軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第27話 それぞれの愛

翌朝、家族全員で食事をとったアレンは屋敷の前で皆と向き合っていた。

笑顔で別れようと決めていたのだが、必死で涙をこらえるレックスの姿にアレンも思わず涙腺が緩みかける。

そんなレックスの頭を強めに撫で、マチルダとその胸に抱かれたアマンダにアレンは微笑みかける。そして伸ばされた小さなアマンダの手を優しく握ると、アレンは小さくうなずいた。

「じゃ、行ってくる」

「うん。いってらっしゃい」

マチルダの瞳もわずかに潤んでいたが、綺麗な笑顔でアレンにいつもどおりの言葉を返す。それにアレンは力強い視線でうなずいて返し、その視線を脇に立っていたレベッカ、コルネリア、ルトリシアに向ける。

「あとは頼んだ」

「レベッカちゃんに万事まかせなさいって! レン兄が帰ってくるころにはレックスを立派な商人にしてあげるから」

「いや、そんなことは頼んでないだろ。まっ、レックスが嫌がらないなら好きにしろ」

「うん。驚かせるから、だから絶対に帰ってき……て」

こらえきれなくなったのか顔をくしゃくしゃに歪めたレベッカを、コルネリアが優しく抱く。そしてその頭を優しく撫でながら、コルネリアは静かにアレンを見返した。

「ご家族は絶対に私が守ってみせます。だからご安心を。ご主人様の一日も早いお帰りをお待ちしております」

「ご主人様の進む道にユエル様の加護があらんことを」

コルネリアに続き、ルトリシアが綺麗なお辞儀をアレンに返す。それに歯を見せて笑ったアレンは皆に背を向けて歩き出す。

街の北門で待つ、ライオネルたちと合流するために。

このライラックの街を歩くこともしばらくないのか、などと少し感傷にひたりながら大通りをアレンは歩いていき、そして北門の近くで馬車の荷物を確かめているようにしているナジームたちを見つけた。

「よっ、悪いな。馬車の準備とか全部任せちまって」

「っと、アレン。ちょっとこっち来い」

ナジームが少し驚いたように振り向き、強引にアレンを馬車の陰に引っ張っていく。その有無を言わせぬ仕草に少し驚きながらアレンがついていくと、そこにはピート、パーシー、トリンが荷物の点検をしていた。

しかしすぐにアレンは気づく、3人の視線がときおり違う方向に向かっていることに。

アレンも何気ないようすでそちらにチラッと視線を向けると、そこにはライオネルと一人のエルフの女性が向き合っていた。

「ライオネルとセリオノーラか?」

「おう、出立前の一世一代の告白ってやつだ」

「いや、なんであいつこんな直前に……あぁ、そういうやつだったわ」

アレンのその言葉に、四人が苦笑いを浮かべる。

ここまでセリオノーラを連れてきた時点で、ライオネルがセリオノーラのことを意識しているのは明らかだった。

なにせエルフの出身地であるヴェルダナムカ大森林を横切ってやってきたのだ。魔王が復活すると知っていてなお、セリオノーラを里に帰さずにライラックまで連れてきた。証拠としてはそれだけで十分すぎる。

そしてセリオノーラがライオネルを好いているということは誰の目から見ても明らかだ。その視線が、行動が全てを物語っているし、それはライオネルも承知しているだろう。

勝ち目しかない告白なのに、いまセリオノーラの前でライオネルはがちがちに固まってしまい、話すそぶりすらない。気の長いエルフでなければ、今頃呆れられていただろう。

「はぁ、へたれだな」

「ギルド嬢にずっと告白できなかった昔の誰かさんを見ているみたいだね」

「変なところで似てるよな、お前らって」

にこやかにアレンを見つめて笑うピートにナジームが同意する。それにアレンは苦々しい顔をしながらも言葉を返すことは出来なかった。

二十年近く片思いし続けたアレンは、へたれの自覚がないとは口が裂けても言えなかった。

そんなアレンを諭すようにトリンが聖職者らしい微笑みを浮かべる。

「愛の道は人それぞれ。ゆっくりでもいいのです。ユエル様もそう仰っています」

「でもいい年したおっさんたちに見守られての告白だぞ?」

「我々の友愛の証です」

「おい、そろそろ動きがありそうだ」

微笑みを絶やさぬトリンに少し首をひねりながらアレンは返したが、トリンは全く気にした様子はなかった。

そんな風に少しがやがやと盛り上がるアレンたちに、冷静にことの推移を観察していたパーシーが注意を促す。

その瞬間、皆がさっと話を切り上げ気配を消したのはさすが一流の冒険者といったところかもしれないが、30を超えたおっさんたちがそんなことをしていると考えると滑稽でしかなかった。

皆の視線の先で、どこか引きつった表情をしていたライオネルが腰に提げたマジックバッグに手を突っ込むと小さな白い箱を取り出す。

そして姫にかしづく騎士のようにその膝を折ると、その箱を開けてセリオノーラの前に掲げた。その箱の中で銀色に輝く指輪を見たセリオノーラが目を潤ませる。

「色々と考えてはみたんだが、どうも俺は言葉で伝えるのが苦手でな。だから俺の気持ちが示せるものを用意したんだ。セーラ、これを受け取って欲しい」

「本当に、私でいいんですか?」

「 君が(・・) いいんだ。俺は君との未来を築きたい。もっと早く伝えられればよかったんだが」

少し後悔の色を見せるライオネルとは違い、セリオノーラの顔が喜色に染まっていく。

そしてセリオノーラは、まるで壊れ物に触るかのように指輪を手に取ると、それを迷うことなく自らの左手の薬指にはめた。

顔をほころばせたライオネルに飛び込むように抱きついたセリオノーラが、ライオネルの唇を奪っていく。

「愛してます。大好きです、ライオネル様」

「俺もだ」

人目をはばからず口付けを交わす二人に、周りから好奇の視線が集まっていく。しかし幸せの絶頂にいる二人が気づくことはなかった。

「大団円って感じだが、なんでお前ら泣いてんだよ」

馬車の裏からこっそりとその様子をうかがっていたアレンが、周囲で静かに涙を流すナジームたちに呆れた視線を向ける。

たしかにアレンも、ぐっと心にくるものがなかった訳ではない。しかしさすがに涙を流すほどには感情移入はできなかった。

「あのライオネルがついに結婚すると思うと、な」

「子どもが巣立つとき、親はこんな感情を抱くのでしょうか?」

「かもしれないな」

「うーん、僕らしくはないんだけど、ちょっと我慢できなかったね」

それぞれの胸の内を吐き出しながら、ナジームたちがお互いをみて笑みを浮かべる。

自らの正義感に従い、ときに無茶をするライオネルを、ナジームたちはずっと見守ってきたのだ。それによって救われた自分たちが、それを手助けするのは当然だと言って。

途中で抜けてしまったアレンより、彼らの絆は固く太い。それを知っているからこそ、アレンはそれ以上は何も言わなかった。

アレンは再びライオネルに視線を向ける。いつの間にかライオネルは立ち上がっており、抱き合った二人の姿はまるで絵画のように様になっていた。

しばらくそれを眺めたアレンが、腕を組んでうーんと考えだす。そして四人に向けてある提案をした。

その言葉を聞いたナジームたちは、笑顔でその提案を受け入れるとさっそく準備にとりかかり、アレンは彼らにあとを任せてライオネルたちに近づいていった。

「おめでとう、二人とも。気持ちが通じ合ったみたいだな」

「ありがとうございます、アレンさん。おかげさまでライオネル様に告白していただけました。アドバイスをくださった恩、私は決して忘れません」

「なっ、アレン! いつからそこに?」

にこやかに返してきたセリオノーラとは逆に、ライオネルが気まずそうな顔で尋ねる。

本当に気づいてなかったのかよ、と苦笑しながらアレンはそれを適当に流すと、既に出立の準備が整えられた後ろの馬車を指差す。

「馬車の準備が整ったんでそれを伝えに来たんだ」

「そうか」

「そうでしたね」

先ほどまで二人の間で漂っていた幸せオーラが薄くなっていく。ここに来たのは別れを告げるためでもあったことを思い出したのだ。

そしてライオネルはその表情を真剣なものに変えると、セリオノーラを真っ直ぐに見つめる。

「セーラ、俺は絶対に君の元に帰ってくる。だから少しの間待っていてくれないか?」

「いつまでもライオネル様をお待ちしています」

見つめあう二人の気持ちが高鳴っていくのを、そばにいるアレンも感じていた。

ちらりとアレンが馬車のほうに視線をやると、御者の席に座ったピートが軽く手を振り、それに馬たちが反応してゆっくりと動き出す。

そしてアレンは再びライオネルたちに視線を戻すと、小さく笑った。

「じゃ、俺たちは先に行くからライは後で走って追いかけて来い。王都まで馬車だと二週間くらいかかるだろうし、三日くらいなら余裕で間に合うだろ」

「いや、何を言ってるんだ?」

そんな馬鹿なことを聞いてきたライオネルにアレンはため息を吐き、そしてその首に腕をかけて強引に引っ張る。

「せっかく思いが通じ合ったんだ。少しは二人の時間を楽しめってんだよ、この馬鹿が」

「いや、しかし……」

「あいつらも了承済みだ。じゃあな、早く戻ってきやがったら蹴り帰すから覚悟しとけよ」

そう言い残すとアレンは動き始めた馬車の御者台にするりと体をすべらせ、そして二人に向けてにやりと笑みを浮かべた。他の四人も同じような笑顔で手を振り、そして馬車はライオネルたちを残して北門から去っていく。

ぽつりと残されたライオネルとセリオノーラは小さくなっていく馬車をしばらく見つめていたが、その手はお互いの愛を確かめるようにしっかりと絡まっていた。