作品タイトル不明
第6話 似合わないダンジョン
ダンジョン。そこはモンスターのはびこる危険な場所である。と同時に、モンスターやダンジョンのフィールドから得られる貴重な素材は多くの需要があり、それを求めて冒険者たちが日夜探索を続けている場所でもある。
ライラックの周辺にはそんなダンジョンが四つあり、その中でも最も人気を博しているのが街の名を冠したライラックのダンジョンである。
ダンジョンは基本的に同一系統のモンスターで構成されることが多い。しかしライラックのダンジョンは多様な環境、そして多種のモンスターが存在する稀有なダンジョンだった。
そのため依頼は簡単なものから難しいものまで多岐に渡り、様々なレベルの冒険者たちが探索することになる。
必然的にダンジョンへ来る冒険者の数は多くなるというわけなのだが……
「はぁ」
周囲から集まるうっとうしい視線にため息を吐き、アレンが苦笑いをする。
アレンの現在のランクである金級冒険者といえば、数多くの冒険者の中でも一握りの存在だ。新人の冒険者にとっては雲の上の存在といっても間違いではなく、ダンジョンに入ろうとすればある程度の注目を集めるのも仕方ない。
そのことについて当然アレンも承知している。しかしアレンが今現在注目を集めているのには別の理由があった。
「なぁ、普通の装備じゃだめなのか?」
「メイドですので」
アレンの一歩後ろを、コルネリアがメイド服を完璧に着こなしながら歩く。アレンが渡した初心者用の革装備を身につけているはずなのだが、それらは完璧にメイド服に隠されてしまっており、唯一見える革のブーツだけが異彩を放っていた。
ダンジョンとメイド。全く似合わないその光景は周囲の耳目を集めるのには十分すぎるほどのインパクトだ。
その堂々としたコルネリアの物言いにアレンが少しだけ頬を引きつらせる。
「ダンジョンにメイド服はねえだろ?」
「ならメイドにダンジョンについて来い、などと言わないでください」
「ついて 来い(・・) 、とは言ってねえけどな」
軽く愚痴をもらしつつも、アレンはこれ以上気にしても仕方ないと開き直ってダンジョンの入り口へ進んでいく。
その後ろをコルネリアはしずしずとついていった。色々な種類の意味をこめられた視線を受け流しつつ。
なぜアレンとコルネリアがライラックのダンジョンを探索することになったかといえば、ポーション作製のための薬草の採取と、ベビーベッドなどを作るための素材であるトレントを採取するためだった。
作ったポーションの品質を確かめるために、作製した翌日にアレンは薬士ギルドを訪れたのだが、そこで知ったのはポーションが慢性的に不足しているというライラックの現状だった。
そして高品質なポーションを作製でき、しかも素材も採取できるアレンに薬士ギルドがポーションの作製を依頼してきたのだ。
ポーションの作製をするのはもちろん調薬士であり、それを統括するのは薬士ギルドだ。普通であればポーションを作製できるとはいえ、冒険者であるアレンにポーション作製の依頼を薬士ギルドがするわけがない。
しかし現在はそうも言っていられないほどの非常事態になっていたのだ。
きっかけは大したことではない。
ドゥラレにて新たなダンジョンが発見されたため、様々な思惑を持った冒険者たちが各地からドゥラレを目指して移動した。その途中でライラックに立ち寄った冒険者たちの一部が、ドゥラレではなくライラックを拠点として定めたのだ。
四つのダンジョンに囲まれたライラックは冒険者にとって過ごしやすい街であり、宿泊施設などについてもまだまだ許容量があったため、多少の冒険者が増えただけであれば問題はなかった。
しかしここで起きてしまったのが、新しくやってきた冒険者と、元々いた冒険者たちとの対立だった。
移動してきた冒険者たちの中にはドゥラレのダンジョンの初踏破を目指すような腕の立つ冒険者も少なくなかった。そのため実力の劣る地元の冒険者を下に見て、幅をきかせようとする冒険者が現れたのだ。
ここに地元の冒険者であり、実力もある『ライオネル』がいれば話は違ったのだろう。しかし彼らは現在、鍛えなおすために学術都市国家キュリオへ出向いており長期で不在にしている。
もちろん『ライオネル』以外にも実力のある地元の冒険者はいるのだが、今まで街を代表する冒険者として、そういったトラブルを『ライオネル』が調整してきたため、対応が後手に回ってしまった。その結果、現在対立は激化の一途をたどっていた。
殺し合い、とまではいかないが小競り合いは頻発しており、さらには実力を示すために無謀な探索を行う者も増えた。その結果として怪我をする冒険者が増大し、ポーションの不足が起きてしまったというわけだ。
薬士ギルドはポーションばかり作っているわけではない。毒消しや病気を治すための薬の作製も仕事の内だ。
現在の状況はそれらの作製を圧迫しかねず、薬士ギルドとしても応援を頼むなどの対策を打ち出してはいるものの、薬を作れるのであれば猫の手でも借りたいというのが本音だ。だからこそ冒険者であるアレンに助けを求めたともいえる。
アレンに言わせれば現在の冒険者の状況は、馬鹿だろ、の一言で表すしかないのだが、地元の冒険者たちの気持ちがわからないでもない。
金級冒険者となったのだから、自分が表に出て調整するということもアレンの頭の片隅によぎりはしたものの、そのことで恨みを買い、ドゥラレと同じようなことが起こったら、そう考えると躊躇せざるをえなかった。
特に、既に冒険者ギルドがそのために動いているという話を聞いている現状としては。
そんな面倒くさいことを考えながら、アレンはコルネリアがモンスターに襲われないように注意しつつダンジョンを探索し、薬草を採取していく。
最初のうちは初めて入るダンジョンに、緊張した様子でキョロキョロと視線をさまよわせていたコルネリアだったが、薬草を採取するだけでモンスターと出会うこともない状況が続いたため、それもだいぶほぐれてきていた。
「ダンジョンは意外に安全な場所なのですね?」
「あー、そう誤解されるのはまずいな。まあ、そろそろ緊張もほぐれてきたことだし頃合かもしれねえな。どうだ、一度モンスターと戦ってみるか? レベルアップも出来るぞ」
「レベルアップですか……。わかりました、やってみます」
アレンの提案に、少し思案した後、力強くコルネリアが首を縦に振る。その様子にアレンはちょっと意味ありげにニヤリと笑うと、アレンが採取した薬草を入れていたマジックバッグをコルネリアから受け取り、そして中に手をつっこむとお手製の鋼鉄の刃先を持つ短槍を取り出した。
「んじゃ、まあ軽く見本だ。と言っても俺は槍を主体で戦っているわけじゃないからそこまでの腕じゃないけどな」
マジックバッグをコルネリアに返して笑うと、アレンは少し離れた位置に移動し短槍の型を披露していく。
コルネリアにも視認できるように、アレンとしてはかなりゆっくり動いたつもりであったが、その鋭さにコルネリアはごくりと唾を飲み込む。コルネリアが目を見開き、凝視する中、理解しやすいように区切りをいれ、それでいて流れるようなアレンの見本が終わった。
アレンは少しだけ息を整えて短槍を一振りし、遊ぶようにくるりと回すとコルネリアに向き直る。
「こんな感じだな」
「なんというか、ご主人様が冒険者だと初めて認識したような気がします」
「その感想はどうかと思うぞ」
「あっ、いえ。悪い意味ではないのですが!」
慌てて取り繕おうとするコルネリアの姿にアレンは苦笑し、そしてすっ、と目を細めるといきなり槍を振りかぶった。意味がわからず硬直するコルネリアの体を、アレンから放たれた短槍が起こした風が撫でていく。
汗が全身からどっと噴き出すのを感じながらコルネリアが恐る恐る振り返ると、そこには短槍に貫かれて地面に縫い付けられたゴブリンが倒れていた。
「ってな感じで投げても使える。非常時に限り、だけどな」
自然な風で短槍を回収しに行くアレンの背中を眺めつつ、コルネリアはぺたりと腰を地面に落としたのだった。