずんと南へと進んでいった。

薬草を探しながらアレンが考えていたのは、ドゥル山脈に潜むモンスターなどについてである。

基本的に領地を徘徊するモンスターから人々が住む町や村などを守るのはその地を治める領主の仕事だ。

しかしそれを全て自前の兵士で行おうとすれば大量の兵士を雇う必要があり、それを維持するだけでも莫大な費用が必要になってしまう。

さらにモンスターと戦って怪我でもすれば治療費が、死亡すればその遺族などに対して弔慰金や一定期間の恩給が必要になってくることもあり、それは現実的な方法とは言えなかった。

そこで、その役割の一部を代行するのが冒険者だ。

ダンジョンが周辺に4つあるライラックでは冒険者は基本的にダンジョンへ行くというのが当たり前であり、その依頼の大半がダンジョン内の素材の採取などのダンジョンに関するものである。

しかしもちろん街の周辺にダンジョンのない場所はあり、そんな場所にいる冒険者の仕事の1つに周辺に出現するモンスターの退治があるのだ。

正確に言うのであれば街周辺の警戒の依頼があり、それを受けた冒険者がその途中でモンスターに遭遇して倒すと追加の報酬が支払われるという形になっている事が多い。

しっかりと統治されている領地であれば、モンスターと遭遇する可能性は決して高くはないため、討伐のみを報酬にすると散々歩き回った挙句に報酬ゼロなどといった事が起こりかねないからだ。

ちなみにモンスターを倒すと報酬が増えるという理由から、ダンジョンなどで倒したモンスターから素材を剥ぎ取り、それを提出して報酬を得ようとする馬鹿な冒険者はたびたび現れる。

しかし報酬の支払いにあたって、どこで討伐したか、取り逃がした者はいたのか、そして死体をどう処理したのかなどを聞かれるし、不審な点があれば現地調査とギルドへの照会が行われるため、それが成功する可能性は低かった。

その内容からすれば巡回という兵士の仕事を依頼を受けた冒険者が半ば代行している形とも言える。当然ながらその最中に冒険者が怪我を負ったり死亡したとしても依頼人には何の責任もない。その仕事を選んだのは冒険者本人なのだから

一応死亡した場合は冒険者ギルドからは弔慰金が遺族に支払われる。とは言え2か月程度生活できるほどでしかないが。

こうして見ると使い捨ての駒のような扱われ方を冒険者がしているように見えるが、何も起きなければ周辺を巡回するだけで安定した収入を得られるのだ。

危険度が低く、さらには装備が損耗する事もない。冒険する事に疲れ始めたベテラン冒険者に、その依頼はなかなかの人気を誇っていた。

とは言えそれは人の手が入る街の周辺などの話だ。アレンが今向かっているドゥル山脈は標高こそそこまで高くはないが、そのすそ野が広く、そこには広大な森が広がっている。

そういった場所はどうしても人の手が足りず、モンスターが繁殖しやすい。ゴブリンなどのコロニーが見つかる事も多く、本当に討伐を目的とした依頼も少なくなかった。

そしてそれ以外にも人の手が入りにくいという点から問題が起こることも多い。

それはアレンにも容易に想像がついたし、村が山側を重点的に警戒していたことからもそれは間違っていないとアレンは考えていた。

「うん、だからモンスターに遭うのも仕方ない」

そろそろ森の浅瀬の薬草でも採取して帰ろうかと思っていた矢先に、襲い掛かるように飛び出してきたゴブリン2匹をアレンは大きくバックステップしてかわす。

そして獲物の姿を見失ったのかキョロキョロと辺りを警戒するゴブリンたちを眺めながらアレンが呟く。

「 野生(・・) のゴブリンか。戦うのは久しぶりだな」

ゴブリンたちが持っている先を尖らせただけの木の槍を見ながらアレンが首をコキコキと鳴らす。その声で気づいたのかゴブリンたちがアレンの方へと向き直り、槍を構えた。

少なくともここ数年はダンジョン以外でゴブリンと遭遇した事がアレンは無かった。それだけでもライラック周辺がいかに安全かわかる期間だ。

アレンがわざわざ野生の、と頭につけたのはその手に持っている木の槍のせいだ。ダンジョンで襲ってくるゴブリンが持っているのは棍棒であり、たまに冒険者から得た武器を持っている者もいるが希少だ。

2匹ともが同じような木の槍を持っているということは、ある程度の年月を野生種として過ごしているという証左に他ならない。そしてそれはダンジョンに出現するものよりも強い可能性が高いという意味でもあった。

アレンに尖った先端を向けていながら、2匹のゴブリンが襲い掛かってくることはなかった。それどころかじりじりと後ろへと下がっている。

彼我の実力差を感じ、ゴブリンたちは既に逃げる方向へと考えを変えていたのだ。当然ながらそれはアレンにも伝わる。

「まあ、逃がす訳ねえけどな。他の奴を襲っても困るし」

アレンの呟きの意味を理解したわけではなかったが、同時に背中を見せて森へと逃げ始めたゴブリンへとアレンは瞬時に近づき、そしてその心臓部を剣で一突きして2体を倒した。そしてゴブリンの血で汚れた剣を拭こうとしてふと気づく。

「あー、ゴブリン程度だし魔法で倒せば手間がなかったな。次からはそうするか」

ゴブリンの討伐証明ともなる角を素早く剥ぎ取り、アレンがディグの魔法で開けた穴に2体のゴブリンを落としてその上に土をかけていく。これをしないと他のモンスターを集めてしまったり、下手をするとアンデッドとして蘇ってしまう可能性があるのだ。

余裕があるときには絶対にしておくべき冒険者としてのマナーのようなものである。

作業を終えたアレンはしばし考えた。森に入る直前に襲われたので、これを良い機会と考えて報告がてらこのまま戻るか、当初の予定通りに薬草を採取してから戻るかを。

そしてさほど時を置かずしてアレンは森の方向へと歩き始めた。野生のゴブリンと戦った程度の報告であれば緊急性は低いし、なにより依頼主であるギデオンを満足させるためにここまでやってきたのだからと考えて。

ドゥル山脈のすそ野の森へと入ったアレンは薬草を探しながら頭の中で地図を造っていた。

ダンジョンと違い、既存の地図などこのあたりにはない。もしかしたらあるのかもしれないが、少なくともアレンが目にした事はなかった。

同じような木々が生い茂り、視界も良くない森の中は方向感覚が狂いやすい。そのことをダンジョン内部の森で十分に知っているアレンはむやみに進むようなことはしなかった。

そして30分ほどの探索の末、アレンは薬草の群生地を見つける。その事にアレンは少し胸をなでおろしていた。

森の中に入ってからしばらくして、誰かにつけられている事にアレンは気づいた。特になにかしてくる訳でもなく、見知らぬ者が森に入っていることで地元の人間が警戒しているのかと思って放置していたのだが。

さっさと薬草を採取して帰っちまおう、そう考えてアレンがそちらへと足を踏み出したその時だった。

「うおっ!?」

アレンが警戒していた追跡者とは別方向から飛んできた矢を、アレンが体をそらせて間一髪で避ける。というよりそういう風に見えるようにアレンは避けていた。

追跡者がいつ襲ってきても良いように戦闘準備に入っていたアレンには飛んできた矢は非常にゆっくりに見えており、それを掴んで投げ返すくらいのことは朝飯前だった。

しかしあえてアレンはそれをしなかった。避けるのが精一杯程度の実力であると観察している誰かが思うようにと。

アレンの背後の木に突き刺さった矢がビーンと振動音を立てる。位置的にアレンがさけなければ脳天に直撃していたコースだ。

そんな音を背後に聞きながらアレンは剣を抜き放ち、そして 誰何(すいか) の声を上げようとしたのだが……

「すまん、人間だと思わなかった。大丈夫か!?」

そんなことを言いながらアレンの目の前へ攻撃したと思われる弓を放り投げて、両手を挙げて出てきた男の姿にアレンが思わず言葉を止める。

肩まで伸びた白銀の長髪を後ろで束ねているその男は、まるで作り物であるかのような整った容姿をしており、なにより特徴的な尖った耳をしていた。

「エルフかよ」

やっかいごとになりそうな予感に、アレンは内心ため息を吐きながらエルフの男へと向けていた剣先を下げたのだった。