軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第24話 ドゥラレの冒険者ギルド長

翌早朝、通常通りに出勤するマチルダに同行する形でアレンも家を出ると、身が引き締まるような寒さを感じつつ町の中を2人で歩いていった。

地平線から登ったばかりの日の光に照らされるドゥラレの町は、まだまだ完全に目覚めたとは言えない様子だが、それでも2人と同じように活動を始めている者は少なくない。その中心はパン屋や食堂といった食事などに関連する店が多かったが。

「良い匂いだな」

「そうね。焼き立てを食べたいって思わせる匂いね。開店がまだだから出勤時間の関係でいつも買えないんだけど」

店の中から漂う焼きたてパンの香ばしい食欲を誘う匂いに、わざわざお腹をおさえる仕草をしながらマチルダが残念がってみせる。

それに対してアレンは苦笑しながらも、ギルド長との打ち合わせが終わった後に焼きたてパンを買って、マチルダのために昼食でも用意するかなどと考えていた。

そして冒険者ギルドまでやってきた2人は入り口で別れ、アレンはそのまま中に入ることなく通りを進んでいく。そしてしばらく歩いた先にあった、この町でもっとも歴史が深く、豪華な、現在イセリアが泊まっている宿へとたどり着いた。

アレンが扉を抜け、その中へと入る。宿の者にイセリアを呼んできてもらおうと視線をめぐらせ、そのロビーの椅子に座って待っているイセリアを見つけた。

「よっ、早いな」

「おはようございます、アレンさん。新人冒険者にとって早起きは基本ですから」

「金級の新人冒険者ってのもアレだけどな。んじゃ、しばらく時間をつぶしたら行くか」

「はい」

イセリアの、正解ではあるが常識とは外れた言葉に苦笑しつつ、アレンが対面へと座る。

そして宿のサービスで運ばれてきたお茶を飲みながら世間話などをして過ごした後、イセリアとともに再度冒険者ギルドに向けて歩き始めたのだった。

早朝というのは冒険者ギルドの中で最も忙しい時間の1つだ。なぜなら町の門の開閉の時間に合わせて貼り出される新たな依頼を求めて新人の冒険者が殺到し、その受注処理の対処にギルド職員たちは追われることになるからだ。

新人が受けられるということは、誰でも受けることのできる依頼であり、割の良い仕事を得るためにこうなるのは必然とも言えた。

昔のアレンのようにベテランになっても、街からあまり離れない範囲でなるべく割の良い仕事を得たいといった事情のある者がそれに混ざることもあったが、その混雑を嫌って朝一番のギルドには行かないというベテラン冒険者も少なくないほどだった。

そんな一番のピークは過ぎたとは言え、まだまだ騒がしいギルドへと入った2人はそこで意外な人物を見つける。酒場に近い壁に背をもたれさせ、受付に並ぶ新人の冒険者たちをどこか羨ましげな眼差しで見つめる美貌のエルフを。

「カミアノール」

「んっ、ああ。アレンか。それにイセリアも。君たちの噂は聞いているよ。新しいダンジョンを攻略しているんだってね」

「まあな。あんたもダンジョンの攻略か?」

「いや、私はダンジョンには入らないよ。というよりは入れないと言った方がいいかもしれないがね」

意味ありげに一瞬だけ視線をチラッと横へと向けたカミアノールのしぐさに、アレンがその先をさりげなく確認する。その先には腰まである髪を背中の位置ほどでゆったりと束ねたおっとりとした美人エルフの女性が少し離れた場所からカミアノールを見つめていた。

その憧憬が多分に含まれた眼差しはきらきらと輝いており、その美しさに心射抜かれる者がいたとしても恋する乙女とでもいわんばかりのその姿を見れば、自分の心にわいた想いを諦めざるをえないだろうというほどだった。

「ご結婚なされたのですか? おめでとうございます」

「各地で浮名を流した『流れ雲』もとうとう身を固めるってことか。刺されなくて良かったな」

2人から言い様はまるで違うが祝福の言葉を受けたカミアノールだったが、少し目じりをさげたその表情は嬉しいというよりも困ったとでもいわんばかりのものだった。

そのことについて2人が不思議に思い、その理由を尋ねようとしたその時、アレンたちがやってきたことに気づいて近づいてきていたマチルダが3人に声をかけた。

「アレン。イセリアさんを連れてきてくれてありがとう」

「おう。もう窓口のフォローはいいのか?」

「ええ。もう私がいなくてもほとんどの場合は大丈夫だから。頼もしい後輩もいるしね」

笑ったマチルダが指差した先では、ライラックから一緒に来た受付嬢であるリジーが、新人の受付嬢に呼ばれて何かを教えている姿があった。

忙しそうにしながらも頼られることが嬉しいのかその表情は明るく、そんな姿に見とれる冒険者やギルド職員は決して少なくなかった。

「ああいう風にしてれば自分の希望通りの男に出会えそうなんだけどな」

「うーん、意識しちゃうとダメなのよね。それより今は打ち合わせよ。打ち合わせはギルド長室でよろしいですよね?」

先ほどまでの砕けた様子から一変し、仕事モードへと入ったマチルダが放ったその言葉にアレンが周囲を見回す。

それは明らかに自分へと向けられていないものであり、その質問が向けられるとしたらギルド長である。こっそりとギルド長が近づいてきていたのか、とも思ったのだが周囲にはアレンとイセリアの他にはカミアノールしかいなかった。

首を傾げようとしたアレンの目の前で、カミアノールが当然のように口を開く。

「ああ、そうだね。この人数ならギルド長室でいいだろう」

「わかりました。アレン、イセリアさん。案内するわ」

そういって自然な感じで向きを変え、ギルドの2階へと続く階段に歩き出そうとしたマチルダの肩をアレンが掴んで止める。

「いや、ちょっと待ってくれ」

「なに?」

「さっきギルド長って、カミアノールを。もしかしてそういうことなのか?」

「このドゥラレの町の冒険者ギルドの長が誰かという意味なら、そこにいるカミアノールギルド長になるわね」

「えっ、冒険者をやめられたのですか!?」

にこやかに笑いながら答えたマチルダの言葉に、アレンは目を見開いてカミアノールを見つめ、イセリアも手を口に当てて驚きを示した。そんな2人の反応に苦笑いするのみで、全く反論をしないカミアノールの姿からはそれが事実であると語られていた。

「なんでまた?」

「事情があって冒険者を辞めなければならなくなったんだ。で、そのままだとヴェルダナムカ大樹林の中で残りの人生を過ごすことになりそうだったから、ここの冒険者ギルド長になるという仕事を引き受けたのさ。私にとってもここは思い入れの深い土地だからね」

壁越しに森の方へと視線を向けてやわらかくカミアノールが微笑む。それは悟りを開いたような穏やかなものであり、なぜかそれ以上追及する気をなくさせてしまうものだった。

若干その理由に心当たりのあるアレンは、追及した挙句にそれに関する話が出てしまうのを恐れたせいかもしれないが。

そんなアレンにだけ聞こえるような小さな声でマチルダがささやく。

「ねっ、驚いたでしょ」

仕事モードの真剣な表情から、その瞬間だけいたずらに成功した子どものような笑顔をのぞかせ、そしてすぐに元に戻って案内を始めてしまったマチルダの背中をアレンが見つめる。

そして天井を見上げて小さく息を吐くと、ほんの少しだけ頬を緩めながらその後について歩き始めた。