作品タイトル不明
第37話 壁抜けの方法
家族との団らんを楽しみながら、ドルバンの工房で研究を繰り返すこと二週間。久しぶりにネラとしてライラックのダンジョンにやってきたアレンは順調に探索を進めてきた。
五十階層のエルフたちが管理する小屋に泊まり体調を万全にしたアレンは、黙々とレベル上げと属性付きの魔石を得るためにエレメントバットの大群と戦い続けるエルフたちに軽く手を振って別れを告げ、歩を進めていく。
そしてその途中でちらりと視線を横に向けた。
(ここまでやってくる冒険者が出始めたか)
エルフたちが戦う入り口付近から少し離れた場所で戦う冒険者パーティをアレンが眺める。見たことのない顔の六人組のパーティだったが、後衛の三人の魔法使いがタイミングよく魔法を放ち、そつなく対応が出来ている。
前衛とそれをフォローする中衛の動きも良く、金級上位かミスリル級の冒険者であろうとアレンは推測していた。
昨日アレンが小屋に入ろうとしたところ近くにテントが張られており、その前で二人の男が談笑をしていたのでエルフ以外に冒険者が来ていることはわかっていたのだが、こうやって戦っているところを見ると少し感慨深いものがあった。
(小屋を増設した方がいいか? いや、でも誰が管理するんだって話だしな)
暗闇の中を進むアレンにエレメントバットが群がることはなく、たまたま近くにいて襲い掛かってきたものたちをステッキで殴り飛ばしながらアレンは進んでいく。
イセリアがここで戦ってレベル五百まで上げたことからもわかるように、この五十一階層は広範囲を属性攻撃できる魔法使いにとってはレベル上げに最適な場所ともいえる。
通常、高レベルの冒険者たちが探索している階層は単体として強いモンスターが生息していることが多い。それを前衛と協力して倒していくのだが、遭遇するまでや戦いにかかる時間などがあるためレベル上げの効率としてはあまりよくないのだ。
その点、この五十一階層は実力に見合わない者が挑めば物量におされて屍をさらす事態になりかねない危険な階層ではあるが、先ほどの冒険者パーティのように安定して戦いを運べるのであればそれらの問題は解決できている。
むしろエルフの小屋の付近にテントを張ることで安全性が増していることを考えれば、かなり条件のよいレベル上げの場所だといえるのだ。
(将来的には高レベルの冒険者パーティが集まってくるかもな。事故とかトラブルも増えそうだが、高レベル同士ならそこまで馬鹿なことにはならねえか?)
そんな余計な心配をしながらアレンは下層へと向かっていき、そして七十一階層にたどり着いた。
相変わらずの白い壁に頬を緩ませたアレンは前回と同じように通路を真っ直ぐに進んでいく。二つの十字路を通り過ぎてしばらく行ったところに、検証に使った壁が今回もあることを確認したアレンは笑みを浮かべた。
「本当に通路の配置に決まりがあるのかもな」
そんなことを呟きながらアレンはマジックバッグに手を突っ込んで用意を始める。といっても直径八十センチ、高さ三十センチほどの円筒を取り出しただけだったが。
アレンはその円筒を床に置き、ストレッチを始める。そして大きく息を吐いて心を落ち着けると白銀に輝く円筒のふちを掴んだ。
「じゃあ始めるとするか」
円筒を両手で掴んで胸の前に掲げ、アレンがそこに魔力を流し始める。円筒に刻まれた魔法陣がそれに呼応するように光を放ち始め、アレンが持っているのと反対側の端、鋭い刃のように鋭角な先端を覆うように風が渦巻き始める。
アレンが円筒の先端を白い壁に近づけていく。そして円筒の先端が触れる直前、白い壁は高速回転する風の刃に削られていき円形の傷跡がそこに残った。
アレンはそれを見てニヤリと微笑むと、近づける速度や深さを変えたりしながら何度もそれを試していく。
魔法陣によって発生した高速回転する風の刃は問題なく白い壁を切り裂いていき、吸われる魔力が急増したことでしっかりと黒い壁にまで到達したことを確認したアレンが笑みを増す。
「よし、いい感じだな。じゃあ次の検証に、っと」
円筒を引き抜いたアレンが壁からゆっくりと離れていく。そして再び胸の前で円筒を掲げ魔力を流し始めるとそのまま壁に向かって突進した。
風の刃が白い壁を削り、黒い壁に到達する。先ほど止まったそこをアレンはそのまま突き進み、刃の先端が黒い壁に触れる。
ずぶりと白銀の刃が黒い壁に埋まっていく感覚を、アレンは魔力を奪われつつ覚えた。アレンは歯を見せて笑うとそのまま先へと突き進む。
「おらっ!」
円筒の根元近くまで壁に押し込んだアレンが声をあげ、円筒を押しながら内部の白い壁をブーツの底で向こう側へと蹴りつける。
内部の白い壁のずれる感触がアレンに伝わり、アレンの押し込んでいた円筒が内部の白い壁に引っ張られるようにアレンの手からするりと抜けていった。
白い壁と円筒が壁の向こうへと消えたそこに残されたのは、壁に開いた円筒の形そのままの穴だった。
「よしっ!」
喝采を上げながらアレンがその穴を使い、余裕をもって壁を通り抜ける。壁の向こうにたどり着いたアレンは振り返り、ゆっくりと円形の穴が小さくなっていく様子を眺め続けた。
穴が完全にふさがれ、以前と同じ傷一つないつるりとした白い壁に戻ったことを確認し、アレンは自分の手のひらを見つめる。
無理矢理魔法と物理で通り抜けたときよりもはるかに軽い負担に手ごたえを感じながら。
しばらくそうしていたアレンだったが、そばに落ちている円筒を拾い、内部に残ったままだったくりぬいた壁を取り外すと状態の確認を始める。
見たところ魔法陣に歪みや欠損などは発生しておらず、黒い壁をくりぬいた刃状の先端にも欠けはない。魔力を流してやると問題なく風の刃が高速回転を始め、今すぐにでも同じことができそうな状態だった。
「うまくいきすぎだな。さすがミスリル……というか、ゾマルとドルバンの腕のおかげか」
白銀に輝くミスリル製の円筒を眺め、アレンが微笑む。
この円筒はこの七十一階層の壁を抜くためだけに作られた魔道具だ。円筒状のボディには魔法陣が組み込まれており、魔力を流すことで高速回転する風の刃を発生させ、アレンが持たない円筒の先は鋭い刃になっていた。
魔法しか効かない白い壁を風の刃で切り裂き、黒い壁を円筒の先の刃で貫いた上で、その先の白い壁を再び風の刃で切り裂いて穴を開けるという仕組みだ。
魔力が吸収されすぎるのは魔法の効果範囲が広いからなのだから、それを限りなく小さく穴の外周部分だけにして中身はそのままくりぬいてしまえばいいんじゃないか、というアレンの思い付きをゾマルとドルバンが形にしたのがこの円筒の道具だった。
アレンの持ち帰った黒い壁の特性などを二人が調べ、おそらくこれなら大丈夫だと設計してくれたのだが一つ問題があった。
武器の素材だ。
二人は鋼鉄などで試作品を作ってみたのだが、黒い壁を貫通した後に風の刃が発生しなかったのだ。
その後魔法陣を変えたり、素材を変えてみたりと検証していった結果下された結論は、素材の魔法陣が魔力を保持する力より黒い壁が魔力を吸収する力の方が強すぎ、結果として風の刃を発生させる魔法陣が途切れてしまっているというものだった。
そしてそれを解決するために二人がアレンに打診したのは、この魔道具をミスリルで作るということだった。
二人によって作られた円筒の魔道具は、期待以上の働きをしてくれた。これがあれば壁に通路をふさがれる心配をせずにこの七十一階層を探索することができるようになる。
とはいえ今回は検証するに留め、本格的な探索は次回以降にしようとアレンは決めていたが。
円筒の魔道具を軽くなぞりアレンが苦笑する。
「ゾマル作のミスリルの剣がなくなったのは残念だが、今の俺にとって必要なのはこっちの方だしな」
そう呟き、アレンは再び壁を抜くべく、円筒の魔道具を胸の前に掲げたのだった。