軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第37話 お土産?

フルナゼーノに倒した赤の魔導書のほとんどを売り渡してアレンは小金を手に入れた。赤の魔導書よりもランクの低いモンスターを紙に使っているということで、金額的には損するだろうなと思っていたアレンだったが、その差はアレンが考えていたよりもはるかに小さかった。

それもそのはずで、フルナゼーノが購入するのは冒険者ギルドなどを通した後の金額であるため、その中には手数料などが上乗せされていたからだ。

イセリアが買った掃除道具類の支払いによって寒風の吹いていた懐が温まったことにアレンは上機嫌だった。

トラエノールの世話にも慣れ、許可をもらって魔道具の基礎などが書かれた本を次々と読むくらいの余裕をもってアレンは依頼をこなしていった。その合間に報酬である魔道具を選ばせてもらったり、ダンジョンに入るときにはどんな魔道具が必要なのか学生に聞かれたりしながら研究室で過ごし、そして家に帰ってはジーンの世話をする。

そんな充実した生活を続け、そしてついに学会が開かれる前日になった。その日も朝から研究所へと向かったアレンだったが、そこで会ったフルナゼーノに思わぬ一言を告げられる。

「もういい?」

「はい。先生の発作がやっと治まったようでお話が出来るようになったんです。せっかく来て頂いたのにすみません、お義兄さん」

「発作って、すげえ言いようだな。それはさておき、とりあえずもう大丈夫ってことでいいんだな」

「はい」

申し訳なさそうにしながらも、迷うことなくうなずいて返してきたフルナゼーノの姿にそれが本当だとわかったアレンは少し拍子抜けしながらも研究所をあとにした。

突然ぽっかりと空いてしまった時間をどう過ごそうかと考えつつ、アレンが通りをぷらぷらと歩いていく。

相変わらずジーンは部屋にこもったまま学会での発表の準備を進めている。食事時になれば世話することもあるが、それ以外の時間は完全に自由になってしまった訳だ。

「まっ、いい機会だからお土産でも買うか。せっかく別の国にまで来たんだし。結構な量のお土産はもうもらっちまったけど」

少し苦笑いしながらそんなことを呟き、アレンが通りの店を眺めていく。

先日、トラエノールの世話をしたことの報酬の魔道具を選ぶ時に、学生たちが次々とこれは自分が理論を考えたもので、などと説明を始めてお勧めしてきて、あげくに半ば強引にアレンにそれを持って帰らせたのだ。

そのため今アレンのマジックバッグの中には使えそうなものから、これ何に使えばいいんだというようなものまで多くの魔道具が収納されていた。幸いにもその中には親友のニックや鍛冶師のドルバン、弟のエリックに役立ちそうなものもあったのでそれらについてはお土産として渡そうとアレンは考えていた。

それがあるからという訳ではないが、アレンが今お土産を探している相手と言えば……

「もう2か月会ってねえし、帰る時間を含めたら3か月か? マチルダ、今なにしてんだろうな」

はぁー、とため息を吐いてアレンが物思いにふける。突然立ち止まって辛気臭い顔をする男の姿に、すぐそばの店の店員が少し嫌そうな顔をしていたがアレンは気づかなかった。

アレンはこのキュリオに行くためにライラックを出発してから、努めてマチルダのことをあまり考えないようにしていたのだ。考えてしまえばすぐにでも帰りたくなってしまうというのがその大きな理由だった。

しかしそろそろ終わりが見えてきたことで、それが緩み始めてしまい、結果としてマチルダのことを考える時間が増えていっていた。

「全力でとばせば数日で着くと思うんだよな。まあじいさんの護衛があるから無理だけどよ」

ふぅ、と今度は短く息を吐きアレンが気を取り直してマチルダへのお土産を選ぶために歩き出す。きょろきょろと店を眺めつつ歩いていくが、なかなかコレといった物は見つからなかった。

そうして2時間ほど歩き続けたアレンは、大通りの一本横の通りにあったこぢんまりとした店でその足を止める。建物の外見はこの街の他のものと同様に無機質なものだが、その店内はアレンにとって見覚えのある黒色の木材を使って作られており、どこか温かみのある落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

コンコンコンコンと何かを叩く音に導かれるようにしてアレンが店内へと入っていく。

店の中には他の客はおらず、カウンターに隠れるような形で座る1人の若いドワーフの女性がいるだけだった。アレンが入ってきたことに気づいた女性は、柔らかくアレンへと微笑むと再び視線を自らの手元へと戻す。

その手元にあったのは直径2センチほどの指輪であり、その内側に先端に近い部分がコの字型に曲がったいくつもの道具と金づちを使い文字を器用に彫っていくのをアレンは感心しながら眺めていた。

しばらくして作業を終えた女性が大きく息を吐き、そしてじっと眺めていたアレンに向き直って声をかけた。

「いらっしゃい。待たせてしまって悪かったわね」

「いや、いいもんを見せてもらったよ。さすが職人だな」

「まだまだだけどね」

少し照れたように笑いながら、まだまだ満足していないというその姿勢にさすがドワーフ、向上心が強いななどと思いつつアレンが改めて店の内部を見回す。

ハンギングツリーの素材を使ってシックにまとめられた商品棚には、数は少ないながらも先ほど女性が刻印していたのと同じような指輪やアクセサリーが並んでいた。そのデザインはそういったものに疎いアレンでさえ、ハッと目を見張るようなものである。

その値段も目をむくようなものだったが。

「これ、この街で売れるのか?」

「普段は全く。たまに商人が買い付けにくるくらいね。だからいつもは別の仕事をしてるわ」

「だよな。普通の大きな街とかなら貴族とか大商人相手に商売になりそうだが、この街じゃなぁ」

「いいのよ。私は静かに作品を作るのが好きなの」

あっさりと儲けることには興味がないと笑う女性の姿に、アレンも笑みを返す。そのさばさばとした性格に好感を抱いたのだ。

アレンが頭の中で自分の手持ちの金額を考える。赤の魔導書を売って得た金のほとんどを使えば買うことは出来なくはない。ただその場合、アレンの懐には再び寒風が吹いてしまうことになる。

それがわかっていながら、アレンが迷うことはなかった。

「よし、じゃ買うわ」

「えっ、お金あるの?」

「いや、いくらなんでもそれは失礼だぞ。確かに余裕がある訳じゃねえけどな」

ははっ、と笑いながらアレンが並んでいた指輪の1つを掴む。

シンプルな円形のリングの表面に、流れる水の様子が浮かび上がっているかのようなそんな涼やかなデザインにアレンの口の端が上がる。

この指輪をマチルダがつけたら似合うだろうか、そんなことを思い浮かべて。

「恋人へのお土産、というか帰ったら正式に結婚を申し込むつもりなんだよ。その贈り物としてどうかなと思ってな。デザインも気に入ったし、なによりあんたが良い人そうだしな」

「本当に、私の指輪なんかで良いの?」

「 あんた(・・・) の指輪が良いんだよ。なんというか恩人のドワーフにどことなく似ている気がするし。職人気質なとことか」

「ドワーフってのはだいたい職人気質だと思うけどね」

「かもな」

アレンの軽い返しに、その女性が微笑む。そしてアレンに少し待つように伝えて店の奥へと入っていった。

しばらくして木製の箱を手に戻ってきたその女性がアレンの目の前にそれを置く。

「この中から選んで。サイズが違うなら直してあげるから」

「いや、これって……」

仕切りに区切られた箱には、仕切りごとに同じデザインの大きさの異なる2つの指輪が並んでいた。そのデザインは様々で、店頭に並んでいたものよりも明らかに精緻な細工が施されている。

「売れ残りだから処分したいのよ」

「いや、それは無理があるだろ」

歯を見せて笑って見せたその女性に、思わずアレンがつっこむ。しかしその表情が一向に変わらず、引くこともなさそうだと理解したアレンは無言のまま目で感謝を伝えた。

そしてアレンはそれらの指輪の中から1つのペアリングを選んだ。細工のないシンプルなリングでありながら、光の当たる角度によって薄い青色の波のような紋様が浮かび上がるそれを。

アレンが以前贈ったネックレスと合わせても良さそうだ。そんなことを考えて。

「じゃ、これにするわ。サイズは……たぶんこのままで大丈夫だ」

「そう。じゃあ内側に2人の名前でも彫る? お望みなら簡単な効果の魔道具にすることも出来るけど」

「へー、そんなことが……魔道具にする?」

思わぬ言葉に、アレンが聞き返す。それに対して女性は特に自慢するでもなく当然のように答えた。

「うん。私、副業として研究所の依頼で魔道具を作ったりしてるから出来るわよ。とは言え指輪程度じゃ大した効果なんて無理だからね。ダンジョンの宝箱にはそういったものもあるらしいけど」

「いや、それでもすげえって」

素直に感心するアレンの様子に、女性の顔が思わず緩む。そんな中、アレンの頭にはふとある考えが浮かんでいた。

トラエノールの面倒を見ながらアレンは魔道具作りの基礎を本で学んだ。そして学生たちに冒険する時にどんな魔道具があれば良いかと聞かれて、アレンが最初に思いついたのはシンプルな効果の魔道具だった。

学生たちには簡単すぎて研究にならないと一蹴され、すぐに別のものへと話が移ってしまったが、自分なりにこれなら出来るのではないかとアレンは密かに考えていた。いつか機会があれば作ってみよう、そんなことを思って。

女性の提案を聞いて、それを指輪につけられないかと考えたのだ。

「なあ、こんな感じに彫って魔道具にすることって出来るか?」

リュックから紙を取り出し、アレンがさらさらと自らの考えた魔道具の回路を描いていく。全く迷いのないその動きに少し驚きながらも、その女性はその回路をじっと眺め、そしてアレンに対して首を縦に振った。

「出来ると思うわ。でも本当に魔道具になるかは私にはわからないわよ。知らない回路だし」

「十分だ。失敗したら俺が未熟だったってことの証になるし、マチルダならそれでもきっと笑ってくれるだろ」

「信じているのね」

「愛してもいるぞ」

そんな軽口を叩くアレンに、女性が軽く舌を出して笑った。

「胸焼けしそうね。夕方にまた来て。それまでに仕上げておくわ」

「頼んだ。金はその時で良いのか?」

「そうね」

「了解。ついでに良さそうな酒でも差入れとして持ってくるわ」

そう言い残し、アレンは嬉しそうな顔をして足どり軽く店を出て行った。そんな浮かれた後姿を眺め、そのドワーフの女性は柔らかな笑みを浮かべると、光を受けて青い模様を浮かばせる2つの指輪を握り、天を見上げたのだった。