軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第31話 決戦の地

王都を出て街道を北へ馬車で走ること2週間と数日。アレンたちは目的地であるソドモ砦にたどり着いた。

過去に壊滅した領都を利用して建てられたその砦は、ライラックほどの広さではないもののこれまで通ってきた各領の街と比べかなり広かった。

一度は崩壊したとは思えないほど立派な防壁で守られており、その上に立つ兵士たちは油断することなく北にある森の監視を続けている。

しかしアレンたちの目を奪ったのはそんな砦の様子ではなく、その砦の北側の視界を全て遮るように横長に設えられた高さ5メートルはあろうかという防壁だった。

「長いな。もしかして海まで続いているとかないよな?」

「さあな。でも前々から準備していた、というのは本当らしい」

ステータスの上昇により常人をはるかに超える視力を手に入れているアレンにもその防壁の端は見えない。

少なくとも十キロ以上続くその建設にどれだけの時間と費用がかかったのか、そんなことを考えて苦笑するアレンに、ライオネルが少しだけ笑みを浮かべながら返した。

そしてアレンが手綱を操作し、止めていた馬車を砦の門に向けようとした瞬間、二人の表情が固まる。

その防壁の手前、先ほどまではなにもなかったはずの場所の地面がむくむくと隆起したかと思うと、防壁よりも高い円柱が現れたのだ。

「おい、今のって……」

「ああ、魔法だな。さすが魔王と戦うための最前線。あれほどの魔法使いがいるんだな」

現れた円柱が少しずつその姿を変えていき、塔と呼んでも差し支えないほど立派な建物になってその動きを止める。

おそらく土の中級魔法と、形を整えるモールドを使用したんだろうとあたりをつけているアレンに、真剣な表情でライオネルが尋ねる。

「俺にはあそこまでの魔法の制御は無理だ。アレンならいけるか?」

「魔法で地下室を造ったりしたことはあるからライよりは上手くできると思うが、あそこまでできるかと言われれば微妙だな。慣れればなんとかなる気もするが」

「つまりあそこにいるのは魔法を極めた誰かってことか」

少し悔しげな表情でライオネルが出来上がった塔を見つめる。

レベルアップの罠とレベルダウンの罠を利用し、ライオネルはアレンほどではないものの常人離れしたステータスを手に入れている。

しかしそれでも届かない頂に自らの力で到達した者への尊敬、そしてどこか後ろめたい気持ちがライオネルにそんな表情をさせていたのだ。

そしてそんな真っ直ぐなライオネルの思いをアレンが察することができないはずがなかった。

「どんな力であろうと、それでなにを成すのかが一番大事だろ。俺たちがここに来た理由は?」

「魔王を倒すこと」

「だろ。まっ、強い仲間がいて良かったなくらいに思っとけって」

軽くライオネルの肩を揉み、アレンが手綱をさばいて馬車を進ませる。アレンたちと同じように突然出来上がった塔を見つめて足を止める冒険者や商人たちに注意を払いながら。

砦の中という一般人はなかなか入ることのない場所に足を踏み入れたアレンたちの目にまず飛び込んできたのは飲食店や武器屋などが並ぶ大通りだった。

そこでは冒険者たちを呼び込むために商人や従業員が声をかけており、なかなかの賑わいを見せていた。

「よお、兄さんたちは商人の護衛? それとも魔王と戦おうとする勇士かい?」

「後者だな」

アレンたちに声をかけてきた冒険者ギルドの制服を着たウサギ耳をした男に、ライオネルが答える。

その返答に男はニヤリと笑みを浮かべると通りの先を指差した。

「じゃ、あっちに仮設の冒険者ギルドがあるから到着報告を頼むぜ。あんたたちみたいな腕利きが集まってくれて嬉しいねぇ」

「できる限りのことはするさ。そっちも お仕事(・・・) 頑張りな」

わざわざ『お仕事』に少しだけアクセントをつけてニヤリと笑い返したアレンに、男の笑みが深くなる。そして二人は合わせた視線をどちらからともなく外すと、何事もなかったかのように別れた。

しばらく馬車を走らせたところで、ライオネルが御者席から少し体を乗り出して後ろを振り返る。そんなライオネルにアレンは前を見据えたまま話しかけた。

「かなりの実力者だな」

「ああ。普通のギルド職員ではないのは確かだな。冒険者が依頼されたのか、冒険者ギルドに元々そういう駒があるのかどっちだと思う?」

「さあな。どっちにしろあそこである程度判別してくれるっていうのであれば、俺たちにとっては都合がいいだろ」

「違いない」

アレンの言葉にライオネルが笑う。

そうしている間にも馬車は進んでいき、仮設というには少々立派な建物にかかった冒険者ギルドのマークをアレンは見つけた。

その前で馬車を止めたアレンはナジームたちに馬車を任せ、ライオネルと共に冒険者ギルドの中に入っていく。

仮設といえど基本的な造りは各地にある冒険者ギルドに準じており、ホールの先にはいくつかの窓口があり、壁面にある依頼の掲示板にはいくつかの紙が張り出されている。

ホールに足を踏み入れたアレンたちに刺さるいくつもの視線を二人は受け流し、自然な足取りで窓口に進んでいく。

おかっぱ頭をした受付嬢が、二人に向けてにこりと笑みを浮かべた。

「ようこそ、冒険者ギルド、ソドモ砦臨時出張所へ。お名前とどこから来たのかをお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「俺はライオネル、こっちはアレンだ。ライラックからきた冒険者パーティ『ネラ』で所属しているのはネラ、ライオネル、アレン、ナジーム、ピート、パーシー、トリンの7名。全員がミスリル級冒険者だ」

その名を聞いたその受付嬢の眉がピクリと動く。その顔には自然な笑みが浮かんでいるが、わずかに瞳が動いているところを見るとネラ本人を探しているんだろうと二人は察した。

冒険者界隈で、ネラの名は良くも悪くも広がっている。実際に見たことはなくとも奇抜な格好をしていることはギルド職員であれば知っているのは当然だ。

「ネラは砦には入っていない。あまり騒がれるのが好きじゃなくてな」

「ではどこに?」

「どっか外で野営でもしているんじゃないか? まっ、戦いになれば姿を現すだろうから安心してくれ」

肩をすくめてそんなことを言ったアレンに、受付嬢が困惑した眼差しを向ける。自分で言っておいてなんだが、安心できる要素がないよな、と内心アレンは苦笑していた。

それ以上ネラについて話すことはないと示す二人の態度に、受付嬢は諦めたように少しだけ息を吐き、その表情を元に戻した。

「それではここでの全般について説明させていただきます。基本的にこの砦に拠点を置いた冒険者はそれだけで国からの依頼を受けているという扱いになります。魔王が攻めてきたら即座に応戦する義務が発生しますが、今日のように何もなくても報酬は支払われます」

そう言って受付嬢に示された額は、一人当たり三万ゼニーだった。

なにもしなくても月に百万ゼニー近くを得られるということにはなるが、ミスリル級の冒険者の稼ぎとしてはたいした額ではない。ライラックのダンジョンを一回攻略すればその何倍、下手をすれば十倍以上もの報酬を得られるのだから。

「宿舎があるという話だが空きはあるのか? 万一に備えて馬車でやってきたから最悪そこに泊まるつもりだったが」

「ミスリル級以上の宿舎にはまだ余裕があるはずです。あとでご案内しますね。それと、よろしければ、ギルドで馬車の買い取りを行っておりますのでご検討いただければと思います」

「万が一のためにか?」

「はい。そういったものが必要になってくる事態に発展する可能性がありますから。もちろんこちらは強制ではなく任意ですので」

「わかった。後で相談してみよう」

「ありがとうございます」

深々と頭を下げた受付嬢が、その後も色々な話を続けていった。街にある様々な施設の説明や、普段他の冒険者が何をしているのか、街の外に出るときの注意点などその話は多岐に渡る。

それらを聞き終えた二人は、「それでは宿舎の案内をさせていただきます」という受付嬢の言葉にうなずいたのだが、ふと視線を落とした彼女がそこに書かれていた文字を見て顔を上げる。

「ライラックからアレンという冒険者が来たら呼んでほしいという方がいらっしゃるのですが、アレン様いかがいたしましょうか? 名前だけ伝えられているので人違いである可能性もありますし、先方からも出来ればでいいとはうかがっていますが」

アレンとライオネルが顔を見合わせる。

たしかにライラックにはアレンという名の冒険者は何人かいる。しかし彼らはまだまだ新人だったり、半ば冒険者をやめてしまったような者ばかりだった。

魔王と戦う最前線にやってくるような者は自分以外にはいない。だから人間違いといういう線は薄いだろうとアレンは考え、ライオネルも無言でうなずいて返した。

「ちなみに先方ってのは誰なんだ?」

そう聞いたアレンに、その受付嬢は淡々と返す。

「王宮筆頭魔術師であらせられるメルキゼレム様です」

そのあまりにも有名な名前にアレンは頭を抱えたい衝動に駆られ、なんとかそれを抑えたが、それでもその頬はひくりと引きつってしまっていた。