軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第41話 幸せな未来へ

翌日、朝から準備に入ったアレンによる豪華な料理の並んだイセリアとレベッカのための送別会は盛況の内に終わった。

アレンがやたらとマチルダを気にかけたり、レベッカの護衛パーティである『さまよう牙』と交流を持とうとしたり、初めての友達ということに顔をデレデレとさせたままのイセリアに『さまよう牙』の面々が困惑したりと色々あったのではあるが。

とりあえず当初の目的である、二人を盛大に送り出すということと、パーティを組むことになるイセリアと『さまよう牙』の顔合わせの役割は十分に果たせていた。

そしてその二日後……

「じゃ、行ってくるね。マチルダさんを大切にしなよ、レン兄」

「おう。レベッカも気をつけろよ」

ぎゅっと抱きついてきたレベッカの頭を撫でてやりながらアレンが微笑む。しばらくの間その状態で動かなかったレベッカだったが、大きく息を吸うとその体を離してニパッとした笑顔を浮かべる。

「よし、レン兄成分の摂取完了! これで頑張れるね」

「いや。なんだよ、それ」

良い笑顔を浮かべて意味のわからないことを言うレベッカに、若干呆れた顔をアレンが浮かべる。しかしその瞳はとても優しくレベッカを見つめていた。

レベッカはアレンに手を振り、旅の準備の最終確認をしている『さまよう牙』のもとへと向かい歩き始め、そしてイセリアとすれ違う。

「あっ、リア。レン兄成分を補給するなら今しかないよ!」

「おいっ」

「うわっ、レン兄が怒ったー」

両手を上げてわざとらしく逃げていくレベッカに呆れた視線をアレンが送っていると、同じく苦笑しながら逃げる姿を見つめていたイセリアがアレンの所にやってくる。

アレンは一度大きく息を吐いて気持ちを切り替えた。

「イセリアも気をつけてな。未来のミスリル級冒険者に言うことじゃねえけど」

「それでしたらアレンさんも未来の金級冒険者ですよ」

すこしおどけるようにして惜別の言葉を口にしたアレンに、イセリアが笑いながら冗談を返す。

ドゥラレのダンジョンを初めて攻略したこと、そしてそこまでの詳細な地図をギルドに提出したという功績により、アレンとイセリアには既に昇級の内示がなされていた。他ならぬギルド長のカミアノールが昨日アレンたちの自宅を訪ね、直々にだ。

アレンとしてはネラが直後に一人で三回もダンジョンを攻略しているので、もしかしたら銀級止まりかもなと考えていた。

それでもレベッカの依頼を果たすことは出来ていたのだが、当初の目標である金級になれたことにアレンはほっと胸を撫で下ろしていた。

結局なぜレベッカがアレンに昇級することを依頼したのかは教えてもらえなかったが、きっとそれは必要なことだし、いつかは教えてもらえるんだろうと気楽に考えながら。

「マチルダさんを大切にしてあげてください」

「おう。しかしそれ、さっきレベッカにも言われたんだが。そんなに俺ってマチルダを大切にしていないように見えるか?」

「いえ。でもマチルダさんは私にとってもとても大切な方ですから」

先ほどから出立する『さまよう牙』になにかを聞かれ、アドバイスらしきものをしているマチルダの姿を二人が眺める。ときおり笑顔を見せながら話すその姿はとても美しかった。

顔を緩めるアレンにイセリアは気づき、アレンにも聞き取れないほどの小さな声でなにかを呟くと目を細めて笑う。

「さて、じゃあ私もそろそろ行きます。では最後に……」

「んんっ?」

声をかけてきたイセリアにアレンが視線を戻すと、そこには頬を赤くしながら目を閉じるイセリアの姿があった。まるでキスをしてくれるのを待つかのようなその姿に思わず声をあげるほど動揺し、その瞬間イセリアの口の端が上がったのをアレンは見逃さなかった。

「レベッカの影響をあんま受けんなよ」

はぁ、とため息を吐きながらアレンがイセリアの頭をぽんぽんと撫でる。なんとなくこうするのが正解だろうという予感がアレンの中にあったからだ。

それが正しいと示すかのように満面の笑みを浮かべながらイセリアは目を開ける。そして、その顔をそっとアレンに近づけてその頬へとキスをした。思わぬイセリアの行動に固まるアレンの耳にイセリアがささやく。

「初恋が実らないのって、本当なんですね」

「いや、えっ?」

「では、行ってきます」

動揺するアレンをよそに、軽やかにイセリアは去っていった。そしてレベッカたちと合流し、楽しげに話すその後姿をアレンは眺めることしかできなかった。

レベッカとイセリアが去り、ドゥラレに残ったアレンは冒険者としての活動を続けていた。金で造られた新しい冒険者ギルド証をその胸に提げながら。

「おーい、金級冒険者。さっさと材料もってこいよ!」

「うるせえ! 指名依頼だからってこき使うんじゃねえ!」

親友である大工のニックに茶化されるように急かされ、怒鳴り返しながらもアレンは丸太を駆け足で運んでいた。ニックの部下たちは二人のやり取りに笑いながら建築を続けており、その現場には和気藹々とした空気が流れている。

「ほらっ、持ってきたぞ」

「よし、そのまま加工を頼む」

「大工の仕事は大工でしやがれ。冒険者に頼むんじゃねえよ!」

「はっはっは。それも依頼内容に含まれてるんだなぁ。妊娠した奥さんを見守るために町を出たくないアレン君が見落としたんだよね?」

「くっ!」

ニヤニヤと笑みを浮かべるニックにやりこめられ、アレンがこめかみに青筋を立てながらも丸太の加工にとりかかる。まるで八つ当たりでもするかのような速度で加工しているのにもかかわらず、その仕上がりは職人たちがするのとなんら変わらないものが出来上がっていた。

ニックに言われたように妊娠したマチルダのことを見守りたかったアレンは、ちょうどニックから出されていた町の建築の補助という指名依頼を受けていた。町の中であればなにかあったとしてもすぐに駆けつけることが出来るし、雇い主がニックならなにかと融通が利くからだ。

ちなみにこの指名依頼を受けた時点では、アレンはまだ鉄級であったため指名料も鉄級相当の金額となっていた。アレンとしてもある程度の期間、依頼を受けていて町から出ることの出来ない状態を望んでいたので報酬については気にしていなかったのだが、まさか初日からこれほどこき使われるとは思っていなかった。

「まっ、頑張れよ。未来の子供のために。相談くらいにはのってやるから」

「ニック……」

悪態をつきそうになっているアレンにニックが優しく声をかける。顔を上げたアレンの目に映ったのは、鼻の下をこすりながら、照れているニックの姿だった。頼りになる親友で、そして先輩の父親のニックの姿は、どこかいつもより大きく見えた。

「だから今は早く帰りたい俺のためにきりきり働け!」

「ニックー!!」

怨嗟の声をあげるアレンに笑い返し、ニックが自分の作業を進めていく。ネラの依頼を受注したニック率いるブラント工房の一団はアレンをこき使いながら、楽しく新しい町を作り始めていた。

「って感じでこき使われるんだよ。依頼料の設定が絶対におかしいだろ」

「でもアレンが受けちゃったからどうしようもないわね」

アレンとマチルダはギルドから帰り、アレンが作っておいた夕食を囲みつつ楽しげに話をしていた。

文句を言いつつもどこか楽しげなアレンの様子に笑いながら、マチルダは食事を口に運んでいく。

「うっ」

「大丈夫か!? 気持ちが悪いか?」

突然うめいたマチルダにアレンが慌てて席を立って駆け寄る。心配そうに見つめるアレンに支えられながら、マチルダは柔らかな笑顔を浮かべた。

「違うわ。この子が蹴ったのよ」

そう伝え、マチルダがアレンの手を自分のお腹へと誘う。少しこわごわとアレンの手がマチルダのふくらみを感じるお腹へと置かれ、しばらくしてその手に内部から、にゅー、というなんとも言いがたい感触が伝わった。

「あっ、また。アレン、わかった?」

「おう。元気だな」

「ご飯の時は良く動くのよ。食いしん坊なのかしらね?」

ふふっ、と笑い、幸せそうに目を細めるマチルダをアレンが優しく抱きしめる。慈しむようなその視線はこの胸の内にあるものを全てのものから守るという決意と優しさに溢れていた。

「ねぇ、アレン。私、とっても幸せよ」

「俺もだ。マチルダも、そしてこの子も俺が絶対幸せにしてやる」

見合わせた二人の顔が徐々に近づき、その唇が重なる。それに合わせるかのように、マチルダのお腹が再び蹴られ、アレンとマチルダは少し驚き、そして微笑んだのだった。