作品タイトル不明
ルディル
泣き疲れて眠ってしまったニルヴァーナをベッドに運ぶ。
過去を含め、あんなに感情を露にした姿を見るのは初めてだった。
俺から言わせれば、ニルヴァーナの復讐は生易しい。
母親を『娼婦』と罵っただけでここまで罪悪感を抱くなんて。
過去を知っている俺からしたら、あれは復讐なんて呼べるものではない。
公爵令嬢という立場に雁字搦めにされ、家族という檻から抜け出し漸く自由に振る舞っていただけにしか見えない。
それなのに、『幸せになる資格がないっ』なんて思い詰めるなんて…
もう少し傍にいたかったが、眠っているのを邪魔するべきではないと後ろ髪を引かれながら部屋を出た。
「…ニルヴァーナは?」
部屋の前で様子を伺っていたのか、扉を閉めた瞬間声をかけられる。
「眠りました」
「…そうか」
いち早く孫に会いたいだろうに、眠っていると聞き部屋に入るのを残念そうに諦める人物。
二人で談話室へ移動。
談話室でソファに向かい合って座り、紅茶が準備されるまで無言だった。
二人の様子を察知し使用人は役目を終えると部屋から去っていく。
「侯爵はこれからどうするんですか?」
「あぁ。ギディオン王子の病も完治し私の役目も終えたので外交官という表向きの役職は辞職した。これからは孫の幸せのために出来ることをしたいと思っている」
本来であれば、侯爵は外交官だがウェルトンリンブライト王国の滞在は五年でオーガスクレメン王国に帰国する予定だった。
だが『キディオンの病を治せる医者、もしくは治療法を現地で見つけてほしい』と王妃から命じられた為に帰国が延期されていた。
「ニルヴァーナさんはあちらに戻るつもりはないそうですよ?」
「それで良い。あんな国に孫は任せられないからなっ」
娘が亡くなり孫の側に居てやりたいのを我慢し任務に当たっていたというのに、孫を託した男はとうの昔に裏切っていた。
嘘の内容が書かれた手紙を信じ、孫の苦しみに気が付かなかった愚かな自分に怒りを感じていた。
「侯爵もこのままここで暮らしませんか?」
この屋敷は俺の持ち家の一つ。
ウェルトンリンブライド王国の王都からもさほど離れていない場所で、栄えているが穏やかで治安もよく療養や憩いの場所として人気。
「何か裏がありそうな提案ですね」
「いや、いずれ義父となる人を味方に付けておこうと思っただけですよ」
「いくら孫を助けたからと言って、孫の気持ちを蔑ろにするつもりはない」
侯爵の言葉に棘を感じるが、長年娘を託していた者に裏切られていることにも気付かず孫が亡くなってから苦しみを知ったんだ。
今では誰が相手でも簡単に孫を託す気はないだろう。
「あぁ。俺だってニルヴァーナさんの気持ちを無視することはしませんよ。侯爵は過去の記憶を取り戻したことを、ニルヴァーナさんにいつ伝えるんですか?」
ニルヴァーナと俺だけでなく、ヨシュアルト侯爵にも過去の記憶がある。
「…いや。私はつい最近記憶を取り戻したとはいえ、あの子を助けられなかった…伝えるつもりはない」
「…そうですか」
記憶を取り戻した俺も、ニルヴァーナを直接助けられてはいない。
彼女は自力で立ち向かっていた。
それに、侯爵が真実を話さないのにはもう一つの理由がある。
今回、時間が戻ったのは俺と侯爵がある儀式を行ったのが原因だ。