作品タイトル不明
第35話 邂逅
足を止めて自分たちを眺める三人に気づいた冒険者たちが視線を向け、そして顔を驚きに染めると駆け寄ってくる。
「リサナノーラさん、テッサさん、ルパートさん。お久しぶりです」
「ライオネルか。久しぶりだね。貫禄がついて冒険者らしくなったじゃないか」
先頭に立って挨拶をしてきたライオネルに、テッサが少しだけ苦笑しながら返す。その挨拶の順番が昔と同じことを思い出しながら。
ライオネルの後ろには一年程度ではあるがテッサたちと過去に旅したのと同じ面々が揃っていた。年齢を重ねたその顔を感慨深く眺めていたテッサが、おやっ、と動きを止める。
「あんたは……」
「アレン。魔法は上達した?」
「うん? ああ、ぼちぼちな。自分の子どもに教えたりしてる。さすがにリーラの方法じゃないけどな」
五体満足で自然に立つリサナノーラの姿に良かったと胸をなでおろしていたところで本人に声をかけられ、少し驚きつつもアレンが笑って答える。
リサナノーラがそれに満足そうにうなずいて返すのを、テッサは眺めながら微笑んでいた。
有望そうな冒険者だったライオネルたちに、自分たちの旅にしばらくついてくるかと提案したのはテッサだった。自分たちから教えられることは多いし、それが彼らのためになると考えてのことだったが、その結果アレンとライオネルは仲違いをしてしまった。
それが心のどこかでしこりとしてずっと残っていたのだ。
「あんたたち、和解したんだね」
「俺たちもいい歳だしな」
「俺が変に意固地になっていただけでしたから。アレンは結婚して子どももいますし、俺にも大切な人が出来ました。お互いに協力して大切な人を守ろう、そう考えたんです」
「そうかい」
二人の性格が現れたその言葉に、テッサがふっと笑みを浮かべる。
その様子を見守っていたルパートが、パンと手を叩いて注目を集めた。
「さて、積もる話もあるがライオネルたちは依頼をこなしてくるといい。宿舎は同じだからすぐに会えるし、どうせなら夕食でも一緒にどうだい?」
「喜んで。依頼の行きがけに美味い店を予約しておきます」
「頼んだよ」
今夜の約束をとりつけ、アレンたちは木こりのような依頼をこなすために街の外へと去っていく。先ほどまでよりも盛り上がっている様子なのは、テッサたちと会えたからだろう。
そんな彼らの背中を見送り、テッサはその表情を変えるとじとっとした視線をルパートに向ける。
「あんた、知ってたね?」
「具体的に何を指しているのか言ってくれないとわからないな」
そう言って肩をすくめて平然と受け流すルパートを見つめ、リサナノーラはぼそりと呟いた。
「やっぱり、ルパートは性格が悪い」
その呟きを拾ったルパートはほんのわずかに口の端を上げ、素の自分をさらけ出せるこの二人とまた共に歩める幸運に感謝しながら宿舎への案内を再開したのだった。
そして行われた会食は当然のように盛り上がりを見せた。十年以上会っていなかったのだ。話すことはいくらでもある。
アレンたちはテッサたちとの絆を深め、そして魔王と戦う際になにかあれば協力し合うことと、また機会を作って飲もうと約束し、楽しい時間は過ぎていった。
テッサたちと再会してから数日、アレンたちはいつもどおりに森の木を切り倒して矢の射線を広げる依頼をこなしていたのだが……
「なあアレン聞いたか。ついにシャロリック殿下が王都を出立されたそうだ。その随伴として聖女も同行しているらしい」
「らしいな。エミリーが来る前に終われば一番良かったんだが、こればっかりは仕方ない。襲ってくるモンスターも日々増えてきているし、決戦間近って感じだしな」
斧で木を切り倒していくナジームたちを守るように、少し森に入って周囲を警戒していたアレンとライオネルが情報を交換する。
二人の目の前にある穴の中には倒されたモンスターが折り重なっていた。
なるべくモンスターたちを刺激しないように斧を使ってちまちまと木を切っているのだが、あまり間をおかずに襲ってくるようになった今、その必要はないんじゃないかとアレンは思い始めていた。
「まっ、依頼は依頼だしな。さて、とりあえず俺はネラとして偵察に行ってくる」
「気をつけろよ」
ライオネルの言葉にひらひらと手を振って返し、アレンが森の奥へと姿を消す。
そして人気の代わりにモンスターの気配があふれる森の中でアレンは素早くネラの衣装に着替えると慎重に森の奥に向かって進み始めた。
実際のところアレンは森を切り開く依頼をこなしていない。その依頼はライオネルたちに任せ、その間にネラとして森の偵察を行っていた。
一番の目的は魔王を発見することだが、他にもネラが実際にこの地に来て活動をしているという実績作りのためでもあった。
(さすがに範囲が広すぎるんだよな。モンスターもうようよいやがるし)
心の中で愚痴を吐きながら、アレンはできる限り気配を消して森の中を進んでいく。
聞いていた情報のとおり奥に行くほど強力なモンスターがひしめく森は、その奥になにものかがいることを予見させた。
(運よく魔王だけを発見できて、しかもそれが俺の倒せるくらいの強さだったらすぐに解決できるんだけどな)
そんな都合の良すぎる考えにアレンは苦笑し、次の瞬間木の陰に身を潜めて聞き耳を立てる。
一瞬ではあるが、なにかに視線を向けられたのを感じたためだ。
慎重に周囲をうかがったアレンは、その少し前方に潜む三人の冒険者の姿を見つける。
(なんでテッサたちがここに?)
アレンの方に向けて小さく手招きするルパートの指示に従い、アレンが木陰から静かに三人の下に駆けつける。
奇抜な格好をしながら一流の斥候のような熟達した動きを見せるネラの姿に、少しだけルパートが目を見開いて驚いた。
「妙なところで会ったね、ネラ」
「なにをしている?」
「メルキゼレム様からの依頼で森の中の偵察さ。出来る範囲でって許可はもらってるよ」
ひそひとと小さな声でテッサとアレンがやりとりをする。
その答えを聞いてアレンは安心していた。また勇者の卵であることを理由に無茶な依頼を振られたんじゃないかと考えていたからだ。
テッサたちは幾多の経験を積んだ、熟練のパーティだ。その条件であればよほどのことがないかぎり大丈夫。そのことをアレンは理解していた。
「あんたも同じようなことかい?」
「そうだ」
「それじゃあ、今日は……」
テッサが言葉を切り、顔を上げて鋭い瞳で前方を見据える。そして周囲にいた三人も同じ方に顔を向けていた。
皆の顔に先ほどまでの余裕の色はない。
肌を刺すような禍々しい気配を誰もが感じ取っていたのだ。
呼吸することさえもできず向けられた視線の先にいたのは、まだ十歳かそこらに見える少女だった。純白のローブの上に吸い込まれるような黒のマントを羽織り、軽くウェーブした黒と白のメッシュの髪を揺らしている。
その視線は四人のいる場所へと向けられていた。ただその感情を感じさせない作り物のような顔の半分は、目を吊り上げた仮面に隠されてしまっていたが。
「やばい、撤退するぞ」
「魔王」
あれは人間に見えて人間じゃない。それをいち早く察したルパートが指示を出し、アレンもその姿を目に焼き付けるとそれに従おうとした。
皆が即座に反応する中、テッサだけが全く動かなかった。その視線は少女に固定されたまま、わなわなと体を震わせている。
「なんでだ?」
「テッサ、はやく逃げ……」
「なんでここにいるんだ。スー!!」
心の奥底から発されたような悲痛なテッサの叫び声が、森の中に響き渡った。