軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第41話 ジーンの依頼を受ける者

ジーンの体調が急に悪化したりしないかと観察しつつ、アレンはあれこれしながら一晩寝ずに過ごした。

幸いにもジーンは特に吐いたりといったこともなく朝を迎え、窓から入ってきた日の光に顔をしかめながら起き上がると不思議そうにキョロキョロと辺りを見回し、そしてアレンを見つけて立ち上がろうとして顔をしかめ頭を押さえた。

明らかに二日酔いになっているとわかるその仕草に笑いつつ、アレンがコップに入れた水をジーンの元へと持っていく。

「おはよう。とりあえず水でも飲んどけ」

「ありがとう。兄さん」

ジーンはコップを受け取ると、ごくごくと喉を鳴らしながら水を一気に飲み干していく。その姿にアレンはすぐにお代わりの水を取りにいき、飲み干され空になったコップと交換した。

一杯水を飲んだことで少し落ち着いたのか、ジーンが再び受け取った水をちびちびと口に運んでいく。普段は酒など全く飲まないため、珍しいそんな光景をアレンは静かに見守っていた。

「そういや、改めておめでとう。学会の発表も良かったし、基金のこともな」

「うん。あっ、そうだ! 兄さん、いっ……」

「二日酔いの時に大声を出すと頭に響くから注意しろよ」

アレンの祝福の言葉に、ハッとなにかに気づいたジーンが少し大きな声を出しながらアレンを見上げ、そして再び顔を思い切りしかめて言葉が止まる。

その様子に笑いながらアレンは手を貸してジーンを立ち上がらせると、椅子へと誘導して座らせた。テーブルの上には消化に良さそうな食事が並んでおり、それを見たジーンのお腹がすぐにぐー、と音を鳴らす。

「食事しながら話そうぜ。腹も減ってるみたいだし」

「そうだね」

笑いかけたアレンに、ジーンが微笑を返す。そして2人は食前の祈りを捧げると料理を食べ始めた。

食事しながら、2人の会話は途切れることなく続いていた。研究のこと、学会で発表した時や基金を受けられるとわかった時の気持ち。その後にギデオンたちと話した様子など、少し興奮気味に話すジーンに、アレンが相づちをうつ形で。

そして話が一段落し、コップに注がれたお茶を飲んだジーンが真剣な表情でアレンを見つめる。

「実は兄さんにお願いがあるんだけど……」

「お前の研究の検証に付き合って欲しいってやつか?」

「ど、どうしてそれを?」

「いや、昨日酔ってたお前に言われたし、女王様にもおおまかな話は聞いたしな」

先ほどまでの話しぶりから昨日の記憶が全く抜けてしまっているんだろうな、という予想が確証に変わったことに笑いつつ、アレンがジーンの質問に答える。

そしてじっとアレンを見つめて、無言の内に先の答えを求めるジーンの姿に表情を真剣なものへと変えた。

「悪いな。俺には無理だ」

「なんで!?」

アレンのあっさりとした拒否の言葉に、目を見開きながらジーンが立ち上がり顔をしかめる。明らかに二日酔いの頭痛にさいなまれているのだが、その視線がアレンから外れることはなかった。

「この方法なら兄さんがステータスで馬鹿にされることもなくなるんだよ。お金の負担もないというより、逆にお金が支払われるんだ。兄さんが受けてくれないなら僕のやってきたことの意味は……」

「意味はあるだろ。学会でお前の発表を聞いた奴らの顔を見なかったのかよ」

徐々に勢いをなくし消沈していくジーンの言葉を途中で止め、アレンが笑いかけながらその頭を優しく撫でる。

うつむいたままそれを受け入れつつも、顔を上げないジーンにアレンは言葉を続けた。

「お前の気持ちは嬉しいよ。確かにレベルの割に低いステータスに俺は引け目を感じていたしな。だからって不幸だったかと言えばそうじゃねえぞ」

「でも、僕たちのせいで兄さんは……」

「逆だよ、逆。お前たちがいてくれたおかげで、俺は幸せだったんだ。みんな巣立っていっちまった今になって改めてそう思う。まっ、金欠はきつかったけどな」

顔を上げ、少し潤んだ瞳で見つめてくるジーンに、冗談めかしながらアレンが笑う。そしてまだ納得のいってなさそうなジーンの様子に、苦笑した。

「それに俺、もうすぐ結婚するつもりなんだ。帰ったら正式に話を進めるつもりってだけで具体的な話はまだまだなんだが」

「あの女気のなかった兄さんが結婚?」

「おう。引きこもりだったお前にまでそう言われるのはちょっとアレだな。まっ、そんな訳もあってライラックに俺は戻るから、お前の検証には付き合えない。そもそも身内を検証に使ったらデータの捏造とか疑われかねないだろ」

ぐりぐりっと最後に荒めに撫で、アレンがその手をジーンの頭から離す。寝癖ではない癖のついた髪の毛をそのままに、ジーンはじっとアレンを見つめ続けていた。

相変わらずの頑固さに苦笑しつつ、アレンが微笑む。

「俺は今、幸せだよ。好きな人と付き合って、その上結婚まで視野に入っているし」

そう言ってアレンが一呼吸置き、そして幸せそうな笑みでジーンを見つめる。

「それに、ジーンが俺のことをここまで大切に想ってくれて、頑張ってくれていたことがわかったんだ。俺には十分すぎるくらいだよ」

「兄さん……」

「馬鹿だな。泣く奴があるかよ」

ぽたぽたと涙を流し始めたジーンの姿に、アレンは席を立ってそのそばに近寄ると優しくアレンよりも大きな体をそっと抱きしめた。こいつの泣く姿を見るのはいつぶりだろうか、そんなことを思い出しながら。

その後、泣き止んだジーンはアレンが検証の依頼を受けないことを了承した。アレンの幸せを思えば、ここに引き止めることはありえない。それを理解したからだ。

昔のジーンであれば、もう少し時間はかかったかもしれない。しかしフルナゼーノと言う婚約者の存在はジーンに少なくない変化をもたらしていた。

とりあえずは一件落着したかに思えたのだが、ここで1つの問題が発生する。検証の依頼を受けてくれる冒険者についてだ。

ギデオンの基金から研究費が支給されることは決定しているので、冒険者を雇う資金が不足している訳ではない。

問題なのは正確な検証を行うためには、被験者は信頼のおける冒険者でなければ意味がないということだ。さらに言えばアレンとイセリアがした検証方法と同様の方法をとるのであれば、アレンがしたモンスターを連れてくるという役割を果たす冒険者も必要となる。

ジーンは適当な冒険者を推薦してもらうと言っていたが、それを聞いたアレンには一つの考えが浮かんでいた。それは……

「兄さん。僕はこの人が嫌いです」

「うっわ。お前がはっきり嫌いっていうなんて……ライ、お前マジで嫌われてるぞ」

「突然の呼び出しに応じて来てみれば、ずいぶんな言い草だな」

家に入ってきたライオネルを見るなり、冷たい視線を向けてそう言い放ったジーンに驚きつつ、アレンがライオネルに哀れみの視線を向ける。

宿にやってきたアレンに半ば無理矢理連れてこられたライオネルが、頬をひくひくさせながらもなんとか冷静に返したが、ジーンはその声さえ聞きたくないと嫌そうな顔をするだけだった。

そんな2人の間に挟まれながらアレンが笑みを浮かべる。

「最近ライと仲直りしたんだ。ちょっと行き過ぎた部分があっただけで悪い奴じゃねえんだよ。そんな奴ならライラックで期待の星なんて呼ばれるはずねえだろ」

「それは……そうかもしれないけど」

アレンのフォローの言葉に少しだけジーンの表情が緩む。しかしその嫌悪感が消えていないことがはっきりとわかる程度には渋い表情だった。

「おい、アレン。事情を説明しろ」

「そうだな。ライ、お前がこの依頼を受けたのって、じいさんからの指名依頼だったからってことだけじゃなくて、このキュリオで強くなるために参考になることがないか探すって目的もあったんだよな?」

「なんで知ってる?」

じろりとした視線を向けてくるライオネルに、アレンはニヤリと笑って返すだけでそれ以上はなにも言わなかった。ライオネルの仲間から聞いていただけなので別に秘密にすることもなかったのだが、これまでの態度の軽い意趣返しのつもりだった。

舌打ちするライオネルの姿に笑みを深めながら、その調査がうまくいっていないことをアレンが確信する。

「ライ、お前ジーンの依頼を受けろ。そうすれば時間はかかるが確実に今より強くなれるはずだ。詳細は親交を深める意味も込めて、後でジーンに聞くといい」

「に、兄さん!?」

アレンの突然の提案に驚くジーンをよそに、ライオネルはじっとアレンの瞳を見つめてその真意をうかがっていた。そしてアレンが全く冗談などではなく本気でそう言っていることを察すると、少し不機嫌そうな顔をしつつも首を縦に振った。

アレンはそんなライオネルに歯を見せて笑い返し、そしてジーンへと向き直った。

「ジーン。ライは、あいつのパーティの『ライオネル』は俺が知っている中で最も信頼がおける冒険者だ。きっとお前の望む方法で検証をしてくれる」

「でも僕は……」

少しうつむき体を強張らせるジーンの姿をアレンが優しく見守る。

ジーンはアレンの言葉の意味を理解している。それが正しいであろうことも。しかしそれでもアレンに心無い言葉をぶつけてきたライオネルを憎む気持ちは消えてはくれなかった。

そんな心情を理解しているアレンは、ライオネルに聞こえるくらいの大きな声で囁いた。

「ほら、依頼を受けさせちまえばライに対して命令できるんだぞ。もちろん限度はあるが、正確な検証のためにはある程度仕方ない部分ってあるよな。空腹状態だとステータスの上昇に影響が出るのかとか、徹夜するとどうなるかとかもついでに検証してみるのも面白そうじゃね?」

「おい、アレン!」

鋭い声でなにをさせるつもりだと言わんばかりの声色で名前を呼んできたライオネルに対し、アレンが肩をすくめて返す。そして顔を上げたジーンと視線を合わせ、アレンは本当に楽しそうに笑った。

ジーンはその笑顔に目を細め、そして大きく一度息を吐くとライオネルに向き合う。

「僕はあなたが嫌いです。でも兄さんが信頼するあなたを信じたいと思います。今のあなたより確実に強くなることを保証しますので、僕の依頼を受けてもらえませんか?」

そう言ってジーンがライオネルに向けて手を差し出す。ライオネルはその手をしばらく見つめ、そしてアレンへと鋭い視線を一度投げてからその手を握った。

「内容を聞かないうちに依頼を受けるなんてことは普通はしないんだが、まあアレンを信頼してお前の依頼を受けてやる」

握手をした2人がしばらく無言でにらみ合う。どちらも大切な存在である2人のそんな姿を、アレンは微笑ましそうに眺め続けていた。