軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第9話 久々の再会

翌日、ギルドへと出勤していったマチルダを見送り、その直後にやってきたレベッカに連れられてアレンは1つの宿へと案内されていた。

以前、麓の村と呼ばれていたころには、1つしかなかった宿であるが開発が進みドゥラレの町となった現在では既にいくつもの宿が林立していた。とはいえ、それらは冒険者が泊まるための簡易なものがほとんどだったが。

アレンが案内された宿はそういった新しいものではなく、以前アレンたちがキュリオへの旅の途中で泊まったものだった。

以前の村ではその立派さに違和感を覚えるほどだった外見も、発展した現在の町の中では自然に見え、その変化に小さく頬を緩めながらアレンは宿を眺める。

そして2階の一室、以前ギデオンが泊まっていた部屋にレベッカに続いて入った。

部屋に入る前のやりとりで、扉越しではあるが声を聞いてそこにイセリアがいることは把握していたアレンだったが……

「大丈夫か?」

「ふふっ、いきなりですね。お久しぶりです、アレンさん」

「いや、まあ久しぶりってのは確かなんだが……」

思わずアレンが挨拶も忘れてそう声をかけてしまうくらいに、備え付けの椅子に腰掛けたまま2人を出迎えたイセリアの顔はやつれていた。

こけた頬、艶が鈍くなったように思える金髪など、アレンが最後に会ったときより確実に体重が落ち、体調も思わしくないのは一目瞭然だった。ただ、その瞳だけは以前と変わらぬ真っ直ぐな意思の力を感じさせるものであり、それがあったからこそなんとかアレンは冷静でいることができていた。

ちらっとアレンが視線をレベッカに向け、それに対してレベッカが少し眉根を寄せながら視線を一瞬だけイセリアへと向けてすぐに戻した。

先に言えよ、見せた方がいいと思ったんだよ、というような兄妹間にしかわからないやりとりを済ませ、アレンが小さく息を吐いて視線をイセリアへと戻す。

「用事があるってことだったが、それは済んだのか?」

「はい。少し色々ありまして、悩んだり考えたりしたので思ったより時間はかかってしまいましたが、それでも自分の中で結論は出ました」

「そっか。よくわからんがそれは良かったな」

外見こそ不健康そうであるものの、どこかすっきりとした自然な笑顔を浮かべるイセリアの姿にアレンが微笑む。

きっとその奥にはそんな短い言葉では言い表せないものがたくさんあったのだろうとアレンにも容易に想像はついた。なにせここまで容姿が変わってしまうほどなのだ。並大抵のことではない、そう考えていた。

しかしアレンはそれを聞こうとはしなかった。既にイセリアの中で決着がついている現状で、そうする必要は感じられなかったからだ。

もし未だに悩んでいて、イセリアの様子に危うさを感じられるような状況なら話を聞くなりなんなりしたのかもしれない。だがその澄んだ笑顔からはそういったものは感じられなかった。

「ご心配おかけしました」

「いや、気にするな」

お互いに笑いあってそんなやりとりをする2人をじっとレベッカが眺める。そして少し首を傾げながらぽつりと呟いた。

「なんかレン兄とイセリアさんって仲良くない?」

「いや、そんなことないぞ。他人を思いやるってのは人として当然のことだろ」

「わかりやすい反応ありがとう。レン兄がそういう風に答えるときって、大抵なにか隠してるときだよね」

平静をとりつくろってごまかそうとしたアレンだったが、そんなものが長年一緒に過ごした家族であるレベッカに通じるはずがなかった。じとっとした疑いの視線を向けられアレンが嫌な汗を流していると、くすくすという笑い声が背後から聞こえてきた。

アレンとレベッカの視線がそちらへと向き、手で口を隠しながら笑っていたイセリアがそれに気づいて小さく頭を下げる。

「ごめんなさい。兄妹仲がいいなあって思ったら、つい」

申し訳なさそうな顔でそう告げるイセリアの姿に毒気を抜かれたのか、レベッカがその表情を和らげる。そのことにアレンは安堵したのだが、すぐにレベッカに指をビッと向けられ体をビクリと震わせる。

「新婚なのに浮気はだめだからね、レン兄!」

「するか! っていうかそれイセリアさんにも失礼な発言だからな」

とんでもない発言をしたレベッカの頭をアレンがはたいてツッコミをいれる。

結構良い音が部屋に響き、涙目になりながら頭を押さえてうずくまるレベッカを見下ろしながらアレンはため息を吐いた。

「すまんな。うちの馬鹿妹が」

「うぅ……だって。イセリアさん、ちょっとレン兄が好きっぽく見えたんだもん」

「いや、だからな……」

「好きですよ」

あっさりと告げられたその言葉にアレンが思わず固まり、言葉を止めてしまう。イセリアの頬は赤く染まり、その表情には冗談の色は全く感じられなかった。

様々な考えがアレンの頭の中を巡り、どうやって断るのが最適なんだと数少ない経験や聞いた話などを思い返して動かなくなってしまったアレンに代わり、レベッカが立ち上がって不思議そうにイセリアを見つめた。

「なんか私が思っていた好きとちょっと違う。どちらかというと……」

「はい。たぶんレベッカさんと同じなんだと思います。私にとってアレンさんは、お、お父さんみたいな存在というか、その……」

膝の上に置かれた両手の指先をもじもじとさせながら、恥ずかしそうに言葉を紡いでいくイセリアの姿に思わず見とれ、そしてそれがどこかちょっと悔しくて八つ当たり気味にアレンのわき腹にレベッカが肘鉄を入れた。

「ちょ、レン兄。イセリアさんになにしたのよ!?」

「普通にいつもどおり接してただけだぞ。お前と一緒に依頼をこなして以降は、キュリオに行くときに試験官として一緒に旅したくらいだ。まあ、依頼人が変なじいさんで、色んな話はしたけどな」

アレンとしてはな、という言葉が最後に含まれていないことを抜きにすれば真実を、肘鉄を入れられたのにもかかわらず平然とアレンが告げた。

まるで金属にでもぶつけたような痺れに顔をしかめながら腕を振っていたレベッカが、アレンの仕草からその言葉が嘘ではないことを確信する。目を閉じ、うーん、と少し悩ましげな声をあげ、そして諦めたかのように大きく息を吐いてレベッカは表情を元に戻した。

「相変わらず、レン兄って年下にもてるよね。恋愛対象としては見られないけど」

「えっ、そうなのか?」

思いがけないその言葉にアレンが驚きの声を上げる。それに対して当然のように首を縦に振り、レベッカが言葉を続けた。

「うん。あんなお兄ちゃんが欲しいとか、羨ましいとかはよく言われたよ。恋人としては重そうだから嫌だけどってのもセットで」

「持ち上げといて落とすんじゃねえよ!」

「ふふっ、でもそう言った子の気持ちもわかるような気がしますね」

余計な一言を付け加えてにしし、と悪い笑顔をレベッカが浮かべ、それに対してアレンが少し目を吊り上げて怒り、そんな2人を優しく見守りながらイセリアが笑う。

まるで以前からの仲間であるかのような雰囲気が漂う中、しばらく雑談は続けられ、そしてそれが一段落したところでレベッカが切り出した。

「それで、昨日お願いしたことなんですが?」

「アレンさんと一緒にダンジョン探索ですよね。もちろん大丈夫……」

「じゃないからな」

「ちょ、レン兄!」

レベッカのお願いに対して、良い返事をしようとしたイセリアの言葉の途中でアレンが強引に割り込んだ。レベッカが非難の声をあげてアレンを見つめたが、視線を受けてもアレンは真剣な表情のまま首を横に振り、意思が固いことを示した。

「イセリアさんの体調が万全なら俺も反対しねえよ。だが今は明らかに違うだろ。そんな状態でダンジョン探索なんてさせられるか」

「うーん、それもそうだね」

「私なら大丈夫ですよ」

ぐっ、と握りこぶしを見せるイセリアだったが、その細い腕からは力強さなど全く感じられず、苦笑いをしながらレベッカが首を横に振る。

「お気持ちはありがたいんですけど、ダメなんですよ。こういうときのレン兄って強情だから。ほらっ、重い男ですし」

「おまえはー」

頭を掴もうとしたアレンの手をひょいっと避けながらレベッカが笑う。それに対してなんとも言いがたい表情をしたイセリアの反応におやっ、という顔をし、そしてすぐにニンマリと悪い笑顔をレベッカが浮かべる。

また変なことを考えてやがるな、と警戒するアレンには一切視線を向けず、取り澄ました表情へと切り替えたレベッカがイセリアへと告げる。

「あの、イセリアさん。私の店でしばらく働いてみませんか?」