作品タイトル不明
第23話 目指す道
不安も取り除かれ、家族団らんを心から楽しむようになってからも、根が真面目なアレンは、ネラとしてダンジョン攻略を進めていた。
これまでのように成果を求めて必死に探索するということはなくなったが、二回、三回と探索を続け、着実にその範囲は広がっている。
時間をかければこの方法でも罠の階層を抜けることはできるだろう。そんな風に考え始めていたアレンにゾマルが声をかけ、二人は再びライラックの罠の階層までやってきた。
前回とは違いドルバンは留守番である。足手まといになるからとドルバン自ら断ったのだ。その割に顔はかなり渋く、行きたいのを我慢しているのが丸わかりだったが。
「で、着いたわけだがどうするつもりなんだ?」
「うむ。ちょっと待て」
六十一階層の入り口の階段の前で問いかけたアレンに、軽く左右に視線をやったゾマルがマジックバッグに手を入れて次々に金属でできた円柱状の部品を取り出していく。
直径一メートルほどの部品をゾマルは慣れた手つきで接続していき、通路いっぱいの長さまでに広がった円柱が出来上がる。そしてゾマルはその円柱の中心に手を伸ばしてパカリと開くと、そこに魔石を一つ置いて再び閉じた。
「始める。少し離れろ」
そう短く告げ、ゾマルがその円柱の中心に手を置き魔力を注ぐと円柱はゆっくりと床を転がり始めた。鈍重そうな見た目の割に人が歩くのと同じくらいの速さで円柱は転がっていく。その動きから床にある罠を踏んで発見する感じか、と予想したアレンだったがそれだけではないとすぐに気づく。
「糸?」
円柱の回転にあわせて宙を巡っていく細い糸を見つけたアレンが疑問の声をあげるが、ゾマルはなにを言うでもなくその動きを見守る。
円柱はほどなく罠のある場所にたどり着く。ある場所の床を踏み抜くと、上から毒を塗られた槍が突き刺さるという凶悪なものだ。
円柱がその罠を踏み抜き、天井から槍が突き出される。槍は円柱に傷と毒をこすりつけながら地面に到達すると、どこへともなく消え去った。
円柱はなにごともなかったかのようにそのまま進み続ける。見た目どおり頑丈なその様子にアレンは感心したようにうなずいていた。
「たしかにこの後についていけば勝手に罠が発動してくれそうだな。ある程度の場所もわかるから調査の手間も減りそうだし」
「床の罠の場所ならわかる」
「んっ?」
ゾマルの指差した先をアレンが見つめる。さきほど円柱が通り、罠を発動させた床の1か所に二十センチほどの赤い丸が記されていた。
この場所はすでにアレンは何度も通っているため地図を取り出さなくてもはっきりとわかる。たしかにあの場所にある床を踏むと罠が発動することが。
「どうやって?」
「床に接地した瞬間に下に人が歩く程度の衝撃が伝わるようにしてある。部品単位で行われ、前回と違う反応があればマーキングをする仕組みだ」
「へー、すごいな。そいつが勝手に判断するのか?」
「判断……うむ、そうだな。判断するといって間違いはないだろう」
細い目を緩やかに曲げてゾマルが満足げに微笑む。自分が作ったものが想定どおりの働きをするって嬉しいんだよな、と共感したアレンに微笑ましそうに見られていることに気づいたゾマルが、ごほんと咳払いして場を仕切りなおす。
「問題は落とし穴などの床自体が消えるものだ」
「たしかにな。印が付く前に消えちまうかもしれないし、たとえ付いたとしても復活した床が元の床である保証はない。そんなことを検証した奴自体、いないだろうしな」
「戻った床に印があれば、元の床である証明は可能だ。まあ対応は考えている」
ゾマルの言葉にアレンもうなずく。先ほどの赤い円が記された床の両サイドの壁に同じような大きさの黄色い円が描かれていたからだ。
床の印が消えてしまったとしても、少なくともおおよその位置は確認できる。全く情報のない状況から探すよりもはるかに手間は省けるだろう。
「宙に張られた罠を起動させるのは、細い金属糸を伸ばし対応する」
その言葉に応えるかのように二人の目の前で空中に張られた罠の糸と、円柱から伸びた金属糸が絡まり、それが回転により引っ張られる。壁の両サイドから噴き出した炎が視界を埋め尽くし、熱が前髪を撫でていくのを感じながら、アレンはそのまま進んでいく円柱を眺めた。
「すげえな。これならかなり攻略が早くなるかもしれねえ」
「いや、まだまだだ」
アレンの素直な褒め言葉に対してゾマルは静かに首を横に振った。そして静かに話しつづける。
「これはまだこの階層だからこそ出来るものだ。床が平らで通路の幅が一定であり、そのうえ直進が基本となるこの階層だからこそな。そもそも横壁の罠は対応できておらん。それに損耗してもパーツを取り替えればすぐに対応できるように作っていてもそれは人力で行う必要がある。それは求めるものには程遠い」
ゾマルの言葉はアレンに向けて放たれたものだ。しかしその本質は違うのではないかとアレンは感じていた。普段は言葉少ななゾマルが長文を語ったことがそれをよりはっきりとしたものにしていた。
なんて声をかけてよいものかわからず、アレンは無言のままゾマルと共に転がる円柱の後を追いかけていく。
円柱はアレンが確かめた地図にある罠のほとんどを動作させながら進んで行く。傷やこげあとをその身に刻みつつも歩みを止めることなく。
ふいにゾマルがアレンを見つめ、それに気づいたアレンが立ち止まる。
「アレン、お前のおかげだ。お前に廃都市へ連れて行かれ、あれらを見なければこんな道があるとは知らずに鍛冶を極め続けようとしていただろう。感謝する」
「いや手助けしてもらってるんだから感謝するのは俺の方だが、廃都市のあれらって……」
聞き返そうとしたアレンが気づく。廃都市でゾマルが見たものといえば候補は二つしかない。地下にある鍛冶場と、アレンたちに襲い掛かってきたゴーレムたちだ。
ゾマルがどちらを指しているのかは言うまでもない。
「道具が独自に判断し、行動を起こす。アレンは気づいたか、あのゴーレムたちはただのモンスターではないのだ。少なくとも体を動かす機構は確かな技術の裏づけがあってのように見えた」
「そうなのか」
「その理論を理解したい。そしてその先に進んでみたいと思ったのだ。まだこんな不完全な道具の域を出ないものしか出来ないがな」
そう言い切ったゾマルの瞳は、今までにないほど輝いており、その表情は晴れ晴れとしたものだった。
アレンは内心、世界一と言っても過言じゃない鍛冶師を別の道に進ませてしまった今の状況はまずいんじゃないかと思っていた。
しかしゾマルのそんな顔を見てしまっては、それを止めることなどアレンにはできなかった。結局アレンの口から出たのは
「楽しみにしてる」
そんな言葉だった。
ゾマルはそんなアレンに笑って返し
「ああ、任せておけ」
そう力強く応えたのだった。