軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2話 顔見知りの受付嬢

ふけ顔の冒険者と軽く飲み交わしながら、先ほどの武器に手をかけようとした愚かな冒険者とまではいかないものの、揉め事を起こす冒険者に何度かアレンは対応していた。

そのほとんどはアレンが早々に対処したおかげもあり暴力沙汰などの大事になる前に終わっていたが、その件数はライラックの冒険者ギルドよりも明らかに多かった。

思わずため息を吐くアレンに、おごると約束した3杯など既に超えて、そのふけ顔を赤く染めた冒険者がにやつく。

「相変わらず損な性格してんなぁ」

「うっせえぞ、アイク。そう思うんならお前も助けろよ」

「俺は報酬なしに働かないって決めてるんだ。無料奉仕する苦労性の先輩を知ってるからな」

へへっ、と意味ありげにアレンを見ながら笑うアイクに対し、アレンは舌打ちしつつもそれ以上なにも言うことはなかった。

ただアイクの目の前にあった皿からアイクが注文した焼き串を一本掴んで、そのまま口の中に放り込んで意趣返しはしたが、アイクはそれを見ても笑みを深めるだけだった。

アレンの選んだ串はアイクの苦手な野菜が間に挟みこまれていたので残していた串であり、それをわざわざ選んで奪っていったのだろうと想像がついたからだ。

余裕の態度で眺めてくるアイクに、じとっとした視線を送りつつ焼き串をほおばっていたアレンだったが、冒険者たちの列などとっくに消えたギルドの窓口に目的の人物が現れたのを確認し立ち上がる。

「じゃあな。ほどほどにしとけよ」

テーブルの上に金を置き、アレンはその場を離れていった。残されたアイクは、テーブルの上に置かれた約束の酒3杯よりほんの少し多い硬貨を眺めて笑いをもらす。

「だからそういうところだっての」

そんなことを呟きながら手を挙げて給仕を呼んだアイクは、その全額を渡して3杯の酒 だけ(・・) を注文し、嬉しそうな顔で足取り軽く戻っていく給仕の女の子の姿に笑みを深めたのだった。

報告を終えた冒険者たちが酒場もしくは既に家路につき、一仕事を終えたという空気を醸し出している窓口へとアレンが近づいていく。

余裕の表情をしている者や、明らかに疲労困憊といった者など、かなりの個人差を感じさせるギルド職員たちの姿を眺めつつ、アレンはライラックの冒険者ギルドからやってきた顔見知りの受付嬢の窓口の前に立った。

「お疲れ様でした。依頼達成のご報告で……なーんだ。アレンさんか」

「なにが、なーんだ、だ。あからさまに態度を変えんなよ」

にこやかな笑顔から一転、気楽な感じに態度を変えた受付嬢の姿に苦笑いしながら、アレンがサイン入りの依頼達成の書面を提出する。

それを受け取り、ささっと不備がないか確認した受付嬢がそれを後ろの事務方の男性職員に渡し、代わりに受け取った報酬をアレンへと手渡した。

「ほい、今日もお疲れ様」

「なんか以前にも増して扱いが適当になってきてる気がするんだが」

「私、釣り上げられた魚には餌を与えない主義なんです」

べっ、と舌を出してはにかみながら、受付嬢が視線をアレンから外してある方向へと向ける。そこには疲れを見せている新人の受付嬢を気遣いながら相談にのっているマチルダの姿があった。

同じくそちらへと視線を向けていたアレンの目が細まり、優しげな表情になる。

「くー、幸せそうな顔しちゃって。私だっていつか素敵な旦那さんを見つけてみせますからね!」

「ははっ、応援してる」

「軽っ! 余裕ですか、余裕なんですか? その余裕を私にも分けてください。具体的に言うなら将来有望そうで、金銭面も堅実、浮気もせず私を一途に愛してくれるような人を紹介してください」

「理想、高すぎだろ」

「きー!」

冷静なツッコミに、逆にむきになってしまった受付嬢をアレンが適当にあしらっていると、そこにこつこつと音を立てながら誰かが近づいてきた。

「リジー。見本となるべき先輩なんだからちょっと落ち着きなさい。それとアレン、変なことを言ってからかわないの」

「すみません、マチルダさん」

優しげな表情をしながらも、どこか圧を感じさせるマチルダの姿に、その受付嬢、リジーが反省を示し、先ほどまでの様子が嘘だったかのように楚々とした受付嬢の姿に戻った。

その変わり身の早さに小さく笑いをもらしながら、アレンも謝罪を口にする。

「悪かった。特にからかったつもりは無かったんだがちょっと騒がしかったな」

「その通りですね。アレンさん、今後は注意してください」

「リジー、ちょっと来なさい」

すかさず茶々を入れたリジーの名を、笑みを深めたマチルダがとてつもなく優しい声で呼ぶ。傍で聞いていたアレンでさえも背筋がぞくっとなるようなマチルダの姿に、リジーの額からは早くも汗が滲んでいた。

「あの、じょ、冗談ですよ。いやだなぁ。えっ、マチルダさん、ちょっと怒ってません? これってもしかして説教部屋行き案件だったりします? えっ、本当に?」

マチルダに手をとられ、奥へと連れられていくリジーから救いを求める視線をアレンは受けたが、アレンに出来るのは悲壮な顔をしながら首を横に振ることだけだった。

しばらくして感情が抜け落ちた表情をしながら、ふらふらと戻ってきたリジーに内心で戦慄しながらもアレンは窓口から少し離れた位置で待機していた。

リジーの姿をちらちらと眺めながら、落ち着かない様子の新人ギルド職員たちが醸し出す異様な空気が広がる中、奥の扉から平常どおりのマチルダが姿を現す。

その瞬間、誰もが口を閉じ空気も固まったが、当のマチルダはそれを気にすることもなく軽く挨拶をすますとアレンの元へとやってきた。

「待たせたわね、アレン。行きましょ」

「おう。でもいいのか、あれ?」

「大丈夫よ。冒険者ギルドはもっと大変なことだって起きる可能性があるんだし。それにリジーもそのうち復活するでしょ。あの子、立ち直りだけは異様に早いから」

未だに受け付けに座ったまま微動だにしていないリジーを眺め、本当か? と疑いたくなるアレンだったが、笑いながら肩をすくめるマチルダの様子には、ある種の確信さえうかがわせるほど自信に満ちていた。

まあ、ギルド職員として長い付き合いのあるマチルダが言うならそうなんだろうな、とアレンは納得し、マチルダに手を差し伸べる。

「じゃ、帰るか」

「そうね」

そっと握り返され、そして向けられた笑みに表情を緩めながら、アレンはマチルダと手を繋いで幸せそうにギルドを出て行った。

二人がいなくなり、なんとも言いがたい空気が広がる中、1つの窓口から声があがる。

「むきー、見せつけですか。私は仕事も出来て、愛する人も手に入れて順風満帆ですってことですか! くー、うらやましいー!!」

立ち上がり、そんなことを吼えるリジーによってそれまでの空気は一変し、皆がそれぞれ自分の仕事へと動き始め、ギルドは平常をとりもどしたのだった。

ただ1人を除いて。