軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第14話 荒野の罠

16階層へと降り立ったアレンが周囲を見渡す。

照りつける日差しに焼かれたような赤茶けた大地が広がるそこには小指から拳大ほどの大きさの石が数え切れないほど転がっており、枯れたような草やアレンの膝下程度の高さしかない雑木が所々に生えていた。

人の倍以上もある岩石も転がっており、中には10メートルを優に超える岩山のような形の巨大な一枚岩も所々にあるため、身を隠す場所が全くないとは言えないが、それでも今までに比べればかなり視界が開けている。

そんな荒野が16から20階層までの地形だった。

「あー、この地形で資料通りのモンスターなら、こりゃ斥候殺しって言われる訳だ」

ひとしきり周囲の観察を終えたアレンがぽつりと呟く。アレン自身、この階層に来たのは初めてではあるがギルドの資料室で得た知識である程度の状況は把握していた。

その知識があったからこそ、ここに行くのはリスクが高すぎるとして諦めたのだから。

その知識の中には、この16から20階層の荒野が斥候殺しと呼ばれているということもあった。

もちろんそれは、斥候が殺されやすいという意味ではなく、斥候の役目がほとんど意味をなさない階層という意味だ。

冒険者パーティにおいて斥候の役目は非常に重要だ。モンスターを発見したり、逆に見つからないようなルートを選んだり、どうしても避けられない罠を解除するなど単純な戦闘ではない部分をフォローするのが斥候の役目なのだ。

そのためにはダンジョンの地形やモンスターについての十分な知識が必要であり、ギルドの資料室にいるのは大抵が斥候の役割をしている冒険者たちだった。

その価値は、一流の剣士よりも腕の良い斥候がいた方が生存率が高いと言われるほどであるのだが、その反面そういった斥候の数は決して多くないのが実情だった。

特に若い冒険者に関しては。

一般的に冒険者としてイメージされるのは勇猛にモンスターと戦う姿である。憧れを抱いて冒険者になったような者には特にその傾向が強い。

そういう者たちからすると、斥候の役目は重要であるとはわかりつつも、自らはしたくない役目となってしまうのだ。

事実、アレンが他のパーティの助っ人として呼ばれるときに最も多くこなしたのがこの斥候という役目だった。

昔アレンが雇われていた、勇者の卵がリーダーのパーティにいた斥候の男に基礎的な知識は教え込まれていたので、ある程度の知識と腕があったことも関係しているのかもしれないが。

そんな重要な役割をもつ斥候ではあるが、この荒野では少し事情が違った。

まず敵の発見という面で見ると、この荒野はかなり視界が開けている。身を隠す事の出来る大岩の付近をわざわざ歩くような事をしなければ、誰でもモンスターの接近に気づく事が出来るのだ。

そして罠に関しても、落とし穴などの定番の罠はあるものの、階層を繋ぐ階段の間には命の危険に関わるような罠がなかった。

つまり斥候が果たすべき役割のほとんどが荒野ではなくなってしまうということだった。

しかしそれだけで斥候殺しと呼ばれる訳はない。その最大の要因となるのは……

「おっ、あれがこの階層の最大の罠か」

アレンが顔を上げ、そしてはるか上空を飛ぶ鳥のモンスターの姿を眺める。

そのモンスターの名前はアラームバード。はげた頭部に黒と白の羽というコンドルに似た姿をしており、体長は1メートルほどとそこまで大きくはない。

地上から50メートル以下には決して降りてこず、また遠距離から攻撃する手段を持っている訳ではないため不意打ちされたり直接攻撃を受ける事はないのではあるが、荒野で最も警戒すべきモンスターであった。

アレンが見つけたと同時にアラームバードもアレンを発見したのか、その翼を羽ばたかせて近づいてくる。

そしてアレンの上空へとたどり着くとアラームバードが旋回を始めた。

鋭い視線でアレンを捉え続けるアラームバードがその口を開き、胸の内の空気を震わせようとする。

しかしそれが叶うことはなかった。飛んできた拳大の石がそのはげた頭部へと直撃したからだ。

翼を不格好に広げたまま、アラームバードはその身を地面へと落下させる。

その様子を慎重に眺めていたアレンは、地面に落ちてピクリとも動かないアラームバードの姿を確認し、倒したことを確信すると、追撃用として一応持っていた石を放り捨てた。

「うーん、情報どおり一撃当てれば倒せるか。でも結構距離もあるし、的も小さいから弓や魔法で狙うにしても結構な腕が必要そうだ。あの当時、俺が無理にここに来てたら対処できずにモンスターを呼び寄せられちまっただろうな」

そんなことを客観的に判断しつつ、アラームバードの隣をすり抜けてアレンは先へと進んでいく。

このアラームバードこそ、斥候殺しと呼ばれる所以だった。アラームバードは敵を発見するとその上空を飛び回り、そして大きな声を上げて他のモンスターを呼び集めるのだ。

周辺から集まったモンスターたちに囲まれれば苦戦は必至となる。つまりこのアラームバードこそがモンスターを呼び寄せる罠だとも言えるのだ。

もちろん今アレンがしたように声を上げられる前に倒してしまえば対処は可能なのだが、上空を飛び回るアラームバードを仕留めるのは簡単な事ではない。

少なくとも遠距離を攻撃する手段が必要であり、それに加えてそれ相応の技術も必要なのだ。

もちろん斥候の中にもそういった技術を保有している者がいない訳ではないが、その数は決して多いとは言えなかった。

元々狩りなどで弓を使っていた者が斥候になった場合が可能性としては一番高いのだが、その中でも上空を飛ぶアラームバードに当てられる程の腕をした者自体が少なかった。

そんな厄介な相手であるアラームバードではあるが、現在のアレンにとってはそう大した敵ではなかった。

なにせそこらで拾った石を投げるだけで倒せてしまうのだ。この階層に来てからアレンは一度も魔法を使うことも、武器に触れることすらなかった。

何も起こることなくアレンは順調に階層を下っていく。さすがに遮蔽物がほとんどない荒野では、上空を飛ぶアラームバードに見つからないようにすることはアレンにも出来なかった。

しかしそれ以外の戦闘は全て回避したのだから、斥候として最低限の仕事はこなしたはずだとアレンは満足していた。

「しかし、敵を発見して仲間を呼ぶって、こいつの方が斥候っぽいよな」

地面に転がるアラームバードを眺めながらアレンは小さく息を吐く。

もしかしたらそういう意味で斥候殺しと呼ばれていたのかなという考えが頭の中に浮かんだ。もはや昔すぎて確かめようはないのであるが。

既にアレンは目標としていた20階層へとたどり着いていた。時間としてはまだ余裕はあるが、これ以上先に進むつもりはアレンにはなかった。

アレンがライラックのダンジョンの知識として頭に入れているのは20層までであり、時間も限られているのに全く予備知識のない階層へ進もうとは思えなかったからだ。

「さて、じゃあ戻るとするか。イセリアの訓練にちょうど良さそうな感じだし、事前に予習出来たと考えれば良い判断だったな」

そんな事を呟いたアレンがそのきびすを返したその時、視線の先に小さく数人の冒険者のパーティが映った。アレンはとっさに大岩へと身を隠す。

そして身を隠しながら、その冒険者たちをしっかりと確認したアレンが嫌そうに顔を歪める。

「げっ、ライオネルかよ。ついてねえな」

色々と因縁のある冒険者であるライオネルを眺めながら大きくため息を吐いたアレンは、このまま身を隠してやり過ごそうと決意したのだった。