軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第17話 腐れ縁の信頼関係

「彼女はリーラさんじゃない。ふざけたことを言うな、アレン」

ふんっ、と力をこめてライオネルが受け止めたゴブリンジェネラルの剣を押し返す。力では敵わないと察したのかゴブリンジェネラルはライオネルの力も利用して大きく後ろへと飛んだ。

ゴブリンジェネラルが空中で身動きできないその隙に、ライオネルは追撃をしようとするでもなくアレンへと憎々しげな視線を送る。

それを受けたアレンは特に気にすることもなく肩をすくめた。ライオネルにそういった口をきかれるのはいつものことだったし、ほんのりと赤くなったその頬から明らかな照れが察せられたからだ。しかも……

「いや、別に俺はリサナノーラの名前なんて一言も言ってねえぞ」

「ぐっ」

その一言に言葉を詰まらせたライオネルを見て、アレンがニヤリと笑う。

そして視線の先でゴブリンジェネラルが地面へと降りたのを確認して表情を真剣なものに戻した。

「まあふざけるのはこのぐらいにしておいて、任せていいよな?」

「誰に言ってる? 俺は金級冒険者だぞ。お前こそ死なないようにせいぜいあがくんだな」

「へいへい。木級なりに頑張りますよ」

軽口を交わし、アレンはエルフの女性のもとへと、そしてライオネルはゴブリンジェネラルと戦うために分かれた。

ライオネルに剣を受け止められたのにもかかわらず、周囲を取り囲むゴブリンたちはゴブリンジェネラルが勝つことを疑っていないのか動揺さえ見せずに包囲を維持していた。

そのほぼ中央でライオネルとゴブリンジェネラルの戦いが始まる。

「シッ!」

突貫してきたゴブリンジェネラルに対してライオネルが息を吐きながら繰り出したその横なぎの一閃を、ゴブリンジェネラルが自らの剣を斜めにして滑らせて避ける。

剣の下を通ってそのまま直進するゴブリンジェネラルがニヤリと笑いながら自らの剣をライオネルへと突き刺そうとし、その直前に慌てて地面を転がるようにして後ろへと下がる。

「ジェネラルにしては勘が良い奴だ。これで終わったと思ったんだが」

先ほどまでゴブリンジェネラルの首があった場所を素通りした剣を軽く振り、すこし感心したような言葉をライオネルがもらす。

あえて速度を抑えた大振りな一撃を放ち、油断した相手に対して切り返しの鋭い一撃を見舞って倒す。この流れは知能がある程度高いモンスターに対して、ライオネルがよく使う定石だったのだ。

その定石を避けられたのにもかかわらず、ライオネルが余裕の表情を崩すことはない。そんなライオネルに対してゴブリンジェネラルが牙をむいて威嚇した。

「来い。格の違いを教えてやる」

チラッとアレンの方を確認しつつライオネルがゴブリンジェネラルを挑発する。そして襲い掛かってくるゴブリンジェネラルをライオネルがいなす、そんな戦いが始まったのだった。

一方、エルフの女性のもとへと向かったアレンは目を白黒させているその女性へと気軽な感じで声をかける。

「大丈夫だったか?」

「え、ええ。なんとか」

「いやー、あの馬鹿が暴走した時はどうしようかと思ったが、結果的には良かったかもしれねえな。俺はアレン、あっちで戦ってる馬鹿がライオネルだ」

「あっ、私はセリオノーラです」

動揺している様子だったが、自らの名前を名乗ることができる程度にはセリオノーラが落ち着いているらしいことを確認したアレンはニッと安心させるように笑顔を見せる。

「立てるか?」

「はい、たぶん」

そして地面に腰を落としたままのセリオノーラへと手を差し伸べ、どこか遠慮のようなものを感じさせながら握られた手を少し強引に引き上げた。

立ち上がってすぐは少しふらつくような感じではあったが、怪我をしている様子もなくだんだんと普通に立てるようになったセリオノーラの姿にアレンがコクリと首を縦に振る。

「どうかしましたか?」

「いや、気にすんな。それよりあいつがゴブリンジェネラルを倒したら一気に逃げるから心の準備だけしといてくれよ」

「逃げるんですか? この状況からしてあのゴブリンが一番強いんですよね。なら倒せばもう大丈夫なんじゃあ?」

「ボスが倒されれば下が混乱するんだよ。どう動くか予想のつかない状況ってのは厄介なんだ」

そんな会話をセリオノーラと交わしながら、アレンは背負っていたリュック型のマジックバッグを前へと回して手を突っ込み、その中から幾つかの茶色の丸い玉を取り出していく。

その様子を不思議そうに見ているセリオノーラの姿に、そういえばとアレンは聞いてみることにした。

「そういやセリオノーラはファイアって使えるのか?」

「火系統の魔法は苦手なのですが、そのくらいであれば」

「上等上等。じゃ、俺が今だ! って合図したらこれをその辺に転がして火をつけてくれ。目くらましの煙が出るんだ。少しぐらい吸っても害はないから安心してくれ」

そう言ってセリオノーラに10個ほどの煙玉を渡したアレンが自らの分を用意しつつタイミングを計る。その中にはセリオノーラに渡した煙玉以外の物も含まれていたが。

セリオノーラは突然渡された煙玉を少しの間見つめ、そして着々と自分の準備に取り掛かっているアレンに気づいて慌てて問いかける。

「ちょ、ちょっと待ってください。アレンさんは、あ、あの、ライオネル様と逃げる方法とか、そんなこと話していませんでしたよね?」

「そうだな。まあでもあいつならきっと俺が何をするかわかってるさ」

「あぁ、長年パーティを組んでいらっしゃるからこその信頼というものですね」

「んっ、まあそんなもんだな」

納得顔でうなずくセリオノーラを眺め、少しだけアレンが苦笑する。

実際、ライオネルと組んでいたことなどはるか昔のことだし、今回の依頼で一緒になったといっても深く関わったと言えるのは今日が初めてと言っても過言ではない。

(余計なことを言って不安にさせる必要もねえしな。さて……)

アレンがそんなことを内心で考えつつ、まずライオネルとゴブリンジェネラルの戦いを確認し、そして周囲をぐるりと見回して状況を把握する。

これから起こりうる状況、そしてそれに対して自分がすべきことを考え、アレンは大きく息を吐くと首を一度縦に振った。

そして何度目かになるかわからないゴブリンジェネラルの突貫を視認したアレンが覚悟を決める。

「今だ!」

「ファイア」

アレンの合図にセリオノーラが煙玉をばら撒きつつ、焚き火する時に火付けで使う魔法であるファイアを唱えて火をつけていく。

転がる対象をファイアで狙うというのはなかなかに難しいはずなのだが、セリオノーラは1つもミスすることなくそれを成し遂げ、アレンたちの周囲でモクモクと煙が立ち昇り始める。

さすがエルフ、と心の中で思いつつ、アレンも先にファイアと唱えて火をつけた煙玉をライオネルの周辺に向けて放り投げる。

「ライ!」

「準備が遅すぎるぞ、馬鹿アレン!」

ゴブリンジェネラルの剣を受け止めていたライオネルがアレンに向けて罵倒を飛ばしながら、ゴブリンジェネラルを押し返す。

先ほどまでと同じようにその力を利用して後ろへと飛んだゴブリンジェネラルだったが、地面に着地するその直前、周囲を煙に囲まれ視界が悪い中見たのは自分の眼前に迫る銀のきらめきだった。

そしてそれがゴブリンジェネラルの最後に見た光景になったのだった。

ライオネルがゴブリンジェネラルの首を一閃して倒す最中、アレンは煙に囲まれ始め視界が悪くなりつつある中で手に残した小石をこっそりと周囲に向けて指ではじいていた。

(ライが止めを刺した瞬間を狙ってんだろうが、させるかよ!)

アレンが小石を飛ばした先にいたのは、こちらの様子をこっそりとうかがっていた冒険者らしき者たちだった。

放った指弾がその者たちの脳天や胸へと突き刺さり、小さく苦悶の声をあげながら倒れていくのを確認しつつ、アレンはセリオノーラの手をとる。

「行くぞ。頭はなるべく低く、でもできる限り速く走れ」

「は、はい!」

煙が目にしみたのか涙目になりながらうなずくセリオノーラを連れてアレンが走り出す。その途中、魔法を放とうとするゴブリンマジシャンに先ほどと同じように指弾を放ち、その脳天に穴を開けつつアレンがニヤリと笑う。

(うーん、ギルド職員として荒事をこっそり解決できるように練習していたことが役に立つとは……人生ってわかんねえもんだな)

そんなことを考えつつもアレンはライオネルが通った後を走り、そして無事にナジームやイセリアたちと合流したのだった。