軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第17話 ライラックのダンジョン

今まさにアレンが入ろうとしているライラックのダンジョンから出てきた5人の冒険者のパーティ、その中の先頭を歩く体のふしぶしから幾多の傷跡を覗かせる歴戦の戦士といった風情の男がにやにやといやらしい笑みを浮かべながら2人の方へと近づいてきていた。

「おい、なんだてめ……」

「落ち着けニック。あれでもライラックの中では屈指の冒険者だ」

挑発的な言葉に反抗しかけたニックを小声でアレンが止める。アレンの告げた言葉にさすがのニックも言葉を続けなかった。

通常であってもレベルアップした冒険者に一般人が力で敵うはずがないのに、それがライラックで屈指の者となれば可能性を考えることなど馬鹿らしいほどなのだとニックにもわかったからだ。

アレンがニックを守るように一歩前へと出て、にこやかな笑みを顔に貼り付ける。

「いやー、地元の 期待の星(・・・・) の『ライオネル』の皆さんじゃないですか? 今ダンジョンからお帰りで?」

「ああ。俺たちは半端者じゃねえから色々と忙しいのさ」

男の言葉に同意するように、冒険者パーティ『ライオネル』の面々が笑い声をあげる。その様子を笑顔を貼り付けたまま、アレンは冷めた内心が漏れないようにして眺めていた。

(いつまでも期待の星から本当の星になれないって皮肉なんだがな)

そんなことを考えながら、アレンは目の前の男、自分の名前をパーティ名にしたライオネルの自慢話とアレンをけなす言葉を聞き流していた。

この程度のことは冒険者時代にライラックのダンジョンへ来た時にしばしば起こっていたことであり、気にしても仕方がないともう悟っているのだ。

とは言えそれはアレンだけに過ぎない。後ろから聞こえた舌打ちに、ニックの苛立ちを察したアレンがライオネルの話に割り込む。

「申し訳ありませんが、私たちも予定がありますのでこの辺りで失礼させていただきます」

「はぁ? お前らダンジョンに潜るつもりなのか? そこの兄さん、半端者についていったって死ぬだけだぞ。やめとけ、やめとけ」

ライオネルの意見に後ろにいた仲間たちも次々と同意の声をあげる。その声に気分を良くしたライオネルは、アレンの進路を塞ぐように仁王立ちした。

その姿に流石のアレンも表情を変え、面倒くさそうに大きくため息をついた。

「おい、ダンジョンに入る権利を制限できる権限なんてお前には無いだろ」

「命を粗末にしようとしている奴を助けてやろうとしているだけだぜ」

「はぁー、もういい。丁寧に対応して穏便に済まそうとした俺が馬鹿だったよ。行こうぜ、ニック」

「お、おう」

アレンは後ろにいたニックへと視線をチラッとやり、そしてライオネルを迂回するように避けてダンジョンへと歩き始めた。そしてその後にニックが続く。

「だから、ここは通行禁止だって言ってんだろ」

ライオネルの堅く大きな拳がアレンの腹部へと向かって振られる。それは一般人であれば目に見えないほどの速さであり、たとえそれが本気ではなかったとしても怪我をさせるのには十分すぎるほどの威力を秘めているのは明白だった。

周囲にいた冒険者達は、遠巻きにそれを眺めながら以前見たのと同じようにアレンが吹き飛ばされるだろうと思っていたのだが……

バシッ!

そんな音が鳴り響いたのに、アレンは微動だにしていなかった。

「冒険者同士の争いならギルドは大目に見てくれるが、一般人相手だと下手すれば資格剥奪になる。俺は今、一般人のギルド職員なんだが、ライオネル、お前はそんなことも忘れたのか?」

そう言いながら片手で受け止めた拳へと軽く力を入れて掴もうとしたアレンだったが、即座にライオネルが拳を引いたことでそれを成すことは出来なかった。

「権力を笠に着る卑怯者め」

そう捨て台詞を残してダンジョンから去っていくライオネルを見送りながら、アレンはどの口が言っているんだと再びため息を吐くのだった。

ダンジョン前のギルドの小屋でつつがなく手続きと入場料5千ゼニーを払ったアレンとニックは、先ほどまでの面倒ごとがなかったかのように、さっそくライラックのダンジョンへと入っていた。

入ってすぐ奥から戻ってきたらしき初心者装備を身に纏った新人冒険者たちの顔を眺めながら、その横をアレンたちはすり抜けていく。

「あー、やっぱ人が多そうだな」

「そうなのか?」

「ああ。まあ人気のダンジョンだしな」

視線に映る以外にもアレンの耳は誰かが何かと戦うような音を拾っていた。しかも一箇所ではなく、複数箇所でだ。門が開く朝6時に2人は街を出たため、まだ朝なのだ。しかしそんな時間帯にこれだけの冒険者が戦っている、そのことがこのダンジョンの人気をうかがわせた。

とは言えそれもアレンの予想の範囲内である。先ほどのようにからまれたりしたら面倒だなとは思っているが仕方ないとも思っているのだ。

「んじゃ、さっさと目的地へ進むとするかね」

「おう」

アレンは一面に広がる草原を、人気がない方向を選びながらニックを案内していった。罠を避け、途中で遭遇したモンスターを倒しながら。

およそ1時間半後、2人は目的地であるライラックのダンジョンの9階層にたどり着いていた。今のアレンの全速力であればもっと早く着くことが可能なのだが、今回はニックがいるし他の冒険者に会わないようなルートを選択した結果、多少遠回りをすることになってしまったのだ。

とは言え初心者の冒険者からしたら9階層まで1時間半で到着するというのは、十分に早い速度である。冒険者ではない素人を無事に連れて、それを達成できる冒険者の数はそこまで多くないだろう。

特に疲れた様子も見せず、ふぅと1度だけ息を吐いて呼吸を整えながらアレンは首を左右に振って目の前に広がる光景を見渡す。そこには冒険者の姿は見えず、戦うような音も聞こえなかった。

「さすが不人気層なだけあるな」

「はぁ、はぁ。そうなのか。ちょっと休憩させてくれ」

どすんと腰を地面へと下ろしたニックを見ながらアレンが苦笑する。道中、休憩を挟むかと聞いても「問題ない」と言っていたニックだったが、アレンから見れば無理をしているのが明らかだった。本当に駄目そうなら無理にでも休ませるつもりだったが、最後まで意地を貫いた姿に変わらないなぁとアレンは思っていた。

ニックの回復を待ちながらアレンは周囲を警戒する。危険は感じられないが何が起こるのかわからないのがダンジョンなのだと知っているからだ。

ライラックのダンジョンは5層ごとに環境が変わり、それに応じる様に出現するモンスターも変わる。

1から5階層の草原フィールドでは、鬼人のダンジョンで出現するゴブリンや食用の肉として重宝される頭に一本の角を生やした一角うさぎ、肝が毒消しの材料になるエルトスネークなどがおり、主に冒険者に成りたての新人がそれらを狩ってレベルを上げつつ素材を換金して日々の暮らしを成り立たせている。

一角うさぎやエルトスネークなどは低レベルの冒険者でも倒せる割に需要が適度にあるため、ここで真剣に戦えば最低限生活に困らない程度のお金は稼げるのだ。事実、冒険者に成りたてのころのアレンもそれらを狩って弟や妹の生活費にしていたのだから。

そしてその次の6から10階層は森林のフィールドになっている。ここまで来ると完全な新人冒険者はほとんど姿を消す。草原フィールドと違い、灰色の体毛のアッシュウルフや麻痺毒で頭上から攻撃してくるパラスパイダーなど出てくるモンスターの危険度が下手をすれば死ぬというレベルに跳ね上がるからだ。

もちろん調子に乗った新人がやってくるということが無いわけではないのだが、そういった者どもは大概手ひどい損害を負うことになり冒険者を引退していくのが常だった。もちろん一部に例外がいないではないが。

そんな難易度の上がる森林フィールドではあるが、傷を癒す魔法薬であるポーションの材料である薬草や自生する果物を採取でき、危険なアッシュウルフにしてもコートなどのための需要があり、その他のモンスターにしてもそのほとんどでなにかしら有用な素材を得ることができる。しかも危険度が高い分、買取金額もそれなりの金額になる。

そのためある程度のレベルになり、最低限の装備を整えた冒険者たちはこの森林フィールドで再びレベル上げと装備品などを揃えるためのお金稼ぎをするのだ。さらに格が違う11階層からの新たなフィールドへと進むために。

そんな様々な需要のある森林フィールドであるが、その中にも例外があった。それがアレンたちが現在いる9階層だ。

この階層では今まで森林フィールドで出てきたモンスターは姿を消す。その代わりに新たなモンスターが出現するようになるのだ。そしてそのモンスターこそがこの階層を不人気にする原因だった。そのモンスターとは……

「おっ、いたいた。じゃあニック、俺が良いぞって言ったら攻撃開始だ」

「任せろ」

森の中を歩いていたアレンが前方にそのモンスターを発見し、そして走り始める。以前のアレンと同程度の速さで前方にそびえ立つ木へ駆け寄っていくと、その木は突如としてその大振りな枝を振り回してアレンを叩き潰そうと動き始めた。

そのモンスターの名前はトレント。大木に擬態したモンスターである。

トレントが冒険者にとって不人気な理由はいくつかある。大木であるため倒そうとすると武器へとかかる負荷が少なくない事、タフである事、擬態しているため不意打ちを受ける可能性がある事、枝の振り回しの攻撃が重い事など様々だ。まあ最も嫌われる理由はまだ別にあるのだが。

しかしなぜそんな階層をアレンが選んだかと言えば……

「シッ!」

枝をかわしたアレンは息を吐きながら飛び上がり、そしてトレントの枝を根元から両断する。アレン自身が試作した剣が思いのほか斬れたことに少しニヤリとしながら、アレンはトレントの枝と言う枝を切り落としていった。そしてトレントは全ての枝を失った。

「よし、いいぞ」

アレンの合図に、気合を入れながらニックがトレントへと近づいていく。レベルアップもしていない一般人であるニックが、もしトレントの攻撃を受ければ死んでしまう可能性が非常に高い。そんな危険な状況であるのにもかかわらず、アレンは何の警戒心も無く近づいていくニックを止めようとはしなかった。

ニックがトレントへと肉薄し、そして手に持った斧を大きく振りかぶる。

「せーの」

コーン、という小気味良い音が辺りに響く。その斧の先端はしっかりとトレントの幹へと埋まっていた。しかしそれに対してトレントがした反応と言えば、自らの幹と根を少しばかり動かしただけだった。

斧がテンポ良くトレントへ向かって振り下ろされる。そしてしばらくして大きな音を立てながらトレントは地面へと倒れていったのだった。