軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第24話 本当の罠

若干自分の言葉がゾマルの背中を押してしまったような気がしたアレンだったが、これ以上気にしても仕方ないとその考えを切り捨てた。

少なくともゾマルの作った道具のおかげでこの階層の攻略が早くなりそうなのは確実だ。アレンが作製した地図にある罠は、壁に設置されているものを除けば全て発動させているのだ。

まだまだ検証は必要だろうが、攻略に使用しながら改善点を見つけて報告し、ゾマルがそれを改良する形をとればより良いものになっていくだろう。

そんなことを考えていたアレンがふと思い立つ。

「ゾマルの最終的な目標としては、廃都市のゴーレムのような存在を作り上げるってことになるのか?」

「形にこだわりはないが、技術の基礎は模倣から始まる。当面は分解してその思想を理解し、自らに落とし込んでいくことになるだろう」

「鍛冶の方はどうするんだ?」

「後進の育成を手伝いはする」

苦笑いしているところをみると本当はその時間も研究に費やしたいんだろうな、と予想しつつアレンは頬が緩むのを感じていた。

今の状況はアレンにとって都合よかったのだ。

「なあゾマル。ネラが自由騎士の爵位をもらったのは知ってるよな」

「ああ」

「それで領主様から屋敷を与えられたんだが、そこに住んでみないか?」

「ほう」

興味を示したゾマルにアレンは立ち止まり説明を始める。

現状、与えられた屋敷を使用する予定がないこと。領主様からは自由に使ってよいといわれていること。そしてそこにゾマルが住むメリットなどを。

アレンの説明を聞いていたゾマルは、しばし腕を組んで思案し、そして大きくうなずいた。

「たしかにいつまでもドルバンのところに厄介になるわけにはいかんと思っていたところだ」

「ドルバンはいつまでもいてくれと思っていそうだけどな」

「あやつは勝手に伸びる。恩には報いるつもりだが、あまり手を貸す必要はないだろう」

ゾマルのドルバン評にアレンの目が柔らかくなる。

自分の尊敬するドルバンが、目標としているゾマルに高い評価をされていることが嬉しかったからだ。余計な提案しやがって、と後でドルバンに言われたときにかわす理由ができたというのも少なからずあったが。

「じゃあ、検証が終わって街に戻ったら詳細を詰めよう」

「うむ」

そう言って二人はうなずきあうと、先に行ってしまった円柱を罠のある場所についた印を確認しながら追いかけたのだった。

ゾマルが作った罠解除のための道具はアレンとしては大満足の、ゾマルとしては不満の残る結果になった。

少なくとも六十一階層の罠に関してならば、ゾマルの作った道具は全ての罠を発動させてみせたのだ。ただ残念ながら落とし穴については直接的な印を残すことはできなかったが、それも想定の範囲である。

アレン単独で調べていたときに比べれば格段に早いその結果にアレンは満足していた。

一方のゾマルは、改善すべき点を書き出すのに忙しかった。

耐久性といった装置そのものから、使用者が立ち止まったとしても勝手に進んでいってしまう応用のきかなさ、モンスターがいる場合の無力さ、魔石の消費速度、壁面に設置された罠に対する対応など、実際に動いているところを見ると問題が山積していることに改めて気づかされたのだ。

ライラックに戻ったゾマルは、いそいそとネラの屋敷への引越しを済ますとさっそく道具の改良に入っていった。

今回の検証をした結果と、階層の広さを考えるとその改良が済む前に攻略が終わってしまうだろうことは二人ともわかっていた。しかしもうそんなレベルの話ではないのだ。

(使い道のなかった屋敷が少しでもゾマルの役に立つんだ。貴族街で警護も楽になるだろうし、少しくらいはどっちにも恩を返せただろ)

閉じた扉を眺めてそんなことを考えながらアレンは屋敷から去っていく。鍛冶の最中でゾマルが引っ越すということを伝えられなかったドルバンの機嫌をとるにはどうするのが一番いいか、そんなくだらないことを考えながら。

ゾマルの道具を利用しての罠の階層の攻略は今までの苦労はなんだったんだと思うほど順調に進んでいった。

ゾマルは不満に思ったようだが、人がついていかなくても勝手に進んでいくということは、いくつものルートを同時に調査できるともいえる。もちろん罠の詳細を知るためには自分の目でどんな罠が発動するのか確かめる必要があるが、罠のある場所を事前に把握した上で行うことで調査を効率化することができたのだ。

今のところ、壁のものを除けばゾマルの道具で見つけられなかった罠はなかった。レベルアップやレベルダウンの罠のように、人が踏んで始めて発動するタイプのものを見逃している可能性はあったが、それについてアレンは仕方ないと諦めていた。

そもそもダンジョンの地図を一人で完成させるなどありえないのだ。アレンは後からやってくる冒険者のためにもなるべく完璧な地図を完成させようとしているが、それもアレンの善意からくるものだ。

それに付け加えて理由があるとしたら……

「おっ、また宝箱か。やっぱり罠の階層は宝箱が多いな。もれなく罠つきのやつだけど」

円柱の後を追って地図を記していたアレンが、前方に見える木箱を見つけて笑みを浮かべる。

探索速度が上がったことにより、アレンは一日に一つのペースで宝箱を見つけるようになっていた。とはいえ、ミスリルが入っているというような幸運はなく、今のアレンにとってみればガラクタのような武器や防具が入っていることも少なくなかったが。

円柱を止め、周囲の罠を確認したアレンが木箱を眺める。これまでの傾向からすると、宝箱の豪華さと中に入っている物のランクは相関するというのがアレンの推測だった。

その推測どおりであれば、この木箱に入っているのは大したものではないということになる。

「そうわかっていても、開けたくなるのが冒険者の性ってな」

苦笑しながらアレンは宝箱に仕掛けられた罠の解除を始め、開け口に仕掛けられていたワイヤーを処理するとあっさりとその蓋を開けた。

中に入っていたのは濃茶で古めかしいデザインをした木の長杖だった。おとぎ話に出てくる魔法使いが持っていそうなものだが、その見た目に反して大した効果がなさそうだとアレンはなんとなく感じる。

(冒険者の魔法使いってこういう杖を持ってる奴が少ないんだよな。魔法の補助具なら指輪とかの装飾品系が好まれるし、杖でも三十センチくらいのものが主だし)

杖を持ってなんとなく構えながら、アレンが魔法を使える冒険者たちのことを思い出す。

モンスターとの戦闘を考えるのであれば杖で両手がふさがるのは得策ではない。もちろん杖をうまく使うことのできる者がいないとはいわないが、訓練をするのであれば鋭い刃先を持つ剣の方がはるかにモンスターにダメージを与えやすいからだ。

そもそも純粋な魔法使いは近接戦闘が不得手な者も多く、小楯で身を守った方がはるかに安全性は高い。だからこそこういった長杖を使う者はほとんどいないのが現状なのだ。

(まあ、こういうのも格好いいと俺は思うんだがな)

杖を前方に差し向け、魔法を放つような仕草をしたアレンは、くるりとその長杖をまわすとそのままマジックバッグの中に突っ込んだ。

戦いの役には立たないだろうが、いつかレックスがごっこ遊びでもするときに使えばいいだろうと。

「モンスターの素材で稼げない分、宝箱で一発逆転も狙えるが……これまでの傾向を見る限りかなり厳しそうだな。とはいえ俺のようにミスリルを見つけられる可能性もあると知れば狙うパーティはいるだろうが」

なんとなく自分が最初にミスリルを見つけたのは、後から来る冒険者たちを誘い込むための罠だったんじゃないだろうか。そんなことをふと考え、アレンは自嘲の笑みを浮かべて首を振ったのだった。