軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第16話 ブルファング攻防戦

大岩にたどり着いたライオネルたちは戦いの準備を整え、視線を合わせて一度うなずくと大きな声をだしてブルファングの大群に追いかけられている冒険者たちへと呼びかけ始めた。

それに気づいた冒険者たちが逃げる方向を変え、そして向かってくる姿を見ながらナジームがぽつりと呟く。

「見ない顔だな」

「よその街から来たばかりかもね。じゃあ僕はそろそろ攻撃にうつるよ。下はしばらくよろしく」

言葉に同意しつつ、弓を引き始めたピートにライオネルが声をかける。

「逃げる合図はいつも通りだ。集中しすぎるなよ」

「了解、っと!」

先ほどまでのどこか気楽な表情が幻であったかのように、表情を消したピートが次々と矢を番えては放っていく。その動きはまるで機械のように一定であり、そしてその狙いは違わず上空のアラームバードを貫いていった。

「では、私も神の奇跡の準備を始めます。その後の治療はポーションを配布して各自行ってもらいますのでそこまで皆さんから目を離す予定はないですが、ご注意を」

「頼む。もって30秒だ。目標は10秒だな」

「頑張ってみます」

ライオネルの言葉にニコリと笑みを浮かべ、そしてトリンが神への祈りを捧げ始める。神の奇跡とは一部で治癒魔法とも呼ばれるポーションなどを使用しない回復手段だ。

神への祈りを捧げる事で、ポーションなどを使用するよりよほど早く傷などが癒える様は正に奇跡という言葉がふさわしく、教会の権威を高める要因となっているものの1つだった。

「ふむ。足が遅いな。巻き込むわけにはいかないからある程度の数は抜けると思ってくれ」

「任せろ。絶対に後ろには通さない。そうだな、ナジーム」

「おうよ」

だいぶ近づき、はっきりと見えてきた冒険者たちの姿を眺めながらパーシーが冷静に分析する。

内心ではその冒険者たちを気にせず巻き込んだ方がよほど安全で効率的に魔法を使えると考えていながらも、ライオネルが許すはずがないとわかっているため、それをパーシーが表に出す事はなかった。

パーシーが魔法の威力と効果範囲を広めるために、通常時のように魔法名だけ唱えるのでなく、正式な魔法の詠唱を開始するのを聞きながらライオネルとナジームはその剣を持つ手に力を込める。

「なあ、ライ」

「なんだ?」

「帰ったら皆におごれよ」

「ああ」

そう短く言葉を交わした2人の目の前には、命からがらといった様子で走り続ける冒険者たちの姿があった。そしてその奥に続く巨大な黒い壁も。

「……我が敵の足を止めよ、サンドプール!」

パーシーの詠唱が終わり、発動した魔法によって流砂のようになった地面に足を取られ、先頭の数体を除いたブルファングの動きががくんと落ちる。

急な減速に対応できなかったのか、後続のブルファングが次々とぶつかり、悲鳴とも不満とも言えないような声を次々に上げるのを聞き、ナジームはニヤリと笑みを浮かべた。

「ナイスタイミング」

「うちは腕利きぞろいだからな」

「じゃあ俺もその腕とやらを見せてやるとするか」

冒険者たちが通り過ぎていくのをチラリと確認し、ほんの一瞬だけライオネルとナジームの視線が合った。

そしてお互いに小さく笑みを浮かべてうなずくとパーシーのサンドプールの魔法を抜けたブルファングに向けて駆けていく。

「その足、もらうぜ」

新たな獲物に鼻息を荒くし、突進してきたブルファングの巨体を避け、すれ違いざまにナジームが剣を振るう。その剣は右前足の付け根を的確に切り裂いたが、その結果を見ることなくナジームは次の獲物へと向かっていった。

その無防備な背中へと多少動きを悪くしたブルファングが攻撃をしかけようと首を曲げ、そしてすぐにその場所へと剣が突き刺さる。

「はりきりすぎだろ」

ブルファングを翻弄するように走り回りながら剣を振るっていくナジームに少しだけ文句を言いながら、ライオネルがフォローに回ろうとしたその時だった。

「ダメです。いけません!!」

普段、温厚で声を荒げる事などほとんどない神官のトリンのそんな切羽詰った声に、『ライオネル』の面々が思わず視線を後方へと向ける。

そこには地面に倒れ、半分身を起こしながら手を伸ばしているトリンの姿があり、その手の先には大岩へと登って逃げようとしている、助けたはずの冒険者たちの姿があった。

「てめえら!!」

「ナジーム、下がれ。パーシー!」

「了解した」

顔を真っ赤にして怒りをあらわにするナジームをいさめ、後方にいるパーシーへとライオネルが叫ぶような声で呼びかける。

名を呼ばれただけで自分の役割を把握したパーシーがピートを引き連れてトリンのもとへと駆けていく。

岩に登った者が出た以上、逃げるために残された時間は限りなく少ないと『ライオネル』のメンバー全員が把握していた。

ブルファングを相手にする時は絶対に地面で戦わなくてはならないというのは、この荒野に来るライラックの冒険者にとって絶対に知っておかなければならない情報なのだから。

最前線で戦っていたナジームとライオネルが仲間たちのもとへと駆け寄る。

逃げてきた冒険者たちに突き飛ばされた時にひねって痛めてしまった足首をポーションを飲んで治療していたトリンも、少し顔をしかめながらではあるが逃げるために立ち上がった。

「トリン、俺の背に乗れ。お前くらいの重さなら俺が……」

腰をかがめながらそう言ったライオネルの言葉が何か重いものがぶつかるような、震動を伴うズゥンという音によって止まる。

そして断続的に響き渡り始めたその音に『ライオネル』全員の顔がさっと青くなった。

「遅かった、か。仕方ない次善策だ。こもるぞ」

「ああ」

短く言葉を交わし、ライオネルたちは大岩へと走っていく。

その大岩の上部10メートルほどのところで逃げていた冒険者たちの中の最後尾にいた数人が、砲弾のように飛んできたブルファングの巨体と大岩の間で押しつぶされて物言わぬ屍へと姿を変えていたのだった。

パーシーの魔法によって大岩へと穴を開けたライオネルたちはその奥地へと身を隠し、ときおり入り口から突っ込んでこようとするブルファングを相手に戦い続けていた。

さほど大きな穴ではないため一度に相手にするのは1体から2体でよく、周囲を包囲されていた先ほどの状況からすればはるかに事態は好転しているように一見思える。

だが『ライオネル』の面々の表情は依然として厳しいままだった。

「ライ、ギルドの資料の通りパーシーでも奥は無理っぽいよ」

「そうか、よっ!」

穴の奥で作業しているパーシーのもとからライオネルとナジームのところへと戻ってきたピートが、このまま大岩を抜けて向こう側へと出られないか試した結果を簡潔に報告する。

その話に顔をしかめながら目の前のブルファングへと剣を突き刺して倒し、入り口がふさがった事を確認してライオネルが一息つく。

「あとパーシーから伝言で、今の状態の維持にとどめるなら現状のマジックポーションの在庫数なんかを考えて1日程度だって。ははっ、大赤字だね」

「そんなもん、逃げた奴らに装備全部を売り払わせてでも払わせてやる。くっそ、マジでふざけんなよ。あいつら。トリンにまで怪我させやがって」

肩をすくめるピートとは違い、未だに怒りが収まらないナジームの姿にライオネルが少しだけ目を伏せる。トリンに怪我をさせてしまった原因は自分にもあると考えていたからだ。

しくじってブルファングの集団に追われようとも、この20層まで来る実力のある冒険者たちだ。それなりの実力と分別はあるだろうとライオネルは勝手に思い込んでいたのだ。

そして協力すれば全員無事に逃げ切る事は十分に可能だろうと。

だがそれは甘すぎる認識だった。

結果としてその冒険者達はライオネルたちを裏切って勝手に逃げ、その結果逃げ遅れたライオネルたちはこの大岩の中にこもらざるを得なかったのだから。

この大岩もダンジョンの一部と認識されており、一時的に穴などを開ける事は出来るものの、それは次第に元へと戻っていってしまう。

その力は奥へ行くほど強くなるため、なるべく外側の部分に穴を開ければその修復力も弱くその維持にかかるコストも少なく済む。

それは、かつて今のライオネルたちと同じように絶望的な状況に追い込まれたパーティがとった方法として、以前にピートが調べてきたものだった。

それをまさか実際に使うことになるとは誰も思ってはいなかったが。

しかしこれはあくまで一時しのぎの方法だった。閉じ込められ補給など出来ない現状では、いつかは穴が塞がり、そしてブルファングの集団の面前に行かざるを得なくなってしまうのだから。

(だから、冒険者ってのは生き残ってこそなんだよ。そいつがどんなに良い奴でも、強い奴だとしても、どれだけ人を助けたとしても自分が死んだら終わりなんだ。ライ、お前の信念はいつか仲間を、そして自分を殺すぞ。本当に何が大切なのかちゃんと考えろ)

かつて自分が言われたそんな言葉を思い出してしまい、ライオネルがチッと舌打ちをする。絶対に認めないと考えていたはずなのに、その言葉に少しではあるが共感してしまった自分に気づいたからだ。

「はっ、俺も年をくったってことか。アレンの言葉の意味が理解できちまうとはな。だが……」

入り口をふさいでいたブルファングの体が他のブルファングの角によって放り捨てられ、新たなブルファングがその角をライオネルへと向ける。

「理解はしても、俺は認めねえ。俺は俺の信念を貫く。仲間を1人として欠けさせる事なく貫ききってやる。冒険者になると決めた時、俺はそう誓ったんだ!」

ライオネルが剣を振るう。その揺るぎない信念を示すかのように、ブルファングの首は真っ直ぐに切り落とされたのだった。