作品タイトル不明
放課後
放課後になり、以前呼ばれた部屋に王子と共に向かっている。
同じクラスなので一緒に行っても周囲に怪しまれないというか自然というか…時間をずらそうにも同じクラスなので授業が終わるのも一緒。
向かう場所も一緒なので行動が一緒になる。
そうなると別々に行くのも相手に嫌な気分にさせてしまうのでは?と思い一緒に行くしかなかった。
一緒に行動したとしても、王子が私を誘う時に「婚約者候補として最終確認」と言っているので特別な関係ではない事はその場にいた候補者達が証人となってくれるだろう。
なので、後ろめたさを感じる必要はない。
ただ、誤解を与えてしまう可能性があると言うだけ…
廊下を共に歩く私と王子は今でも特別に親しいわけではないが、私達の関係を知らない生徒には興味津々に映るようで歩いているだけで注目を浴びてしまう。
周囲の目を気にしていないように歩くも彼らの視線が気になり確認すれば、期待に満ちた目をしているようにも見えた。
彼らに誤解されぬよう親しさなどないですよと表すために会話することなく私は徹底して婚約者候補の一人という立場を演出した。
部屋に入れば王子と二人きりではなく、一人の使用人が私達を監視している。
きっと、婚約者候補が実力行使で既成事実の可能性を考え目撃証人として使用人を配置しているのだろう。
当然だが紅茶を配膳したりと本来行うべき使用人としての仕事も熟している。
「同じクラスだが、会話するのは久しぶりだな」
使用人など気にすることなく王子は会話を始める。
王子の発言通り、私達は挨拶を抜けば会話らしい会話は三年になりローレルに絡まれた日が最後だった気がする。
「そうですね」
素っ気ないわけでなく、それ以外答えられなかった。
「試験はどうだった?」
なんて答えれば良いのか分からない。
二度目なので難しい事はなかったが、過去と同じ問題でもないので答えは知らない。
問題の傾向を知っている分、皆より有利ではあるのは確か…
「普段…通り…ですかね?」
卒業資格の掛かった試験なので緊張するものだが、私にはその緊張がなくいつもの試験のような感覚だった。
「普段通り首席か?」
「いやっそれは結果を見てみないことには分かりません」
「そうだな。ニルヴァーナ嬢程の能力であれば官僚試験も合格しそうだが、受けるつもりはないか?」
「それは…」
官僚試験については教師からも提案されていたが、まさか王子からも提案されるとは思っていなかった。
官僚試験は男性が受けるものという固定観念があり、女性が過去に受けたのは平民だけ。
貴族令嬢が受けたことは一度もない。
それに過去の私も官僚試験を薦められた事はなかった。
「ニルヴァーナ嬢のような人物が傍に居てくれると私としても信頼して頼みやすい」
あぁ、年齢の上の人に仕事を頼むより過去に同級生だと気兼ねなく仕事を押し付け…回しやすいということね…
「私は…官僚試験を受けるつもりはありません」
ローレルを婚約者に選んだ王子の傍になんて居たくない。
「それは…残念だな…」
今、目の前にいる王子は私を断罪した時に軽蔑するような目を向けた人とはまるで別人のように優しい表情を見せる。
それでも私は過去に体験したことを忘れることはない。
私の弁明など一切聞かず周囲の言葉だけを鵜呑みにし、私の努力を踏みにじり追放した男。
過去、ローレルに向けていた笑みを今の私にも向けられたとしても、あの時のローレルのように私は王子に心を奪われることはない。
「それより、婚約者辞退の件はどうなりましたでしょうか?」
そんなどうでも良いことより、私にはこちらの方が大事。
「…辞退…その事なんだが、令嬢側に病気や怪我など分かりやすい瑕疵があれば受理されやすいんだが本人の「希望」では難しい。ニルヴァーナ嬢が学園で優秀な成績を収めていのは王宮にも上がっている。貴族が王族の婚約者を辞退したいというのは…」
なんとなく王子な言葉から察した。「王族の尊厳を汚してはならない」と言いたいのだろう。王族が婚約者候補を振るいに掛け切り捨てるなら問題ないが、貴族が王族との婚約を辞退するなどあってはならない…
「ですが、私の出生を考えれば婚約者には相応しくないかと…」
「ニルヴァーナ嬢に尋ねるが、亡き夫人がそのような女性であったと誰から聞いたんだ?」
出生について先に口にしたのは私。
この切り札を出せば大抵の相手は怯むと知っているので使っていたが今は私が逆に追い込まれてしまった。
切り札を他で乱用し過ぎてしまったのかもしれない。
王子に探るような目で見られると、追い詰められていると感じ言葉が出てこなくなってしまった…
「…それ…は…」
なんて応えたら良いのか躊躇ってしまう。
私のお母様を「社交界で紳士を誑かす娼婦のようと言われていたのは、公爵と結婚される前からなのよ」と私に教えたのは過去の公爵夫人…ローレルの母だ。
今回の人生ではあの人から聞かされる前に、大勢の前で私があの男に「娼婦の娘である」と宣言した。
それで私があの男の怒りを買った事をローレルの母も知っている。
私を蔑ろにしている公爵の様子から前夫人とも不仲だったのではないか?と決めつけていたのか、とても驚いていた表情を見せた。
なので、今回の人生でローレルの母が私のお母様を「娼婦」と口にすることはなかったし、ローレルの母に媚を売っている使用人達も今のところ誰も私のお母様を「娼婦」とは口にしていない。
「やはり、後妻のミランダ公爵夫人か」
「ぇっ?」
何も言わない私に答えを見つけたのか、王子はローレルの母の名前を口にした。
「あれから、有力な候補者を更に詳しく監視・調査された」
有力候補という言葉より「監視」という言葉の方が威力が大きかった。
「…そう…ですか」
王族との婚約となれば国に関わる。
何度も調査され、令嬢に瑕疵がないかを監視するのは当然か…
「…卒業式のパーティーのドレスは大丈夫なのか?」
「へっ?」
「あちらは毎週のようにデザイナーと打ち合わせしているそうだが、その席にニルヴァーナ嬢の姿はなかったと聞く」
貴族の内情がそこまで筒抜けなんて。
これは王族の情報網が優れているのか、公爵家の情報管理が甘いのか。
どちらにせよ嘘は難しい。
「きっと、なん着か頼んだドレスの中から当日ローレルが選ばなかった物を私が着用するかと…」
というのは嘘。
ローレル達は同じ生地で野暮ったいデザインのドレスをわざわざ製作し、私に着用させる予定。
それは過去のように。
「なら、僕が贈ろう」
えっ?
今、なんて?
過去そんなことは仰いませんでしたよ?
急にどうされたんてすか?
「…それは…贈られる理由がありません。婚約者でもない私にそんなことをしてしまえば周囲から誤解を受けますので王子の優しさには感謝いたしますが、遠慮させていただきます」
「これは…その…謝罪だっ」
「…謝罪?なんのですか?」
王子に謝罪されるようなことなど思い当たらない。
「…ぃ…一年の時にニルヴァーナ嬢の不正を疑ってしまった事へのだ」
「一年の…それはもう時効っ」
「私が勝手に贈るだけだ。着用するかどうかは届いたドレスを見てから決めてくれ」
私の言葉を遮り早口で告げられる。
「いやっあの…」
「話は終わりだ。付き合わせて悪かった。馬車まで見送り出来ず申し訳ない」
無理やり会話を終わらされ、ドレスを拒否することを受け入れてはもらえず強引に部屋から追い出されてしまった。
「なんか、過去と違うことが起き過ぎてる…」
王子が私にドレスを贈るなんて考えられない。
過去、私の試験が不正だと調査することなく一方的に決め付けた張本人が、不正を疑ってしまったことへの謝罪だなんて信じられない。
きっとドレスも信用するべきではないだろう。
本当に届くのか、届いたとしても娼婦に似合いのドレスかもしれない。
王子からの贈り物なんて期待してはいけない。
「あんな男、信じるもんかっ」