軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第37話 思わぬ再会

「はぁ、はぁ、はぁ」

膝に手をつき、かろうじて立ちながら荒い息をイセリアが吐く。その頭上に浮かぶ光の輪はイセリアの余裕のなさを示すようにちらちらと不安定にゆらめいていた。

息を整えようと呼吸を繰り返していたイセリアだったが視界の端でちらりと何かが動くのを察し、慌ててその身をひねる。その直後、風切り音を響かせながら先ほどまでイセリアの体があった場所を青い何かが通り過ぎていった。

「『サンダーアロー』」

イセリアの言葉と共に暗闇の中を閃光が走る。それは狙い違わず先ほどイセリアに襲い掛かろうとした飛行型のモンスターへと当たり見事に撃墜したが、イセリアは苦い表情をしながら大きくため息を吐いた。

「じゃあ今回はここまでだな。前よりも周囲が見えてきたようだな。撃ち間違いも減ったし」

「はい、ありがとうございます」

アレンの作ったライトサークルに明るく照らされながら、もう一度大きく息を吐いたイセリアが顔を上げる。そして腰に下げていたミスリル製のナイフを引き抜くと自らが倒した色とりどりの毛むくじゃらの体にコウモリのような羽を生やしたモンスター、エレメントバットに向かって歩き始めた。

アレンはその姿を認めると解体作業をやめて立ち上がる。その足元には薄っすらと様々な色に染められたかなりの数の魔石が種類ごとにまとめられていた。

「数が数だけに解体が楽ってのはいいよな」

「放置できたらもっとよかったのかもしれませんが」

「そうすると休憩する暇もなくなるぞ。まあどっちにしろギルドから持ってこいって言われてるから休みついでに解体すればいいだろ。素材採取は冒険者の基本だぞ」

イセリアの少し面倒そうな口調に肩をすくめながら、アレンが解体するように促す。その指示に従い、それ以上イセリアは言葉を発さず、黙々と倒したエレメントバットの解体を始めた。

その眉間には皺が寄っており、解体以外のなにかについて考え込んでいるのは明白だったがあえてアレンはそこに突っ込むことなく受け流した。

アレンから見て今のイセリアは明らかに無理をしている。今はアレンと一緒にいるので歯止めがかかっているが、もし放っておけば良くない結果になるだろうと考えるほどに。

五十一階層以降を探索するようになって、津波のように襲い掛かってくるモンスターの大群を相手していることもあってイセリアのレベルも順調に上がっているのだ。それでもまだ足りないと言わんばかりのイセリアの気迫にアレンは嫌な予感が膨らんでいくのを感じていた。

(こいつらの魔石を持って帰るように半強制的にギルドに依頼されたときは面倒だと思ったが、案外良かったのかもな)

解体を続けるイセリアとその横で山になっている薄っすらと色づいた魔石をチラリと眺めながらアレンは襲いかかってくるエレメントバットに対処していく。

五十一階層から出現し、灯りをつけると大挙として押し寄せてくるエレメントバットはその体毛の色ごとに魔法の属性に対する耐性が違うという特徴を持っていた。

もちろん打撃を与えれば倒すことは出来るのであるが、宙を不規則な軌道で動き回るうえに大群でやってくるため、生半可な腕では間に合わないのだ。

必然的に広範囲を攻撃可能な魔法に頼ることになるのだが魔法の属性に対する耐性をもっているため、種類を絞ってその属性を極める傾向の強い一般の魔法使いにとっては非常に戦いにくい相手といえた。

色々な種類の魔法を使えるアレンやイセリアのような者にとっては、瞬時の判断で魔法を選択し戦う格好の訓練場所となりえる場所でもあり、そういった意味では今のイセリアにとって最適な階層でもあるのだが。

エレメントバットの大群を広範囲の魔法で打ち払い、耐性を持っているために残ったエレメントバットたちにピンポイントで魔法を放って倒したアレンは、地面に転がったエレメントバットたちに向かってウインドカッターを放つ。

そして切れ込みの入ったエレメントバットの体を踏みつけて魔石をとりだしはじめ、あっという間に自分が倒した分の解体を終えてしまった。

そんなアレンの姿を、呆れたような目で解体の手を止めたままイセリアが見つめる。

「もう全部ネラ様がやればいいんじゃないでしょうか?」

「そうしたら成長しないだろ。頑張れよ、伸び盛りの新米冒険者」

「そりゃあネラ様に比べればまだまだひよっこかもしれませんが……」

「ほぅ、俺が年食ってるっていう意味か? 言うようになったなイセリアも」

「いえ、そういうわけではありませんが!」

少し本気の入ったアレンのツッコミに、慌てた様子でイセリアが弁明を始める。わたわたとするその姿をアレンは視界に入れつつ、いつ解体を再開するんだろうと苦笑するのだった。

五十四階層までの探索を終えた二人は適度に休息をとりつつ地上へと戻ってきた。疲労の色が濃いイセリアを気づかいながらの帰途だったため精神的に疲れたアレンだったが、もうすぐ帰ることが出来ると気分を高めていた。

ライラックの街へとたどり着き、あとは持ち帰った魔石をギルドに納品すれば終わりだと意気揚々と冒険者ギルドの扉を開けたアレンだったが……

「ちょうど良いタイミングだったようだね。これも精霊の思し召しかな?」

聞き覚えのあるその声に動きを止める。

アレンの視線の先には、この冒険者ギルドのギルド長であるだらしない体型をしたオルランドと、それと対比するかのようにすらっとした美男子が立ち話をしていた。

尖った耳をピクリと動かし、柔和に微笑みながらアレンたちの方へなにかとアレンに縁深いエルフであるカミアノールが近づいてくる。

なんか面倒事の匂いがするな、などと考えながら逃げるわけにもいかずにアレンが待っていると、カミアノールはアレンの前で立ち止まり優雅に一礼した。

「久しぶりだね、ネラ。気が向いたらまたドゥラレにも来てくれ。歓迎するよ」

カミアノールはそれだけを伝えるとアレンから視線を外す。少し肩透かしにあったような気分になりつつも、何もないならその方がいいかと思ったアレンだったが、そのまま去っていくかにみえたカミアノールは視線をアレンの隣へと向けたまま動かなかった。

急にカミアノールに見つめられ、ぱちくりとイセリアが目を瞬かせる。

「イセリア君も久しぶりだね」

「はい。ドゥラレのダンジョンではお世話になりました」

「君とアレン君のおかげでドゥラレの冒険者ギルドも盛況さ。お礼を言うのはこちらの方だよ」

爽やかな笑顔を見せながら話すカミアノールと、少し困ったような表情ながらも笑顔を見せるイセリアの姿に、絵になる二人だよなぁなどと他人事のようにアレンは考えながら眺めていた。

ただ単に礼を言いに来ただけか、と安心しかけたアレンだったが、その目前でカミアノールの表情がすっと真面目なものに切り替わる。

「そうそう今回は君に用があって来たんだよ、イセリア君」

「私に、ですか?」

「ああ、勇者の卵である君に是非とも受けてもらいたい依頼があってね」

その言葉にピリッと空気が凍りつく。その言葉を発したカミアノールの額に脂汗が浮かび、その端正な顔は若干青ざめていた。

「ネラ様、落ち着いてください」

少し震えるイセリアの声に、アレンが正気を取り戻す。そして浮かんでいたテッサとリサナノーラの姿を軽く頭を振ってかき消すと、先ほどまでの凍えるような威圧感はきれいに消え去っていた。

『すまなかった』

「いや、こちらもぶしつけに悪かった。君がどんな経験をしたかは知らないが、私も勇者の卵の知り合いがいたから想像はつくつもりだ」

カミアノールが謝罪するアレンを見ながら大きく息を吐き、少し寂しげに笑う。物憂げなその表情はその言葉が真実であると告げていた。

人より長く生きるエルフだからこそ、自分よりも多くの悲劇を見てきたのかもしれない。そんなことを考えるアレンをよそに、カミアノールはイセリアに言葉を続ける。

「なに、危険な依頼というわけではない。私の祖国であるヴェルダナムカ大森林へ勇者の卵であるイセリア君に来てもらいたいのだよ」