軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第34話 始まりを告げし者

アレンとイセリアは、ティモシーたちと別れてからも25階層の城下町と城の内部の調査を続けていた。

数日間をかけた調査の結果、完全とまではいかないまでもギルドが納得するであろう結果は残しており、城の内部、オーガキング2体に守られ、さらには隠し扉の奥にあった宝物庫の発見の功績だけでもかなりのものになるという確信があった。

「マジックバッグ一個出てきただけで大騒ぎしていたはずなんだがなぁ」

「ここまでくると逆に冷静になってしまいますよね」

「だな。まあ初めてだから良い物が入っていたってこともあるかもしれねえが。確かギルドの資料でそんなことを読んだ覚えが……」

「そういえば、ライラックの資料室にありましたね。立証されているわけではないと注意書きがありましたが」

そんな会話を交わしつつ、アレンとイセリアが宝物庫で見つけた三つのマジックバッグ、そして豪華な宝飾の施された剣や盾、指輪やネックレスなどに視線を向ける。

これらを普通に売り払うだけでも一生とまではいかないまでも、かなりの期間働かなくても楽に生活できるだけの金額を得られるのは確実だった。

しかもダンジョンで得られた武器や防具には特殊な効果が付与されたものも少なくない。仮にそういったものであれば、本当に一生分の稼ぎを得られてしまう可能性さえあった。

「オーガキング2体を同時に相手に出来る冒険者となると少なくとも金級上位かミスリル級の実力は必要だろ。しかも城を攻略することを考えると複数のパーティで組むだろうし。分配することを考えるとそこまでって感じかもしれねえな」

「今回と同程度が得られるのであれば人気になりそうですが」

「まっ、そこも含めて要検証ってところだな。で、残すは一か所か」

「そうですね」

自らのリュック型のマジックバッグから取り出した普通の袋に宝物庫にあったマジックバッグを詰め込み、それをアレンが自身のリュックにしっかりと紐でつないでいく。

そして立ち上がると空になった宝物庫から出て、既にモンスターを殲滅しきった城内を歩き始めた。

アレンたちが向かっている先、未だ調査が終わっていない一か所は、城の中央に位置しオーガキングやゴブリンジェネラルなど多くの兵士に守られていた場所だった。

その背後にそびえる歴史を感じさせる重厚な巨大な扉、そしてその警備体制からいってもその奥にはこの城の主が居ることは確実であり、そのために二人は調査を後回しにしてきた。

そこへと向かいながら、アレンが隣を歩くイセリアに話しかける。

「オーガキングが守っているとなると、最低でもその上位種がボスだよな。ここがもしダンジョンの最下層なら更に一段階上の存在になるかも知れねえが」

「候補としてはサイクロプスやグレートオーガの上位種でしょうか? 鬼人のダンジョンではそんな感じでしたよね」

「あー、確かにあるかもな……んっ?」

「どうかしましたか?」

先ほどまでの少しリラックスした表情から一変し、いきなり足を止めて眉根を寄せた難しい顔で周囲を見回すアレンの様子に、イセリアが動揺しながらも周囲の観察を始める。

しかしイセリアがどれだけ注意深く観察しても、どこにも異変などは感じられなかった。

イセリアがチラリとアレンの様子をうかがってみる。アレンは未だに険しい表情をしたままだった。

「あの……」

遠慮がちにかけたイセリアの声に、アレンが少し驚き、そしてその表情を元に戻す。しかしその眉間には未だしわが寄ったままだった。

「いや、なんでもない……ってこともねえんだが。なんか猛烈に嫌な予感がしてな」

「嫌な予感ですか。攻略は止めた方がいいということでしょうか?」

予感という、人によっては鼻で笑うようなアレンの異変をイセリアは真剣に捉えていた。そして今後の方針について真剣に問いかけてきたイセリアの態度に、自分への信頼を感じてアレンが少しだけ微笑む。

しかしその一方でアレンの中にある悪い予感は徐々に暗く、大きくなってきていた。そして……

「悪い。急ぐぞ」

「えっ? はい!」

いきなり走り出したアレンの後を、イセリアが懸命に追いかける。その速度はイセリアが懸命に走ってギリギリついていけるほどであり、そのことからだけでも普段との違いをはっきりとイセリアは感じ取っていた。

文句も言わずイセリアは走り続け、そろそろ限界といったところでアレンが足を止める。

そこはこの城の中で唯一探索を行っていない、おそらくこの城の主が居るであろう荘厳な扉の前だった。

「はぁ、はぁ。アレンさん」

「すまん。自分でもおかしいとは思っているんだが、助けを求める声が、早く帰ってこいってそんな声が聞こえる気がするんだ」

「マチルダさんが危ないってことでしょうか?」

「わからん。街の中で危ない事態なんて起こらないとは思うんだが……」

扉の前でそう言い、少しだけ迷いを見せたアレンの隣をイセリアが駆けていく。そして躊躇することなくその扉へと触れるとアレンへ振り向き笑った。

「では、行きましょう。私はアレンさんの勘を信じます。だから一刻も早く倒してマチルダさんを助けてあげてください」

「イセリア……おうっ!」

迷いのない真っ直ぐなその瞳に、自分の中の迷いの雲を吹き飛ばしてもらったアレンは徐々に開きつつある扉の隙間から体をぬうようにして部屋の中へと入る。

そこはアレンが以前、ネラとしてライラックの領主であるナヴィーンに褒美を授与された謁見室とは比べ物にならないぐらいの豪華で広い部屋だった。

高級そうな金縁の赤いじゅうたんの続く先には、主の座るべき王座が配されている。ただ、そこにはまだなにもいなかったが。

アレンに続きイセリアが部屋の中へと入り、開きかけていた扉が徐々に閉まり始める。そしてそれが完全に閉まりきった瞬間、空だったはずの王座がその主を迎えた。

それは漆黒よりも暗き者。羊のように折れ曲がった二本の角を頭に生やし、暗闇を見続けるためにあるような金色の瞳がじっと二人を見つめていた。

そして、ソレは優雅に立ち上がるとその背に生えた黒き翼を大きく広げる。その姿はまさしく悪魔だった。

「世界の変革を告げられし者どもよ。喜ぶがいい。貴様らは戦わずして生きて帰る権利が……」

「うっせえ、死ね!」

満面の笑みを浮かべながら口上を述べていた悪魔へと一瞬で肉薄したアレンが剣を一閃する。それは違うことなくその悪魔の首を切断し、その勢いで笑みを浮かべた悪魔の顔が宙を舞った。

これで終わり、と先を急ごうとしたアレンだったが、悪魔の両手が自分の首へと向かっていることをすぐに察知し背後へと飛ぶ。それと同時にイセリアが声をあげた。

「アレンさん!」

「ちっ、首を落としても死なねえのかよ」

イセリアの忠告の声に感謝することもなく、アレンは舌打ちしながら悪魔を睨みつける。その視線の先では悪魔が飛んだ自分の首を掴み、元の場所へと戻していた。

「ふぅ、人の話を聞くというマナーさえ守れぬとは、これだから下等な人間は……」

「悪いな、俺、下等な人間だわ。マチルダを守るためならそんなのどうでもいいって思うくらいな」

軽蔑の眼差しをアレンへと向け、そして再び口上を始めた悪魔へアレンが再度肉薄する。そして先ほどと同様に剣を一閃して悪魔の首を切り飛ばした。

「無駄だとわからんとは、貴様は本当に下等な人間らしい……」

とばされた顔を皮肉げに歪めながら、悪魔がアレンを嗤う。しかしその言葉が続けられることはなかった。それは……

「おらっ、さっさと死ね。消えろ。こっちは時間がねえんだよ!」

アレンの攻撃はただの一閃だけではなかった。宙を舞う悪魔の視線の先で自らの体が目にも留まらぬ攻撃によって細切れにされていく。

繋がっていたはずの感覚が徐々に消えていくその恐ろしさに、悪魔の顔からは余裕が消え、その顔面は蒼白なものへと変わっていた。

「ばかな、こんなことが。私は始まりを告げる者。新たな世の……」

「次に出会うことがあれば聞いてやるよ!」

うつろな表情でそんなことを呟いていた悪魔が、アレンの言葉に視線を向ける。そこには完全に消えうせた自分の体と、自分の顔目掛けて振り下ろされる赤を纏った銀の輝きが見えていた。