軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第34話 アレンの決断

高級ポーションの補充や探索に必要そうなものを準備する間、アレンは七十一階層の攻略に向かうことはなかった。

胸の内にたまった恐怖を拭い去るように家族とゆったりと過ごしたのだ。

また、休みをとった翌日にはアレンの秘密を聞くと決断したコルネリアに、自分がネラであることを伝えたりもした。驚くコルネリアをアレンは久しぶりにダンジョンに連れて行き、実力の片鱗を見せながらコルネリアのレベルアップを手助けした。

アレンに見守られながら格上のモンスターとの戦闘を繰り返したコルネリアは、短い期間であったのにもかかわらずかなりのレベルアップをとげ、めきめきと実力をつけていく。

これまでコルネリアはセンスは抜群ではあれどレベルがそこそこであったため実力で言えば鉄級下位程度だったのだが、一か月弱という短い期間で鉄級中位から上位あたりに届くくらいに力をつけていた。

普通の者であれば数年、下手をすれば十数年単位の努力の末に成し遂げられるはずの成果だ。それが可能になったのは、二人だからこそだったのだろう。

そんな日々を過ごしながら、アレンは考え続けていた。これから自分はどうしていくべきなのだろうかと。

冷静に考えてみれば、もし二人目の子が勇者の卵であったとしてもそこまで問題はないのではと思えた。現状、領主であるナヴィーンとアレンは友好的な関係を築けている。

現状ライラックにいる勇者の卵はレックスを含めて二人であり、まだ枠に余裕はある。二人目の子もその枠に入れて欲しいとアレンが頼んだとしても、なにかしらの対価を要求される可能性はあるが無茶なことは言われないだろうとアレンは考えた。

最悪、それに見合う対価をその時に示して見せればいいのだから、今無茶をする必要はないのだ。

それよりもアレンの事情を知ることとなったコルネリアを育てて、アレンの不在時に不測の事態が発生した場合も対応できるように足元を固めた方がいいのではないかとも考えた。

ついでにドルバンやゾマルなどのレベルアップも一緒に手伝ってやればいい。いざというときにアレンの正体を知る二人に助けを求めるかもしれないことを考えれば、悪くないアイディアだといえた。

そこまで考えてアレンが大きくため息を吐いて天井を見つめる。

屋敷の一室。アレンが自分で作製したポーションなどを保管するために使っている部屋の机の上には高級ポーションや探索に使うために用意してきた道具が並んでいた。

七十一階層の探索を始める準備はひとまず整っている。残すところはアレンがどう決断するかだけだった。

天井を見つめていたアレンが深い息を吐き、目を閉じる。

現状で攻略を急ぐ必要はない。そう理解しつつも、アレンは本当にそれでいいんだろうかという思いがずっと消えなかった。

未知の場所に向かう冒険心が全くないとはいえない。物語や噂話で憧れた英雄譚と同じことを自分がしているんだという高揚感もある。

しかし改めてなぜ自分は攻略を進めようとしているんだと理由を考えたとき、アレンの頭に浮かんだのは一年前にエルフの里へと旅立ったイセリアの姿だった。

あれから一度としてアレンはイセリアと会っていない。手紙くらいはくるかとも思っていたのだが、それすらなかった。

だからだろうか。アレンは最後にイセリアとレベル上げしたときの印象が強く残っていた。イセリアがなにかを伝えようとしていたことを。そしてアレンのことを考えてそれを飲み込み、自分だけで旅立ったことを。

伝説の勇者であるアーティガルドに憧れ、絶望の中にあっても進み続け、そして未来を切り開いた勇者の卵。

純真で、素直で、懸命で、頑固で。自分のことよりも他人を優先するお人好し。偶然の出会いではあったが、そんな彼女をアレンは放っておけなかった。イセリアの成長を促し、見守ってきた。

イセリアは勇者たらんとしてはいたが、ひたすらに強さを追い求めるようなことはしていなかった。探索を休む日には普通に街を散策し、買い物を楽しんでいた。その姿は、年相応の女性そのものだった。

そんな彼女が思いつめた様子で、死に物狂いになってレベルを上げることに注力していた。その裏にはなにか事情があったはずとわかっていたのに、アレンはイセリアの優しさに甘えてしまったのだ。

アレンが天井に向いていた顔を戻し、ゆっくりと目を開いて机の上を眺める。もちろん対面にイセリアがいることなどない。

音沙汰のないイセリアのことを知る手段をアレンは持っていないが、それでも彼女が今も強くなろうと努力し続けていると確信していた。

「困ったときには助けになるって約束したしな」

イセリアのためにアレンの知識全てを詰め込むように書いた本をしっかりと有効活用してくれれば手助けする必要もないかもしれないけどな、などと思いつつアレンが苦笑いする。

そしてアレンは手を伸ばすと、机の上に並んだ探索用品をいつものマジックバッグにしまっていった。

その目には強い光がともっており、アレンが迷いを吹っ切ったことを示していた。

「いい武器や防具なんかが出たら役に立つかもしれねえし。それに、弟子に簡単に抜かれるのはちょっとしゃくだしな」

そう独り言を呟いて立ち上がったアレンは、部屋をあとにした。愛すべき家族と、手助けしてくれる仲間たちに自分の決断を伝えるために。

七十一階層の探索を続けると告げたアレンに、マチルダは「なんとなくそうなるって思っていた」と言って、あっさりとそれを受け入れた。

そして絶対に死なないように、とマチルダに厳命されたうえでアレンは再びネラとしてライラックのダンジョンの探索を始めた。

「さて、着いたはいいが……」

罠の階層に若干の時間は取られつつも、順調に進んだアレンは再び七十一階層に降り立った。

目に映るのは相変わらず特徴のない白い通路なのだが、その実態を知っているアレンにはとても不気味に感じられた。

少し早くなった鼓動を落ち着かせるように、アレンは数回深呼吸を繰り返し、自分の頬を張って気合を入れる。

「とりあえずは近場で壁の壊し方の研究といくか。最悪前と同じ方法で脱出は出来るはずだが、あんな怪我はごめんだしな」

口を歪めながらアレンがゆっくりと歩き出す。一応持ってきた前回作製した地図と照らし合わせながら進んでいたアレンだったが、すぐに不思議なことに気づいた。

「同じ、だな。たまたま偶然かもしれねえけど。来た直後は同じ配置になっているとかあるのか? しかし確かめるために奥まで進んで面倒なことになるのもあれだし。まあ、おいおい確かめるか」

二つの十字路を直進し、右側が壁にふさがれた丁字路で止まったアレンは地図をしまう。

この右側の壁は変化する壁である。前回の探索時に何度もその変化を確認し、翻弄されたのだから忘れるはずがない。

この七十一階層は十字に通路が交わった造りになっており、そのどこかがふさがれている場合、そこは変化する壁である。アレンは前回の経験からそういう風に判断していた。

もしかしたら端まで行けば違うのかもしれないが、などと考えながらアレンが壁の対面の通路の奥に少し進んで振り返る。

「じゃあ始めるか。まずは小手調べの『ファイヤーボール』」

伸ばした手の先からアレンが巨大な火球を壁に向かって放つ。辺りをまばゆいくらいに照らしながら白い壁にぶつかった火球はそれを容赦なく溶かしていき、その勢いのままに壁を貫くかと思われた瞬間、急速にその大きさをしぼませていった。

縮んだ火球の跡を示すように壁には黒い壁が姿を現しており、数秒ももたずに火球は完全に姿を消してしまった。

そして火球が完全に姿を消した瞬間、周囲から侵食するようにして白い壁が黒い壁を覆いつくしていく。その間わずか2秒ほどだ。

「やっぱり黒い壁は魔法を吸収する性質があるんだろうな。で、白い壁の方は……」

マジックバッグからアレンが鋼鉄の剣を取り出す。ゾマルの工法を参考に、休みの間に仕上げたアレン自慢の一本だ。その出来はドルバンが思わずうなるほどの完成度だったのだが……

「けっこう本気で振ったんだけどな」

ぐにゃりと変形してしまった手元の剣と、傷一つない白い壁をアレンが見比べる。

ダンジョンの壁などは確かに強固なことが多いが、それでもアレンが本気で剣を振れば、その風圧だけで跡が残ることもあるくらいだった。

そんな威力のある剣で直接斬られながら、白い壁はびくともしていない。

「物理攻撃に耐える……いや、黒い壁のことを考えると物理攻撃を何らかの方法で吸収しているのか?」

ぶつぶつと考えをまとめながら、アレンは折れ曲がった剣をマジックバッグにしまう。そして次々にマジックバッグから剣やハンマー、斧などの各種武器を取り出して床に置くとにやりと笑みを浮かべる。

「さて、じゃあ検証を始めるとするか」